対 四
「逃げるにしてもなんにしても、結局、
ポケットから取りだした珠玉を握り締めてそう言い遣った。
雷韋の言葉が終わったと同時に陸王は息を吐き出した。そして再び椅子に腰掛け直す。
「……
「は?」
雷韋がきょとんとして言葉を零す。それに反して、
そこで陸王は雪李から目を離さないまま言った。
「サルガキ、お前にも分かり易く説明してやる。お前、確か什智がお前が持ってる精霊だかが宿っている珠を使って、この世を支配するとかなんとか聞いたって言ってたな。そりゃ簡単に言うと、国家転覆を
「いやいやいや、この珠玉にはそんな力ないよ。破壊の力しか有してない。絶対だって。下手すりゃ大惨事になる。ん~、そうだなぁ、ここの領地がなくなるくらいの威力? 自分も含めて。でも、国をどうこうするなんて無理だよ。間違いないって。その前に身の破滅だ」
慌てたように雷韋が口を挟む。
「そんな事ぁ、奴には関係ねぇ。珠の力が実際にはどういうもんだろうが、どれほどの威力があろうが、奴は珠の力でアルカレディア大陸を支配下に置けると思っている。そして、まずその矛先が向けられるのはこの国だ。つまり、国家転覆を謀っているってのと同義だ。お前がいくらそんな事は出来はしねぇと言っても、奴はそれが出来ると思いこんでいやがるのさ。奴はお前が処刑されると思って、べらべら喋った。その結果、珠を取られた上にお前に逃げられた。……もし、お前の口からそれが漏れたら奴はどうなる。この国のどの領主に知られてもまずいな。国王にその事が奏上されれば、反逆罪に問われる。そして俺が狙われる理由は、お前の仲間だと目されているからだ。奴は俺とお前が秘密を握ってると信じてるんだよ。まぁ実際、俺も知っちまったわけだが。……だから俺にまで、多額の賞金をかけたってこった」
一気にそこまで言い切って、分かったかと雷韋に問いかける。
雷韋は陸王の説明を聞いて呆然とした。
「はぁ? なにそれ」
「言ったままだが」
陸王がなんでもない事のように淡々と口にすると、雷韋は俄に眉根を寄せた。
「あいつ、馬鹿じゃねぇの? この珠玉が暴走したら、あいつも含めて一つの領地が壊滅するだけだ。それでどれだけの人が死ぬと思ってんだよ。あいつが持ってても、大惨事になるだけだ。でも、
そして何を思ったか、雷韋はいきなり両手を卓に叩き付けた。
「ほんと、ばっかじゃねぇの!? 俺達があいつの秘密を知ったからって、それで俺達を捕まえて処刑しようってのか? 冗談じゃねぇよ。この珠玉はあいつに害しか与えない。これは精霊使いにしか扱えないんだ。つまりは俺のもんだ、絶対! 誰にも渡さねぇ!! だって、植物が守護精霊の妖精族にだって扱いきれないんだから!」
雷韋の細かった瞳孔は、興奮のあまり完全に開ききっていた。青く変化した瞳の色も微かに黄みがかっているように見える。顔も紅潮していた。
雪李から目を離して、陸王はその様子を難しげに見遣っていた。そして言う。
「闇の妖精族が珠を雷韋に渡したままの理由だが、おそらく珠の暴走を抑えたかったんだろう。什智が手にすれば、暴発する危険性が高まる。だが、お前が持っている限り、珠を暴発させる危険性はないと踏んだんだろう」
「だから、俺に?」
自分を指差して、急に雷韋は不可思議げに問う。
「そうだ。初めて出会った時も、今も、お前は自分の守護精霊が火だと言ったな。だとしたら、火が守護精霊のお前がその珠を持っていた方が安心だ。あとで取り返せばいいだけだからな。力尽くだろうがなんだろうが」
「そんな理由で俺に渡したままのか? それも、あとから力尽くで取り上げる? 俺は争いは好きじゃない!」
卓を叩き付けた手は握り込まれ、ぶるぶると震えている。その雷韋の肩に雪李の手が
「まぁ、そう興奮しないで。……それにしても、二人がエウローン領に滞在しているのは何故かな。包囲されるのを覚悟の上でここにいるようにしか思えない」
「俺はローランで自分に賞金がかかっている事を知った。そして什智に賞金を取り下げさせる途中、
「それで結果的に立ち往生してしまった? それは偶然にしてはすぎるね」
そこに雷韋が割り込んだ。
「世界を回しているのは精霊だ。精霊は人の運命を司る。俺と陸王がここに閉じ込められたのも、全部、精霊達がここにある問題を解決してくれって言ってるんだ」
「運命だと? 笑わせるな」
突然、陸王が
「運命なんてもんはな、手前ぇの力で切り開いていくもんだ。誰かに押しつけられるもんじゃねぇ。俺達がここにいるのは、単なる偶然だ」
陸王が面白くなさげに言うと、でもねぇ……、と雪李が口を開く。
「運命にしろ、偶然にしろ、闇の妖精族はなんとかしないといけない。何をしでかすか分からないからね。それに、グローヴ卿はこの国でも悪名高い領主だ。領民に苦役を強いているってね。税もとても重いらしいよ。彼は自分の欲の為ならなんでもするって噂だ。そう言う意味では、闇の妖精族と通じるところがあるね」
「で? 奴を嫌っている領主は誰だ」
陸王は再び、じっと雪李を見詰める。雪李もそれを見返した。そのまま暫しの沈黙が流れる。
「……彼を嫌っている領主なんて、全員だと思うよ。この国には王都を除いて六つの領地がある。そのうちの五人の領主の誰もが、噂でも好いてるとは聞いた事がないね。そんな事を聞いてどうする気?」
「つまり、ここの領主も嫌ってるわけだな? なのに手を貸してる。それは何故だ」
「さぁ。僕は単なる領民だし、エウローン卿を見知っているわけでもないから、卿が何を考えているかなんて分からないよ。例えば、何かの利害関係が一致しているのかも知れないし、ただの近所のよしみかも知れないし」
雪李は肩を
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