第202話―サファイア邸からの歓迎バレンタインパーティー―
とうとう迎えてしまった。
この日は二月十四日バレンタインデー、貰う予定や確信のなある人からすれば緊張と期待で膨らむ一日。そして貰えない人からしたら昨日と変わらず
昔は後者だったが氷の妖精との出会いから前者となっていた俺は複雑な気持ちでパソコンに向かい合っていた。
(バレンタインイベント小説を投稿と。
無事に書き終えたけど……俺が渡されるバレンタインチョコは普通であることに神に祈ろう)
この日は快晴とは言えないが天候は晴れている。時間は正午でそろそろ食事でも取ろうと席を立ちキッチンに移動する。
(今日は果物にしよう。バナナ一本)
おそらく貰う量は想定して十以上になるだろう。これを食べ終えたらサファイア家に出向いて家事やイベントの準備をしないとならない。
(頼むから平穏な一日で終わってください!)
ちゃんと祈ったのに……神は無常である。
いやそもそも神なんていない。有名な哲学者だって言ったじゃないか。【神は死んだ!】と。
フリードリヒ・ニーチェの至言であるがこれはキリスト教の信仰は信ずるにあたいしない。という宗教否定とも取れて他にも込められているとされるのもあり、それは。
絶対の視点は存在しない。
どんな英雄や賢者であっても絶対な解釈や見解はないと妄執的に物事だけをみていることに批判していると俺はそう解釈している。
まあ彼はこの言葉を思いついたのは恋人に振られてからで自暴自棄らしい。
「山脇さんこれ日頃の感謝ですわ」
エントランスホール。
雑巾まで高級な道具で窓拭きを始めようと行くと同じ使用人から貰った。言葉使いや所作から貴族と推測する若い女性で年齢は二十代半ばで煌めくような黒髪。
ちなみに彼女だけじゃなく他の人も多数。
逃がすまいといわんばかりに取り囲まれていた。
「ズルい。山脇さーん受け取ってください」
「これはお礼の品です。
旦那様が姉妹たちが楽しそうであるからと喜んでいらっしゃていましたわ」
「受け取ってくれぬか?これは我が魂をかけた渾身のバレンタインチョコ。なに友チョコだよ」
堤防が決壊して溜まっていた水が流れ込んでいく。洪水みたいに集まって俺はバレンタインチョコを断ることや感謝する言葉を送ることが出来ずにいただくのであった。
そして最後となる。
「こ、心からお慕い申していました。あわわ、それでは仕事がありますので失礼します」
「ありがとう……嬉しいけど罪悪感が」
ようやく沈黙した。
冬雅がいるから後で断らないといけないのかと悩みも増えた。いったいバレンタインチョコを沢山もらえて自慢マウントする気分にもなれない。
いっそうの事モテずに変わらない一日でソシャゲだけ貰っていた数年前あの頃に戻りたい。
義理チョコ(ほんとうに義理を感じたもの)本命チョコ(ほぼ世間話しかしていないはずの)まで貰い、この量がそれだけ好意や好感を持たれていることは素直に嬉しくあった。
でも本命チョコだけは後のことを考えたら。
「ずいぶんと貰ったようですわね」
「グレイスさん?」
年下の上司であるグレイスさん。
振り返ると階段から降りたとみえる。腕を組んでグレイスさんはこちらをおもむろに歩いて近づく。
前に止まるとソワソワ。どうしたのですかと尋ねようと口を開くよりも早くグレイスさんはメイド服のポケットから小さな箱を差し出してきた。
「深い意味はない。ただの感謝にすぎない!決して真心をこめて手作りなんかしていない。さあ受け取ってくれるわよね。
もし受け取らないとするのなら解雇処分も検討させてもらう。さあどうする山脇東洋」
「…………あ、ありがたやー」
真っ赤な顔をしたグレイスから箱を頂戴しました。おそらくバレンタインチョコだろうセリフや今日を加味して。
「せいぜい今日も清掃を励むことね」
「は、はい」
髪を優雅に払ってグレイスさん階段を登っていきました。マシンガンのような間断のない言葉だった。機嫌を損ねたのは他の使用人から多くを貰ったから?いや、まさかね。
――サファイア家のご息女ペネロペお嬢様がご帰宅された。出入口で迎えるため通過される道の左右に移動して配置。
そして「「「お帰りなさいませ、お嬢様!」」」と一糸乱れぬ言葉で出迎える。立ち去るまで顔をは決してあげない。列の一人である俺のところでペネお嬢様は足音が止まる。
「後でわたくしの部屋に来てもらいます」
この日が来たのか。
バレンタインチョコを渡されるのだろうと俺は顔を上げて返事する。そして彼女の後ろにな花恋や猫塚さんの姿が捉える。
学校の帰りとみえて制服姿。足音が聞こえなかったがペネお嬢様よりも後ろに歩いたからだろうか。
「かしこまりました。ペネお嬢様」
そして用事を片付けてから部屋にむかう。
ドアを叩くと「入ってください」と声が聞こえて静かに中へと入る。
「やっぱりここで使用人な東洋お兄ちゃん。
なんだか新鮮だよね」
制服姿から赤いドレスの花恋が率直な感想。
「うん、そうだね。兄が私たちに尽くそうとするのとても面白くて楽しい!」
賛同する猫塚。アイドルも制服から青のドレスといつの間にか着替えられていた。
「よく来て下さりました。お兄様それではバレンタインパーティーを行いますわ」
純白のドレスを身に纏うペネお嬢様はブドウジュースが入ったワインを持ち上げて開催の言葉を告げた。
「えっ、バレンタインってパーティーもあるの」
周りをよくみると飾り付けされている。
きっと同僚たちがこの日のために用意したのだろう。食べ物が並んでいてほんとうにパーティーを催している。
「そうでござるよ。宴がよろしかったのですが響きが好きでは無いと二人に却下されてしまい。お忘れするところでした。
はい、お兄様バレンタインチョコでござる」
「ありがとう」
早速ペネお嬢様からバレンタインをいただいた。
「このチョコは長い伝統に培われた製品。
それからダロワイヨの名前は店舗として天下に広めたのでござる。フランスの有名ブランドとして」
ま、まさか渡されたのは高級チョコだとは分かってはいたけどダロワイヨが作られた製品だったなんて。
恐れ多くもバレンタインチョコ、それもペネお嬢様から頂くなんて今になって手が震えはじめる。
「た、食べるのがもったいない!?」
「おにいさま!これわたくしからですわ」
そしてペネお嬢様の妹君からもバレンタインチョコを頂いた。妹君も高級品ではあったが以前テレビで見た事ある四千円ほどするものなので萎縮することは無かった。
「ああ。ありがとう嬉しいよ」
反応からして義理チョコか友チョコだろうか。いや感謝チョコ、それ義理チョコじゃないかと自分で自分につっこむ。
「凄いもの貰ったね。あの兄……はい。
これは日頃の気持ちです」
「ありがとう猫塚さん」
頬を赤くした猫塚さんからバレンタインチョコをもらった。これはどんな想いで込められたか俺はそれを知っていた。けどこれは義理チョコだと表情で笑みを作って応える。
「次は私の番。はい、もしかしたら私が渡されるの期待していると思って作ったんだから。感謝するようにね。
東洋お兄ちゃんは若い女の子にデレデレするロリコンだけど。バレンタインチョコを渡さないわけにはいかないから。ほらお世話なっているし、そういうことよ」
まるでグレイスさんみたいだと俺は苦笑してバレンタインチョコを受け取る。
「あ、ああ。もちろん分かっているよ。
ありがとう花恋」
「……ふん!」
今日はツンデレな花恋。
三人の女子高生からバレンタインチョコを受け取ってからパーティを楽しむのであった。
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