第189話―除夜詣―

年末の日、そう今年の最終日。

新しい年神様としかみさまを迎える日であるため総決算に大掃除する家庭ルールもあるが控えた方がいいとされる縁起でそう昔から決められていた。目安的には28日頃ぐらいには終わらせるべきと漠然的にあるらしいが当日に掃除を持ち越すかは人それぞれでいいと思う。

古来にならって掃除を済ませていたが昼過ぎ俺は彼女の家で大掃除をしていた。


「いつも頼ってごめんねぇ。お疲れ様でした!お兄ちゃん手伝ってくれたらクッキーを作ったのです。良かったらコーヒーと食べませんか」


二階の部屋。一階から二階までの順で掃除をして片付けると冬雅の部屋でゆっくりとしていた。

まだ恋人未満の仲ではここは床や家具がヒドイものではあった。そして恋人以上になってからは掃除要員として呼ばれ案内された部屋はキレイに片付いていた。それでも隅々までとはいかないのは忙しい身を考慮すれば清潔感の部類に入るだろう。


「クッキーとコーヒーは相性は抜群コンビ。

褒美としては最高だよ」


「ううん、わたしからしたら食べて欲しいから作った真心で。

な、なので褒美というよりお兄ちゃんのためでして」


身をよじながら訂正をする冬雅。

褒美という言葉が響きが悪くて反射的に言った冬雅はローテーブルの上に置くと次はコーヒー運ぼうと部屋を出る。

待っている間にクッキーをたべるわけにはいかず、その間は女子力が向上した部屋を見渡した。

一分ほどして冬雅が戻ってきた。


「お兄ちゃん初詣は今日の夜に行きませんか」


向かいには回らず隣に腰を下ろす。


「夜か、ああ冬雅がそれでいいなら」


「決まりですねぇ。よし!除夜詣デートは、忘れない日にさせます。な、なので大人展開とか楽しみにしてくださいねぇ」


真っ赤な顔になって冬雅はそう宣言するのたった。

――いったん彼女の家から出ると数歩で自宅に帰る。約束の時間帯まで俺は執筆して過ごす。

恋人が成人になっても変わらない生活に我ながらおかしくなり1人で苦笑する。

そして約束の時刻となり家を出て、冬雅の家にインターホンを押す。すると音がまだ鳴っているはずなのにドアが開いた。

この迅速な行動には驚愕というよりも想定内だった。薄々と感じていたのだ……冬雅なら着替えを終えて玄関がインターホン押すのを待っているのを。


「わぁー、お兄ちゃん似合っています。

漆黒の着物かわいくて胸きゅんしてしまいます!」


ちなみに俺が初詣のために着ている着物は冬雅がこしらえたもの。今時かなり珍しく俺のために自ら作ってくれたもので素材は高い出費になることで軽減のためサファイア家の不要になった衣装などで使われている。


「ど、どうも。というより俺が可愛いのは違うような……冬雅のほうが断然に可愛いじゃないか」


「そ、そうかな。でもお兄ちゃんがツンデレで褒められるなんて!えへへ」


「んっ?ツンデレなセリフだった?」


そんな話をして俺と冬雅は地元の神社に向かう。

除夜詣じょやもうで、お参りを年末の夜に神社や寺にすることを指す。無事に迎えられるよう新しい年の多幸を祈りにゆく。

年末の翌日である元日に参拝することを元日詣(かんじつもうで)。はるか昔には、年末のよるから元日まで家族の中で統括して主催とする一番偉いとされる家長かちょう

地元の神として祀られる神社などに参拝を行うことになっている。

その大昔の行事を呼ぶのが、年籠としこもり。


「わぁ。すごい列ですねぇ、お兄ちゃん」


「こうした行事だと考えることは同じだからだろうね。はぐれないよう気をつけないと」


「そ、それなら名案があります。お兄ちゃん手を繋いで……す、進みましょう」


「て、手をか。たしかに名案それなら」


お互い触れるのを躊躇いながら手を握ろうとするが触れるだけで緊張して手が止まる。冬雅も同じようなリアクションをする。

列がわすがに前進すると、何時までも初々しいことするかと年上らしくリードすると決断。吹っ切れるように冬雅の手を握る。

とつぜん大胆なことしたからなのだろう冬雅は肩を震わせて顔を俯かせた。

ぎこちない会話をした。それからどんな会話したか憶えていない。そして賽銭箱の前たどり着く。


「新しい年は、お兄ちゃんとイチャイチャ以上する。なら最高の一万円札が妥当」


「冬雅それは妥当じゃない。というか妥当なのもおかしいからね。

賽銭するのはご縁のゴロで五円玉だよ!」


というツッコミを入れる。緊張を和らごうとしてと見ていたが顔が強ばって鬼気迫るような表情から本気なのだと感じた。

なんとか引き止めて五円玉を入れて祈る。


「「…………」」


なんだか奇妙な感覚だ。

好きな人と祈る瞬間だけは静かで共有感があるのは。新たなる年を祈り終えてから彼女の方へ向く。冬雅もほとんど同じ動作をして目が合う。

妙に息が合ってしまったことに俺たちは自然と笑みをこぼす。

次が控えているので手を握って離れるのだった。

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