第188話―アレグロのファンファーレクリスマス―

その日はキリストの誕生された宗教の祭事、

クリスマスだ。

しかし細かくはキリストの生誕を祝うものではない。聖典には誕生された日が記されておらず、また流布して強く固定概念として浸透したのもハッキリとしないため。

とりあえずキリスト誕生をとにかく気にしないで祝おうと決めた日に過ぎず、いい加減な祝日は時代が経つにつれてキリストの覚醒という神聖化となった。

とはいえクリスマスは我々のそれぞれで楽しめばいいのだ。そう俺は解釈をしている。

そしてイプの翌日のクリスマスは他にも祝日が重なっている。それは――


「誕生日おめでとう冬雅。今日から二十歳を迎えられて自分のことのように嬉しく思うよ」


「えへへ、ありがとう。

これで、わたしも大人の仲間入りです!

お酒や色々とできる年になりました」


クリスマスデーは冬雅の誕生日。

俺はケーキを用意して冬雅を自宅で招いて祝っていた。当初の考案ではクリスマス祝うなら彼女の落ち着ける環境で祝うつもりであった。

さすがに自分の家で祝うことには視野に入れていなかったクリスマス、それも誕生日も祝うのに年下で学生である冬雅を自宅に呼んで祝うつもりはなかった。

前日の冬雅がこう言った。『いえ、お兄ちゃんの家でやりましょう!』かぶりを振った。『せっかくのクリスマスを彼氏の都合なんか付き合わなくたっていいんだよ冬雅。最もくつろげる彼女を優先する。それに俺は大人だから当然だよ』すぐに快く返事すると予想していたが予想外な反応をした。『いえいえ、お兄ちゃんの家にしましょう。今年も!』

頑なに指定をする。説得を困難になるのは冬雅の両親とは思っているが、まずは冬雅を説き伏せないといけないか……これ説き伏せるものなのかと自分にツッコミしながら反論しようとする。『それは嬉しいけど、冬雅は自宅の方がよくないかい?クリスマスも誕生を俺と冬雅の両親で祝うのは楽しいはずだよ』子供を諭すように言ったのが不満だったのか冬雅は頬を膨らませて怒っているとアピール。この可愛いアピールは、あざとさが濃縮なので演技で実は怒っていませんねと胸裏でぼやいた。『わたしの中では、お兄ちゃんの家は日常であって特別な空間なんです。今年のクリスマスはここしかない。ありません!ここで二人で逢瀬を紡ぎませんか?』と目をうるませてすがるように懇願こんがんした。

――想起、終了。なかなか情緒的な経緯があってクリスマスと誕生日は俺の家で祝うことになった。


(他の人にも祝いをしないといけないからね。

二人で祝うのは最後と順調で決めておいて冬雅のご両親、友達を優先して過ごした。

ここまで向かうのに盛大に祝っているはずだから満腹だろうしケーキ以外は少なめにして用意したわけだけど)


喜びの歓声を上げながら冬雅は喜びに打たれていた。『わたしのために愛を詰められた手料理。えっへへなんて幸せ。

これって告白していると一緒ですよねぇ』と速くアレグロにこみあがっていきポジティブな感情は止まらず知らず。

――さすがに全部は食べきれず後日に食べることにして後で片付けることに話し合いで決定した。しばらく雑談して過ごしていた。

しずかな沈黙が降りる。見つめ合うだけの時間、そして冬雅が立ち上がった。

テーブル挟んでいた位置から回る。俺も立たないといけないかなと思い腰を上げようとするが冬雅は首を横に振る。このままでと仕草で応える冬雅。せめて椅子だけの向きを変えようと半立ちとなって調整して見つめる位置にした。


「あ、あの……お兄ちゃん。わたしのために献身的に合わせて尽くすところも大好きです」


「そんなこと、当然じゃないか。

色々と忙しくしているなら余裕のある俺がサポートに回るのは。とくに多感な時期なら、なおさらだし。

逆に冬雅から支えられていることもある」


「まーた、わたしをオーバーに褒めていますよ。

それで、お兄ちゃんからして……わたしのこと大好きですか?もちろん恋愛として。

結婚前提で愛せるかを」


なんて真っ直ぐとした瞳なのだろう。

冬雅から伝わってくる恋情、必ず想いは伝わる。相思相愛であること疑いをもっていない揺るぎない強さが宿っていた。

出逢う前はこれほどまでにも前向きでは無かった。いつも悪い捉え方をして、絶えずにネガティブだったJK。今は女子大生になり性格が見違えるほど明るく前向きと成長している。

以前よりも燦然さんぜんとかがやき眩しい。


「それは……はは、恥ずかしいものだね。

今はそう思っていると答えておこうかな」


さすがに俺もなにも変わらずじまいではない。

隠すこと辞めて捨て身の同然なアプローチには慌てて当惑することも少ない。

わざわざ隠さなくともいいのだが全部を曝け出す勇気はなく目を逸らしてとぼける。


「分かりました。

最終確認します!お兄ちゃん敢えて同じことを訊きます。わたしのこと大好きですか?」


「……相思相愛じゃないか」


くっ、上手く言えなかった。

涼しい顔を浮かべ、さわやかに言い切りたかった。


「承知しました。

お兄ちゃん目をつぶってください」


「目を?」


「はい……」


お願いされたとおり俺は目を閉じる。

深く考えずに、そのまましていると唇が柔らかい感触が触れた。………………これは、あれだよね。


「ぅ、うわぁぁッ!?」


まさか冬雅はキスしてきた。目を開けると真っ赤になる頬を両手で抑えて視線を落とす冬雅。

俺は少しでも離れようと背もたれに寄りかかる体勢となる。短いとはいえキスされ時間が止まったように俺と冬雅は動かずにいた。

いよいよ浮き足立つ雰囲気。

この止まってしまったような状況下、それを打ち破ったのは冬雅だった。


「……ファ、ファーストキスです。

わたしとお兄ちゃんの、それで、えーと、

これからもよろしくお願いしますねぇ!」


これで限界だったのだろう。冬雅は背筋を伸ばして丁寧に頭を下げて今後も宜しくと言う。


「こ、こちらこそ。よろしくお願いします」


咄嗟に俺もそれを追従するように頭を下げて応えるのだった。……なんだろうコレ?

疑問符を浮かびながらも俺たちらしい相思相愛なクリスマスだな。

誰が先にか笑うが起きるのだった。

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