第182話―生徒会の休日返上―

わたし、比翼ひよは憂き身をやつす気持ちだった。

今日もパソコンや書類と睨めっこする生徒会室。

生徒会の庶務は、基本的に困っていることあれば何でもする役割に振られることある。

女子バスケ部のスケットとして駆られている。

うん、わたしも身体を動かしたい。こんなデスクトップばかりさせられるなら入るんじゃなかったよ。

せっかくの休みに生徒会で業務があったのだ。

やった休日の返上だ。畜生ちくしょうメェェ。


「あつい、あついですわね吉水さん」


「ああ、全く。その通りだよ……………んっ?

いや暑くはないだろう。もう冬なのだ寒いのではないか。そんな言葉のあやを犯すなんて、もう十二月に入っているのに昌瑩しょうえい会計すこし休んだどうだ?」


「いえ、お気遣いは不要です。

今とても目を離せないところなので」


「目を離せない?いったい何を言っているのだ」


「そんなの決まっているじゃないですかッ!

カタールで開催された2022年ワールドカップ」


「何故そんなの観ているんだァァァッ!?」


「そんなのじゃないですよ吉水さん!

手に汗をにぎる熱い試合なのですよ。足し加えてよろしいですか。

熱狂とさせるサッカープレイをですね――」


「そ、そうか。それは……なんか分かる。

うん、だから静かに手を汗で握って観てくれたまえ」


「そうさせてもらいます」


花を咲かすような満面な笑みで応える我が生徒会の金銭的などの関連を任される可憐な女の子。

つややかな黒で眩しいツインテール、パチリとした瞳、女子から見ても理想的な肢体したい。青いリンゴの髪飾りをした

プロモーションの完璧な宝山昌瑩ほうざんしょうえい

……いまさっきのサッカー視聴して熱くなっている発言が誰かに聞かでもしたら理想のイメージをおおきく崩れることだろう。

うぅ、いたい頭が痛くなってきた。


「やりましたァァァッ!」


…………今はこんなだけどエイちゃんは数学が学年で三位は確実とされるほど実力者。

ただそれ以外の学力は芳しくないことを除けば。

お金のことなら頼りにはなるけど他の業務には戦力外となっているためエイちゃんは待機中。

そうサッカーの試合を観て熱狂を上げることが。


「くっ、人手が足りないからと失敗……微々たる成果の結果が見えているのを頼めない。

無用にタスクを振るわけにはいかん」


このまましておくしかないと生徒会長は腕を組みながら自己暗示するように言った。

たしかにこればかりは同意するしかない。

そんな生徒会長のテーブルの隅にコーヒーが入ったコップが置かれる。


「一息されてはいかがでしょうか」


小鳥がさえずり梢が静かに揺れる。優しい音と風が運ぶ庭園を彷彿とさせる心地の良い美声。


「ああ、かたじけない玉葉ぎょくよう


「いえ滅相もありません」


奉仕なんてした事なんてあるはずが無いと思われるのに完璧な所作をとるイケメン。

コーヒーをさりげなく置いたのは当然ながら無関係者ではなく一員の副生徒会長についている。

九条玉葉くじょうぎょくようその苗字だけだと平凡と捉えそうだが彼の一族は知る人は知る一族であるらしい。

わたしは知らないけどね。

ショートの金髪とメガネが似合う英国イケメンをこれでもかと輝かきを放つ。


「僕には何故そこまで嘆かれているかは存じませんが。

コーヒーを口にして頭を冷やされては?っと恐れながら出過ぎたことをいたしました」


「いや、そんなこと気にしていないぞ」


「さようでしたか。

しかし今日は一段と賑やかでありますね。

こんな賑やかなのですから宝山さんに見習って息抜きも大切ですよ」


「えっ!?あ、ああ……そうだな。

うん、そうだな。根詰めないようにしないと」


うーん、なんか変な空気が流れている。

そのなんとも言えない空気を作り出したのはネガメをクイッと上げる副生徒会長だ。

そんな彼は容姿も優れている上に欠点のすくない優等生なのだ。

上位に食い込むほど成績優秀であらゆるスポーツを嗜まれて培ったバツグンの運動神経。

どこの少女マンガから出てきたとツッコミたくなるほどのハイスペック。

もう副生徒会長がリアルな世界でチートをやっている感がある。そんな完璧とも思える副生徒会長は、天然であること。

もちろん外部から手を加えずに自然だけで育ったとかの意味ではなく。抜けているというもの。

緩くなる空気の中を壊すようにドアが勢いよく開けた。振り返ると息切れする、ちいさな女の子。


「や、役目を……はぁ、はぁ。努めてまいりました。比翼さん!」


生徒会庶務として常に全力で取り組むことをいとわない精神。

中学生とも小学生とも間違えてしまうほど、あどけなさ。赤がかった栗色のボブヘアーと淀みのないアクアブルーのような瞳。

ここまで鮮やかだと日本人離れをしているのに小さいと別の意味で高校生よりも離れている。

ちょっと自分の考えにわけが分からないと内心で呟く。

可愛い後輩の葉室葉黄はむろこうよう


「おつかれ様」


「比翼さーん!あの私がんばりました。

だからご褒美の頭をなでなで欲しいです!」


「もう甘えん坊だな。ほれほーれぇぇ」


「えへへっ、くすぐったいですよ」


ちなみにかわいい後輩は元華族かぞくである。

華族がなんぞやと誰かに問われれば、わたしはなんと応えるのかな。日本には公爵や男爵という階級があった。その階級に属するものを華族、そして廃止した。

もっと詳しいことは辞書やネットで調べること。

なに?おいおい知らねぇのかよ比翼さん……

だってッ!?な、なんだとぉぉ!!わたしの説明にどこが不満があったんだぁ。

フッ、きっとこういう会話が繰り広げることだろう。わたし事ながら引いてしまう妄想だよ。


「一堂に会するか……よし、これを片付けたら皆でカフェに行こうではないか」


生徒会長こと吉水管抄よしみずかんしょうが左手を掲げてアオハルみたいなこと宣言した。

愚管抄ぐかんしょう(あの鎌倉時代の一次資料の立派なものではなく愚かな管抄を略して愚管抄)は『いちどうにかいする』と言いたいだけだろう。

そんなことに応えるものはいるはずがなく――


「みんなでいこう!」


応援していた選手がゴールを決めたような声音で応えたエイちゃん。


「はい。よろこんで参加いたします!」


素直でまっすぐな後輩も応えた。

……行きたくないなぁ。

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