第152話―あざといエルフの甘々ストラテジー5―

甘い吐息が聞こえる距離間。

ジェットエンジンで急加速していくように心拍数が収まらない。いつ気絶して倒れてもおかしくはないな……そう覚悟をすると冬雅は後方に下がって隔りを置いた。

どういう事でしょうか?


「すみません東洋ストップさせてください。

わたしとした事が……ネタ切れです。

くうぅっ!今から冬雅お姉ちゃんは……お姉ちゃん属性をどうするか確認しに行きますので、

ここでおとなしく待っていてくださいねぇ。これは冬雅お姉ちゃんとの約束だよ!」


息もつかない勢いで言い立てた冬雅は、内ポケットからメモを取り出す。そのままドアに突き進んでリビングを出ていった。

……一人称が冬雅お姉ちゃんということに思うことはあるものの先ずは整理しよう。

状況が追いつかないのは常日頃のこと。

このまま素直に待っていても好転しない気がする。それに待ち受けていることを想像すると身体を寄せ合わせようとして次は上手く止められる自信が無い。


(よし、ここから逃げよう)


悩んだ末に決断したらそのあとは迅速に行動だけ。立ち上がって簡単に支度をすませ。

掃き出し窓から出ようとして鍵を開けようと手を伸ばしたタイミングで冬雅が戻ってきたのだった――。


「――もう悪い子ですよ。

すぐ戻ってくるといのに、おとなしく待ってくれないなんて冬雅お姉ちゃん少し悲しいよ」


「申し訳……ありません……」


カーペットの上で土下座して説教を受けていた。こんなこと常人の大人なら年下の女の子から年上な口調からで垂らして説教する。

これも演技なんだろうなあと危うく嘆息するところを俺は心の中で嘆息して留める。

新しい罰ゲームかな?


「反省しているなら、よろしい。

こほん。えへへ取材を再開しましょう。おぉーッ!」


「……」


「さあ、お兄ちゃんも」


「お、おぉーッ」


俺の心は疲弊している。げんなり態度を見せないようにしながら俺は立ち上がろうとして足を崩れて転倒する。足が痺れてしまったせいだ。


「うわぁーっ!?」


「お、お兄ちゃんッ!?大丈夫ですか。

足は?怪我とかありませんでしたか」


冬雅は、姉として装うことを忘れて聞き慣れた言葉遣いで心配して片膝を床に立てて屈んだ。

そして冬雅の優しさは嬉しい。嬉しいから背中をすするのは辞めてもらいたい。思った以上に羞恥が襲ってくるから。

プライドが傷つくとか沽券こけんに関わるといった恥ずかしさではなく照れてしまう。


「ああ、大丈夫だよ。驚かせてしまったね。すまない。ちょっと足を痺れただけだから」


「そうなんですねぇ。はぁー、よかったです。

わたし体調が崩れたのじゃあ無いかって心配して怖かったんです」


「冬雅……それは過剰だよ。まだ体調を心配させるほど年齢じゃあ無いから」


「うん。あっ、お兄ちゃん待ってください!

そんなすぐに立とうと無理されるのはよくないですよ!また転倒しまいますから」


全力で止められてしまった。制止したのは声だけではなく物理的による接触……冬雅は、おおきく両手を広げてみせると組み付くように飛び込んで止めようとしてきた。

こんなこと不謹慎とか冬雅が心配して止めようとして何を考えているんだと思われるが当たっている。普段であるなら意識しない胸部が肩に当たり変形している。

これ以上を考えるのはよくない!


「わ、分かった。無理して立とうとしないから冬雅の気持ちは分かったよ。

だから離れて話でもしよう」


「……はい」


抱きついて止めようとする冬雅。

おもむろに頷いて聞き受けてくれたのは良かったけど、なんだか名残が惜しい。すぐ雑念を払おうと今日の献立のことを思考をすべてに回す。

冬雅は涙声だった。

ここ最近は煩悩を払うことができるようになっている。

払えるものじゃなかった……払えるのは容易ではないから方向を逸らして失念しているだけにすぎない。となると足の痺れが治まるまでは中途半端に胡座を組んだ状態でいないとならないのか。

さて話をしようと言った反面なにか話題を振らないとならない。これは苦手だから、話題を探していると冬雅は「よしッ!」となにかを決心した呟きが耳に入る。

等閑なおざりに聞き逃すつもりはないけど尋ねるのは躊躇ってしまう。

片膝ついていた冬雅は正座すると、そのまま両手を床につけて前へと身体ごと移動した。

なにをするのだろうと訝しげに眺めていると彼女は俺の前に軌道方向を返って進み、そしてまた向きを調整。

目と目が合う。今度は息が届いてしまう至近距離ではないけど近いことは近い距離。


「思わないトラブルありましたが痺れを待っている時間はありません。有効活用しましょう。

それではイチャイチャしますので、覚悟はよろしいですか?お兄ちゃん……いえ東洋」


「ああ!いつでも」


妹モードから姉モードに切り替えって好戦的な目線を送って確認をする冬雅。

その姉モードは他の属性がエルフ、あざとい種類のてんこ盛りとなっている。それにしても、てんこ盛りなんて久しぶりに使用した。

そう自分に自分を指摘していると冬雅は右手を上げると手を伸ばしてくる。

な、なにいぃッ!?ここでボディタッチしてけるだと。よもや……そんな大胆な行動を。いや冬雅なら、さも散歩かコンビニに行くような気軽さで仕掛けてくるか。

なにをされるのだろう。何をされるのだろうとブルブルと震えながら待っていたら。


「えへへ、よし。よーし。

東洋わたしのこと配慮して偉いえらーい」


まさかの頭ナデナデだった。

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