第145話―ツムギ余談IV―

草木さえも微睡みの眠りにいる丑三うしみつ時。

何かが物音がして目覚めてみると人影があった。まだ目覚めていない頭は緊急事態に素早く冴えていく。視界が靄にかかっているように見えにくく目をこすってみたら……緊張を解ける。

その人影の正体はよく知っている人物だからだった。いつものポニーテールしていた髪を下ろした真奈、その右には持参したと思われるワニに噛まれたような動物の寝巻きをした不死川さんの二人。


「何かあったのかい」


「ううん用があって降りたのじゃないの。

なかなか眠れなくて、お兄さんの顔を見ようと思いまして」


頬を弛めて微笑んで言う真奈。


「……マナマナそういう人だって理解しているけど愛情をストレートすぎる」


不死川さんのツッコミに俺は同意して――そんな経緯になって午前三時半。

このまま寝ようにも二人が眠れないと降りてきたのならダイニングテーブルに座って歓談かんだんに興じること流れとなった。

すこぶる眠たくて爆睡したいと欲求が襲うがそれを無視して目が冴えていると振る舞う。

夜半よわの目覚めで頭が巡らない。

だけど、頼られているのだから頑張らないと!


(本来なら真奈たちをお世話しないといけないのが大人の立場である。なのにそれが出来ないどころか反対に厚意を受けすぎてきた)


よもや頼られるとは思わず俺は燃えていた。


(真奈が子供みたいに頼まれてくるとは。

ここまで頼られるからには叶えないと!)


あまりにも受けて尽くされてきた恩義を少しでも返せる絶好の機会だ。

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