第146話―ツムギ余談Ⅴ―

やっぱり学校のことでも話を振ろうかと浮かんで言った。「比翼から聞いたんだけど最近の文化祭ってスゴいみたいだよね。それこそ歌手のライブみたいでさぁ」呑気そうな声音を意識しての言葉。いきなり重々しい辛くはないか苦しくはないかと先にそれを言ったら本音を言わない、学校は楽しいと説き伏せてみせようと意気込むと迷惑になる。

それと真奈が眠れなくなったのは寝る前に飲んでい酒。眠りやすくなるのは事実であるけど浅い睡眠とさせてしまうのがアセトアルデヒド。これは脳を興奮させる効果にと物質に変化させるものだから夜中に起きてしまったと真奈は述べていた。

どうすればいいかと思案したのが九月なので文化祭はあるから学校のそろそろ催す行事があるワクワクで刺激させよう。そういう意図で何も考えていない装って述べた。


「……文化祭か。そろそろなんだね、確か」


明後日の方向へと向けながら呟いていた。

どうやら失敗してしまったみたいだ。センシティブな内容だから気をつけていたつもりだったけど気配りが足りなかったみたいだ。


「あー、違う。いや、これも違うのか……不死川さんまだ文化祭に出られる状態にないのだったら無理しなくていいんだよ。

ここで開いて楽しめばいいからね」


半分も再現は出来ないし趣向を少し返っただけのホームパーティーにともなるかもしれないが孤独にさせないよう最善は尽くすつもりだ。

不死川さんは顔を正面に戻し、かぶりを振る。


「いや、いいよ。そこまでしなくとも。

ここまで至れり尽くせりで申し訳ないと言うか……ボクって怖かったんだよね」


(怖かった?)


不死川さんは複雑そうな苦笑して話を続ける。


「これは誰にも言わないでもらいたいのだけど。ボクそれほど追い込まれるようなイジメを受けてはいないんだ。

聞こえる距離で笑われたり勝手に見下されて侮蔑を受けた。

それで居心地が悪くなって辛くなった」


そう告げると彼女は目を伏せて肩を震わせた。


「……そう、なのか。

他人事みたいな言葉で申し訳ないけど不死川さん心労をお察します」


この場合どういえば正しいのか分からないまま俺は思い推し量りながら正しくはなくとも最も近い選択を取ることを優先する。

月夜のように静まっていた空間内を真奈は立ち上がって向かいの席にと回った。


「ヨイショと、お隣を失礼。

紬がワタシとお兄さんに話を聞いて欲しいからしたんだよねぇ?話は出来そう」


腰を下ろして席につく真奈は、不死川さんに優しい声を以て言った。が、それは催促だ。


「真奈それは強引だよ。とりあえず待ってから無理に話をさせることになるのは避けよう」


焦らずに根気よく待つべきと注意をする。


「ううん、出来る。ボクは、まだ話したいから」


顔を上げた不死川さんの頬には濡れてはいなかったが目は赤くなっていた。


「不死川さん。そう言うのなら……」


本人が話をしたいと意思を示されたら止めることも拒否すること出来ない。


「ボクは……そのうち行く回数が減って次第には不登校になった。

家にこもっているのも疎外感が募るばかりだった。とくに親が家を長く空いているボクの場合は。

こんなのじゃあダメだと思ってブイチューバーで活動するようになったり、慣れないギャル語を駆使してみせて目まぐるしく変わっていく現在に遅れないように使ったりした」


だからなのか。ギャル語を使う場面や使わないときがあるのは同じ世代から遅れたくない焦りから。けれど、その危機感というのは遅れてしまうことではなく同じ方向へと進んでいることの共通感がないことの不安。

誰かと共通を交えることで一体感があり、それを満たせるのが学校や塾などでもある十代に身近な話題。こういう話題性や共感というのは同じではなく似ているだけにすぎない。

抱えているものが共感することあるかもしれないが、その過程まで同じなはずがない。


「でも悪いことばかりじゃないよ」


重たくなる空気を爽やかな風が吹く。優しい風を吹かせたのは真奈の言葉だった。

ロングヘアーとなっている真奈はこちらに一瞥してから不死川さんの目を見ながら言葉を続ける。


「嫌な事だけ、じゃないはずだよ。悲しいことだけどワタシたちは会うことが出来た。 それに紬の優しい人格の形成にもなっているよ。

不幸なことが起きても変わってしまっても強くなれる。そこだけ悪くても途方もない広く見れば進化しているのだから」


真奈はそう持論を展開した。


「……それはボジティブだよマナマナ」


底から現れたような冷たい声。暗にそれは理想論だと不死川さんは冷めた声で静かに反論した。


「けどボジティブであるのは人としての進むための原動力になる。なれるよ」


しかし急な感情を読め取れない冷めた言葉を向けられても真奈の態度は変わらない。白く輝かせた月の光のような笑顔で真奈は返事をするのだった。


「……感情が込められた論理的。はっははは、平野真奈は神だよ。マジで」


真奈の言葉に琴線に触れたのだろう。言葉を失っていた不死川さん。先程までの冷たい態度は霧散すると快活な表情で喋るのであった。

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