第139話―ツムギ前進の祝いパーティー―
ここ物寂しいさを覚える一軒家。今は不在である弟と二人暮らしだけの家で。やり切った表情を浮かべていた彼女たち、到着した紬たちを俺達は出迎えていた。
「フフっ、頑張ったねぇ。飛躍しようと遂げたマナオリンのパートナーとして誇らしいよ!」
気持ちがなごまれる声音。柔和に微笑みを浮かべた真奈は、ここで本名ではなく、あえて動画を撮るときでしか呼ばないキャラの名前を口にしてストレートに褒める。
「とりあえず褒めてあげるわ。おめでとう。
でも勘違いしないことね。まだまだなんだから」
そこで突っ張るように言うのは香音らしい。
「あの、前進されたことについて。おめでとうございます不死川さん!」
上擦った声で戻ろうとして動いたことに称えたのは猫塚さん。
「わたくし不死川様の勇敢な決意と行動に敬意を払います。感服いたしました」
例に及ばず。
気品のある口調に戻りながらもグイグイと接近していく性質だけはそのままペネお嬢様。
こうなる事を予期していたと思われるリアクションをする比翼と花恋の二人はというと微苦笑をこぼす。
迫ってきた歓迎ムード。ここまで祝ってくれる光景を目の当たりにしたのか涙目の不死川さん。
「まっ!?なにその超絶技巧な連携プレーは?恥ずいんだけど。あっはは……」
みんなの前で口々に褒めそやされる。あまり慣れていないためか紬は面映ゆい気持ちと頬を朱色に染まっていたのであった。
手の汚れを洗面台で落としてリビングに入る。天井に取り付けているシーリングライトの灯りで部屋中を照らす
いつもなら夕食を作り始めている時間帯であるが事前に報せてくれた事で用意することができた。
「よし。不死川さん今日は無事に学校へ行けたことを祝して俺たちで催すパーティーを行うよ」
振り返ってみると不死川さんは状況が読めずに放心状態となっていた。無理もない、もし祝われたのが俺だったら同じようになっていたのだから。
「これ、ボクのために?」
「ああ、そうだよ。学校に行けたことを直接に伝えに来るだろうと思って集まっている真奈たちと話し合って計画して進めたんだよ」
居室には不死川さんを祝うために飾り物を付けえ、湯気が立ちこめる食べ物を多めに作り待っていた。
一部はデリバリーでピザなど注文して時間を短縮し、手料理の食べ物を冷めないよう比翼が逐一どこにいるかを報せてくれた。
この日の主役である不死川さんは胸に迫るものがあったようで温かい歓迎ぶりに感動した彼女の頬から水滴が垂れるのが見えたが誰もそれには触れずに見守る。
「こんなボクに祝ってくれるなんて……なんていうか度し難い。でも嬉しいよ。ありがとう」
目頭から流れるのを拭いながら彼女らしい言葉と無邪気な笑み。そんな中で温もりのある空間を破った音が鳴り響く。
タイミングが悪い!と心の中で叫びながらも俺はピンポーンとなった玄関前に向かいドアを開ける。すると、そこに立っていたのは三好さんだった。
「ハァ、ハァ……遅れてしまいました。
もう
「あー、うん……そうだね。
でもまだ主役の不死川さんは来たばかりで遅れてはいないよ。多分」
「そう、ですか」
「全然ですよ。それで気になったのですが、その袋は?」
かつて冬雅の同級生であった三好茜。
両手に下げて持つのは本屋らしき袋だった。本でも購入して寄ったのだろうかと一瞬そう考えたがそれは違うと閃光が走る。
この見覚えのあるロゴは、三好さんの両親さんが経営している本屋のロゴだ。
「プレゼント用の本。どれが喜ぶかと悩んで遅れてしまいました。軽く
分かる!どの本で送ろうかと実行に移すして立ち止まってしまうのは何を送れば心の底から喜んでくれるか?
これに悩んで相当な時間を要したことがあるので気持ちは痛いほど分かるのだ。
「なるほど三好さんらしいですね。
さぁさぁ、とりあえず中へどうぞ」
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