第121話―異世界マナさん5―
奇異な会話のあとに訪れた沈黙。
声を掛けてみたが香音は、「なにも」と素っ気ない態度を吐くようにして応えると早歩きして先に行ってしまたりする。
あまり話をかけないでと露骨な反応を示す。
(うーん、やっぱり活発な年頃の女の子と話すのは、なかなかどうして難儀なものだな)
もう中年期を迎えているのもあるからなのか若い感情の機微に疎くなってきているような気がする。
そんなことを考えて香音を後ろから歩く。
遅れていないか香音はときどき振り返って確認する。しばらくそうしていると俺はなんだか居た堪れなくなる。こういう距離感で移動していると傍から見ればストーカーみたいではないか?
すると香音は路地の方へと入り込む。
真奈と合流時間まで少しだけ時間はあり、予想ではショートカットしようとするには時間には余裕ある。訝しげながらも後に続いた。
「真奈……もう来ていたのか!?」
「ふん。真奈さまが下僕なロリコンの約束されたのでしょう。なら約束の時間よりも早くから来るなんて想像はつかなかったわけ」
つい出てしまった俺の言葉を香音は足を止めると肩を回して振り返る。
憎々しげな瞳と声音で咎めてきた。
「もちろん知っていたさあ。でもこんな早くに到着していたなんて……」
「もう何回目なのよ。真奈さまとデートするの」
「二人きりなら気合いを入るだろうけど今回は香音も来ることを報せていたから……
こんな前から来ることはないと勝手に決めつけていたんだけど。予想がはずれるなんて」
「ちょっとショック受けすぎでしょう。
ほら真奈さまを待たせるの
やや苛立っている香音に無理やり手を引っ張られて俺たちは真奈のいる場所に近寄る。
近づくにつれ薄ぼんやりだった真奈の輪郭がはっきりと鮮明に見えてくる。
とはいえ視線を落として読書中である真奈がなにを読んでいるかタイトルの文字は見えないが、その色やイラストだけ見える。
どんなタイトルかなと関心を向けるタイミングで真奈は気配に気づいたのか俺たちの方へ視線を向けた。おもむろに本を閉じ片付けると真奈は花が咲くような笑顔になる。
立ち上がって数歩を前に歩き、真奈はうれしそうに手を控えめに振っていた。
「真奈こんにちは。まさか先に来ていたなんて驚いたよ。待たせてしまったね」
「ううん。ワタシ待っていませんよ」
置いてあるペットボトルの三割ほどしか残っていないことから移動中はそう遠くない距離などで途中に飲んでたとしても減る量はそれほどない。なら待っている間に、ここまで減ったことを思うと長い間に待たせたことは推しが量れる。
でもそんなこと苦痛でもないように真奈は笑顔のままかぶりを振った。
「そうなのか。
とそう簡単には納得しないぞ今日は。
こんなこと指摘するのは見当違いかもしれないが敢えて言わせてもらうけど真奈いくらなんでも来るの早すぎる。
せめて一時間前に到着するの計算して来るように」
またこんな極端に来られて待たせるよりも真奈には少しは時間をルーズに来て欲しいと思う。
本当なら時刻ギリギリでも遅れるのも構わないと思っている。
返せないほど好意や恩を受けているため、どれだけ時間が長くても不平不満なく待つぐらいはする。
でもそれは真奈の気持ちを置いて考えなので言っても困らせるだけ。なら次から五分前から三十分前と注意をしても聞かないだろう次からはと行動を移そうとするまでの意思の変化まで効かない。
であるからして如何せん到着時刻をせめて一時間前にしてもらいたいと考えての言葉だった。
「フフっ、前向きに検討しておくねぇ。
それよりも手を握ってもいいですか。それとオススメの本があるんです。少し古いかもしれませんけど直木賞を受賞された【
他にアニメの個人的なオススメはリコリス・リコイル。略称はリコリコで百合系が好きと仰っていたので合うかなと思うんです。
もし未視聴でしたら、いつか一緒に観ましょう!
よし次はねぇオススメのデートコースを見つけたのだけど、もし冬雅とデートするのでしたら予習は必要だと思うんですワタシと擬似的なデートしてから挑むべきであると老婆心ながら忠告かなコレは。フフ、どうですか」
そんなに熱量をここまで向けられて俺は足を下げて、たじろぐ。それと逸る気持ちを抑えようとしないために注意は今回もやはりと言うべきか期待は薄そうだ。
覆い尽くすような言葉の大波のようだった。
どう言えばいいかと悩んでいると香音が前に出る。
「真奈さま今日もたいへんに、お一段とお美しいでございます。挨拶はこのへんに、お待たせてしまい面目ありません」
「ううん。全然そんなこと気にしていないよ。
そんなことよりも香音も一緒にデートするの楽しみだねぇ。これって三角関係だねぇ」
うーん、真奈が吹っ飛んだセリフを口にしている。まず場を支配するのは冬雅の権能ではあるがここに彼女がいなければ真奈の気分は高ぶっている。際限ないほど浮かんで暴走状態。
「あ、あの変態ロリコン野郎。それと……ま、真奈さまトリプルデートをッ!?
わ、私はどうすれば。どうすればよろしいのでしょうか理性が保ちそうにありません!!」
香音は、まるで今にも絶叫するような声の高さで頭を抱えて述べるのだった。
どう収拾つけばいいのだろう。
これが冬雅なら対処は熟知はしている。
だが真奈や香音のこういったケースは未知であって勝手を知らないのだった。
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