第66話―比翼記三の巻―

勉強やスポーツを励んでからの昼食の時間は、とても祝福するべきで格別ではないか。そのような達観したような思いであるのは何も特別ではない。

それなのに特別とさせて感じるのは、たらふく食べて飲むことを愛すること健啖家けんたんかではない。

貧しさで長くあえでいた環境から脱してからの少々の豊かな生活ライフは楽しい。

ずっと求めていた水を得た魚のように。息苦しいと喘いでいたのは家庭でも外側でもそうだったが、そんな心配もなくなった。

ありがたいことに今の家庭環境や外の世界は暖かすぎて、ときどき心配してしまう。小さな仲違いで幸福な環境が壊れてしまって夢のように消えてしまうことを。

そんなこと起きるはずがないと手を伸ばした人はそんな娯楽感覚で人助けをするような人ではないと知りながらも……心のどころかで恐れている。

完全な信用はない。決して壊れず結びいた輪というものは存在しない。


「……こんなにも悲観して止まないのは色々ありすぎた過去。のちのちまで影響を及ぼすなんて、たまったもんじゃない」


午後に回った柘榴坂高校。切り取られた四角から先にあるのは見えるのは緑に囲まれた光景。

わたしが見下ろしているのは壁を一面にしてガラス窓。コロナ対策なのか窓を半開けしている。

中途半端に開けているのを見ていると本能的にそれを閉めたくなるが、これは対策なんだと頭で納得しようと念仏のように頭の中で唱える。

その近くでベンチが設置しており腰を下ろせば窓を前にする位置となる。

そこは知る人は知るベンチなためお弁当タイムには埋まりやすい。

その日は独占した。わたしはお弁当をひろげけて校庭を眺めながら優雅な時間を過ごしている。


「ふぇ?なにが溜まったもんじゃないのヒヨちゃん。も、もしかしてボクといること……へっ!こんな奴といるなんて、たままったもんじゃないと仰るのですか!?」


「そんなこと言っていないですよエイちゃん」


「それならいいのですが。

ヒヨちゃんあまり食べていないよ。足し加えて、いつもながら引くぐらい超絶に豪華」


その隣で騒いでいるのは同級生のやたらとハイテンションな女子高校生。

名を宝山昌榮ほうざんしょうえいといって女の子らしくない名前と堅苦しいイメージ。

きめ細かい肌をしていて大変つやのあるツインテールの黒髪は、うらやましく感じる。

わたしは髪をキレイにしようする余裕がなかった時期があって直毛というのは無縁で、はねっけのある髪。

それでも以前よりも改善はされてきたが……比較すると落ち込んでしまう。


「どうせペネおねえちゃんや宮廷料理人が腕を振るいすぎたんですよ。残すつもりでしたので良ければ食べますか」


「えっ、いいの。やった食べる!絶対に食べる。

へへ、そんなヒヨちゃん大好き!

し加えて真にリスペクトしているよ」


「はいはい。わたしも大好きですよ。尊敬は……しています」


「きやぁぁッ!?ボクの胸を凝視しながら言うのやめてくれない」


いえ、だって豊かな双丘そうきゅうは憧れるよ。前々から思っていたのは、この友人は一人称がこんなボクっ娘のくせに胸が、どうしてこんなにも膨らんで豊満なことでしょう。

しょせんは、ぜい肉!あんなのは。


「遊びはこの辺にしてエイちゃん今月の各部活の予算のことで気になるところがあるのだけど」


「気になるところですか?」


「こんな時期なので前例もないので大変とは理解しているのですが報告書を目を通してみて負担は多いかと。

わたしたちの前では活動した記録から予算をうまく分配しており部費に不満は少なかったようです。そのデータ参照して部活予算額によって設備などの充実を考慮していきましょう」


「さ、さすが天才ヒヨちゃん。

ボクの担当はずの会計をそこまで考え込んでいたなんて…恐れいりましたけどデータ参照ってあるなら前例あるんじゃあ?」


最初に前例がないといっておきながら前例あることに突っ込みをいれる昌榮ちゃん。

そんな細かい疑問をもつ生徒会の会計に、わたしは素直に否定せずにこたえる。


「まあ、熱くなって前例あるとかないとか言いました。それは置いといて、放課後は見回りをしますよ」


「うへぇ、どうしてそんな面倒くさい――億劫なことするのですか?

そのへんの庶務とか足し加えて生徒や教師に押し付ければいいんじゃあない?」


「どこを突っ込めばいいのか……。億劫でもやるんです。その辺のために奔走するのが我々なんですからね。

実際この目で見ておかないとならない。部活の状況などを見て知れば額とか増減するべきか参考になりますので。数字ばかり追いかけると盲点もある。

その逆を数字を軽視して部活動の内面だけも含めても言えます」


「もう説教いいよ。

目を覚ましたらから生徒会書記さまに逆らわずに従うから分かったから!」


小さな悲鳴をあげながら遮られるのでした。

つい熱が入ってしまうと同い年で仲間に対してこうしたことで注意をしてしまう。

どうしても生徒会の話題になるとこうした衝突がよく発生します。

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