第67話―冬雅は百の質問がしたい―

この家はいつも物静かだった。

なかなか家に帰らない弟と二人暮らしだ。

いい大人とは思われるかもしれないが現実お互いに独身であるとこうした暮らしは珍しいものではないと思う。

一人でいる時間が多いと明けても暮れても生活の動きというものがない。まるで家の中が死んだように静かで、明けても暮れても静か。

外から車の音は聞こえても室内にいると隔たれた空間にいるように感じる。

時折ときおりテレビをつけては寂しさを打ち消そうとしていた。疲れて仕事に帰っても一人そして休みの日に過ごしても孤独。いつも抱えていて生きて活動しているという実感もない空間で繰り返していく。

――そんな生活というものを感じ取れない現在のリビングは決まってかしましい。


「ふ、冬雅さんマジでそんなこと……

していたのですかッ!?」


信じられないといった目をする花恋かな


「えへへ、これが本当なんだよねぇ」


頬を恥じらいの色に染まりながらも語りたくて仕方ないと動きを見せるのは峰島冬雅みねしまふゆか

冬雅は十歳も離れた年下の彼女になるのだが如何いかんせん小柄であるのと精神的な年齢が一気に下がった言動がどうしても目立つ美少女。

一応、こうして明るく振舞っているが昔は表情を滅多に表れない子だったのだ。


「み、水着を着用せずタオルだけで一緒に入浴しようとしていた……。

ニイニイ頭がクラクラしてきた」


頭痛を訴えたのはメガネをかけた少女。

面倒くさかったのか退化したのか知らぬがサイズが大きめなセーターとフレアスカートをしたズボラな印象のある不死川紬しなずがわつむぎ

近寄ってきた不死川さんに訴えられた俺は、すぐに頭痛薬を取ってきて水をコップに注いで戻って渡した。ありがとう返事をいって受け取るとそのまま勢いよく飲む。

いつなん時でも頭痛すれば薬を飲めるように置いている。

……よく冬雅のとち狂ったような発言によって多発していることの処置である。


「なんというか……申し訳ない。

なかなか語れる相手がいなかったからなのか言動をどうしても言えずにいた。

だからなんだろうね。女子高校生から大学生になってから、もう隠す必要がないからと熱中して語りを止まなくなってきているのを」


「やばぴ過ぎる。好き好きなのはいいよ別に。でもダメージ受けるから。

キャパイのはいいとしても超チルしろと思う」


「な、なるほど」


ふむ、ギャル語の乱発によって頭痛を覚える。

まったく言いたいこと理解できず、ならその意図はなにかと推測も出来ないときたので最終手段として頷くことにした。

ほとんどの会話を意外と聞いているようでそのところ聞いていないのが人なのだと現実逃避する。


「ちなみに超チルというのは、落ち着いている意味だからね。これで賢くなったね」


「ですね。あはは」


すまないが不死川さん。そもそも知らないギャル語を憶えても嬉しくないです。

まさか彼女から解説をしてくれるとは。


「いつもならマナマナが解説してくれるんじゃない。その代役として務めた!」


両手に腰をあてて解説したからかなのか胸を張る不死川さん。


「お兄ちゃん談笑中にすみません。なにも言わずに真ん中のイスに座ってください」


冬雅は両手をピラミッド型にして口元をあてて俺を呼ぶ。リビングの真ん中には一脚のイスだけが置かれている。その下にあるのは

折りたたみの丸い机が広げていた。

その上にカメラを固定するためのスタンドがあってマイクも設置している。

これは一体なんだろうかと好奇心にひかれて俺はなにも訊かずに言われた通りに腰を下ろした。


「では今から、わたしの百の質問を撮影したいと思います。お兄ちゃんは目の前で応えるのを見守ってください」


いきなりそんなことをお願いをされて俺は混乱する。どうしてそんな前触れもなく勢いでそんな企画を発表するのだろう?


「えぇーと、説明を補足するとね東洋お兄ちゃんを見せるためのようらしい」


どうなっているのか分からずにある俺を唐突な企画を立てて移することを説明してくれた。


「らしい……。出来れば詳細に」


「違ったか!伝え方あまり得意んじゃないけど……うーん。あっ!

なら論理を捨ててオノマトペ的な一言でいうと……ドキドキ作戦」


よどみもなく喋っていたが最後のセリフがセリフなもので言いずらそうにして言の葉を出した。


「そういうことか……これで理解してしまうと冬雅を知り尽くしているようで怖いなあ。

ありがとう助かるよ」


嘆息を吐きながら、これからしようとする彼女を俺は祈る。過激なことしないようにと。

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