第63話―ザユウの銘は徹頭徹尾Ⅲ―

飛躍的なことはしなかった。

身体を寄せ合うことせず冬雅は、食べ終えると本を広げて勉強を始める。どんな勉強をしているのかなと気にはしたが集中力を妨げたり乱すことになるのは望ましくないと考えて関心を別の方へ向けようと読みかけの本を読むことで向けることにした。

目の前のことで没頭することで静謐な空間ができる。賑やかで絶えなかった冬雅と一緒にいながら異常事態とも感じた。

こうも静かであると微かに聞こえるページがめくる音だけが静寂のなかではハッキリと耳に入る。

さて、気まずい。冬雅になんて話を振ればいいのか考えて次に実行しようとするが躊躇ってしまい吟味しようと第一声を模索するの繰り返す。


(あれ、恋人になれば以前よりも密接になると予感していたけど……後退していないだろうか)


「あっ……」


冬雅を見ようとして目が合う。

逸らして一瞥しているんだなと愛情を感じながら心が優しく包まれ満たされていく。

けど、話をするキッカケがないと動けないものなのか。きっと冬雅も同じであろう。

臆面おくめんもなくイチャつこうとするはずであるが先程の敢行による反動で思い切った行動をする精神的なエネルギーが尽きている。そう推測をする。

冬雅と楽しく話せるかも失敗を恐れる等々と頭にあって結果ほとんど何もせず冬雅の一挙一動を見ながら様子見をするという消極的なことを取っている。

それが進展がないと十分に分かりながらも近寄ろうとする勇気が出てこない。

そんな状況下でインターホンが鳴る。

――冬雅は、ソーシャルディスタンスなのかイチャイチャしすぎた反動で近づくのが恥ずかしいのか2メートル離れて背後について歩く。

連絡なく訪れるとなれば自由奔放を地でいう花恋か不死川さん。鍵を解いて玄関ドアを開けてみると目の前に立つのは真奈だった。

少々びっくりした。こまめに伺うことを伝える彼女には珍しいかったからだ。


「やあ真奈こんちには」


「フフっ、こんにちは。お兄さん驚いた顔かわいいかったですよ。

コホン。いきなり来てしまったこと驚かせてしまって、ごめんなさい。連絡を送らずに

ワタシがそんな動因を起こしたのは突然こう駆けつけたら驚くかなって……フフっ」


スーパー美少女の女子大生である真奈は口を抑えて控えてに笑いながら説明をした。

マスクをしているため笑顔なのかは頬や目元などの動きで判断するしかない。

イタズラを試みようとしての行動だったらしく楽しげであった。どんどん距離を詰めてきているような気がしてならない。きっとこれは考えすぎだろう俺の。

それはいいとして真奈とは二度と恋愛感情を向けることないと俺なりの言葉で伝えたけど、それでも吹っ切れるほど人間は簡単なものではない。

動機を語っていく視線に好意が込められていることに気づきながら素知らぬ態度を取らざるえない。


「はは、まったく。まさかそんな茶目っ気のあることするなんて驚いてしまったじゃないか。また悪戯イタズラされても驚かないよ」


「フフっ、それなら驚くようにワタシ考えてイタズラしないとですねぇ」


愛おしげな笑みを浮かべる真奈。あいらしい。


「な、なな……お兄ちゃんと真奈の距離感が近づいています。真奈と仲良くなるのは嬉しいけど複雑です。

ここはわたしも怖気ず悠長にせずイチャイチャしないとですねぇ」


「いや、そのままでいいと思うよ冬雅」


背後でそんなことをボソッと呟いた冬雅。

危機感を覚えているようですが俺が冬雅ではない女性を選ぶことを心配しているようで、その疑惑や心配で不安にさせないためにしないと。

好きな相手をそんなふうには思われたくはないから。と心の中でそう決意する。


「そういえば言い忘れましたが、お兄さん遊びに来ました。一緒にゲームや勉強しませんか」


「ま、真奈。えーと、お兄ちゃんはなんといいますか……今日のスケジュールは読書して過ごすと決めているので」


本人の口から聞いていないがやっぱり俺のために断るスキがなく料理を作っていうわけか。

せっかく来たのに追い出すようで心苦しそうにする冬雅の声は小さい。


「まあ、それは明日でもそうするよ。今日は真奈とりあえず中に入って一緒にすごそう」


「迷惑じゃないワタシ」


「全然まったく。これぽっちもゼロレベル」


「お兄ちゃんのボキャブラリーがッ!?」


もし真奈が訪れなかったら言動が縛られたまま一日が終わった可能性もあった。どちらかと素直に言うなら救世主だ。

なので、迷惑なんて誠にそんなこと考えるはずがない。そして言葉にある細かな真偽をはかれる真奈は「それなら」と頷いて門をくぐった。

――静寂は終わりを迎えた。真奈が持参したゲームで遊ぶことになった。経済的な理由とゲームにあまり関心がなくなってからスイッチを購入しなかったので真奈のゲーム機を拝借。学生から貸してもらうことに抵抗感を覚えながらも真奈が俺のために用意したと言われたら断れずお礼をいって受け取る。

そして真奈と遊ぶのはマリオカートである。

ふむ、対戦か……協力プレイなら心強いのであるが対戦となれば真奈が完勝するのは目に見えている。

負けると分かりながら挑むがやはり連敗、さらに一周という差で負ける。

ここまでの差が激しいと悔しいよりも異次元の領域に失笑をこぼしてしまう。真奈は楽しむ俺の姿をみて嬉しかったのか穏やかな笑みを向ける。ふむ、それ咄嗟に向けられると心がドキッとしますので禁止!


「お兄ちゃんケーキ出来ましたよ。おやつタイムにしませんか。真奈の分もありますよ」


「ああ、分かった。もうそんな時間になったのか……すこぶる楽しみ」


「冬雅のケーキ凄く美味しいんですよねぇ」


彼女ふゆか彼女まながこうした平穏な日常をいられるのは永遠じゃない。

いずれ終わりが迎える。それはなんの脈絡なく唐突にながれる。それが人と付き合いだと分かっていながらも。

相思相愛である冬雅といつまでも変わらずに永久の愛は壊れるかもしれない。

ずっと親しい真奈と亀裂きれつが生じることだってある。

だが、それでも時間の流れがどれだけ残酷に変化していこうがどんな関係性であっても強い想いは変わらぬままり続けると俺は不変的なものがあると強くそう信じている。

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