第62話―ザユウの銘は徹頭徹尾Ⅱ―

いつもの談笑を繰り広げた結果は目立ってしまい避難するようにして家を上がらせる。

そのことに俺は後悔していた。

彼女はイチャイチャすると宣言しており何かをしでかすは分からない。


「それでは現状維持にありつつある恋人度を進めるためステップアップといきましょう。

その前に、手料理を振る舞いたいので台所をお借りしてもよろしいでしょうか?お兄ちゃん」


「あ、ああ……構わないよ」


手を清潔にしてから居室に入る。彼女は、まず袖を巻きながら社交辞令のように確認を行うながら動き出した。

これは許可を得られるのが分かったうえで聞くよりも先に動いた。

まあ、いつものやり取りしていれば多少そんな態度もとるのは必然的だった。

とはいえ見て待つだけというのは心苦しいので手伝おうとしたが、やんわりと追い出された。

そうする目的は紛うことなき俺のためであほう。サプライズ的なことを作ろうとしているのなら、ここはおとなしく待つことにしよう。

その間に溜まっていた本でも読もうとして俺は二階の自室にと歩き進んだ。内容をじっくり吟味すること出来そうにない気分では無いので何冊か小説を選んでからリビングに戻る。


(……なにを作っているか気になって本に没入できない)


それでも気にしない。そう意識すればするほど気にしてしまう。

そうして読書していると、かつてのように小説ひねもす時間を過ごせていないなあと感慨深くなる。

恋愛を時間や労力に費やしてからだろう。けど読書よりも恋愛を優先をして望んで選んだことなので悔いはない。

ときどき視線を感じ取れないよう盗み見して冬雅を見る。使用している調理器具からしてケーキ類。形を作り過程で、まだまだ時間がかかりそうとみる。


(もしかして冬雅は、ゆっくり読書する時間を作ろうとしている?)


まさかとは思ったが、そもそも手の込んだ料理を彼女なら考えられることだった。

数時間も掛かるような物なら帰宅して明日に備えるはず。まあ深く読みしすぎて単に作りながら同じ空間をいたいと選択もありうるが違うだろう。まず話をかけたりしないことから読書させるように誘導しているかもしれない。


「よーし、スポンジを冷蔵庫に冷やしてと。

お待たせしました。お兄ちゃん朝食にしましょうか」


「ああ、分かった」


屈託のない笑みで冬雅は言う。やはり考えすぎたようだ。しおりを挟んで本を閉じて食卓用の椅子に腰かける。

冬雅は忙しなく動いてテーブルに置かれたのは手作りのフルーツヨーグルトと牛乳であった。


「おやつのケーキと同時進行したので朝食を遅らせてしまいました。

ここにあるのは有り体に言いますと、ついでに作ったのですが。成功するように試行錯誤を重ねてきたので自信があります」


「とてもオシャレな朝食らしい献立だね」


「はい。ヨーグルトの具材にはキウイやイチゴとリンゴといれました。甘いものには目がないはずの

お兄ちゃんが好みそうな組み合わせにしました。さあ、お召し上がりください!」


「では、いただきます」


ふむ、たしかに俺は甘いものは好きではあるが目がないほどでは無いはず。

いつでも食べれるよう置かれたスプーンで掬いフルーツヨーグルトを口に入れて咀嚼する。

しっとりと甘さのさわやかな味が口いっぱいに広がる。これは、なかなか美味しい。


「フルーツの甘さが絶妙なバランスを奏でていて北ヨーロッパを浮かんでくるようで……それとモンサンミッシェルのようだ」


「また小説のため食レポの練習ですか?

そんなふうな偉大に褒め尽くされると反応に困ってしまうよ。それで、お味のほうは?」


「とても美味しい。お店に提供するレベルである上に満点を超えてもいいほどだよ」


「うん。喜んでくれてなによりです」


少々とはいえ過剰な評価したことに冬雅は引かないまでも困り顔を浮かべながらも笑顔をみせた。

おそらく味だけではなく場の雰囲気や想いなども加味して、より甘く感じるかもしれない。

テレビを見ながら食べていると冬雅が、こちらをずっと眺めているような視線を感じて確認しようとすると目が合う。

目を逸らすことなく、より笑顔を増す。どうやら恋人が真心をこめて作った手料理を美味しそうにして食べているのを幸福で満たされている様子だ。

これだけで恋人らしい場面である。

そんな幸せのセトロニンを分泌して浸かっている彼女は無意識でこうして眺めている。

自分の分は手につけずにしたため俺が完食して、ようやく一口をしていないことに気づく。


「あっ!つい舞い上がって思考が止まっていました。あのあの、お兄ちゃんフルーツヨーグルトまだ食べますか?」


「いや、もう満腹だからいいよ」


「そうですか……ハッ!お兄ちゃんのために朝食を作りましたので、ご褒美がほしいです。

具体的には、その手にしている、、、、、、スプーンであーんをして口に運んでほしいかな」


「んっ、それぐらいなら別に構わないが」


「やった」


小さくガッツポーズをする冬雅。

そう歓喜しているのは何故なのか疑問で不思議に思いながら俺はいわれたとおりにした。

運ぶたびに冬雅の真っ白な頬をどんどん赤くなっていく。

平らげると冬雅は「えへへ、大好き……お兄ちゃん!」とお礼を代わりに告白を送ってきた。

そこで俺は、これ間接キスじゃないかと冬雅のリアクションで遅れて理解したのだった。

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