第61話―ザユウの銘は徹頭徹尾―

彼女は、いつも近くにいる。

周りに立っている隣の家では彼女のほうが最も近くにある。

ベランダも少し増設なんてすれば渡り道になるほどに近接する位置、そして関係の方面でも密接な関係を築いている。

そんな大型連休に入ったばかりの皐月さつきの雲一つない下で眩しく輝きを放つ。


「今日も素敵な天気ですねぇ。サバーフルハイフ、えへへ今日もよろしくお願いしますねぇ」


「サバー、フル……ハイフかな?

それでどこの国の言葉かな冬雅」


「ではお答えしますねぇ。教育と医療が無償として有名なカタールの挨拶です」


中東の国カタール。世界一の裕福な国としては知られており首都はドーハ。そして砂丘のある長い海岸線が続いておりドーハもその上にある。

天然資源によって、とても経済を潤っている。

何故そんなカタールの言葉で挨拶をしたのかは問わなくとも理由は後ほどに分かる。まあおおむね海外のおはようをサバーフルハイフにしたのは日常のちょっとした変化を試みただけという理由だけかもしれないが。


「そういえば、素朴な疑問なんだけどよろしくお願いしますって言うのは?

細かいと思うが、なんだか畏まっているんだが」


「は、はい。またドギマギ計画を立てましたので今日も付き合って欲しいという事前報告ようなものです」


……あ、あれ不穏な言葉を耳にしたのだが。

どういうものか冬雅の特徴などの性質をそれなりに熟知をしていると何となく言わんとすることは読める。それでも認めたくないと

自然の拒否反応は起きる。

もう問わずとも冬雅なんと返すか予測しながらも俺はそれの詳細を尋ねんとする。


「そのドキドキ作戦というのは?」


「まずは準備運動がてらにイチャイチャ。そのあと慣れてきたところで今日は頬キスを敢行していきたいと考えています」


「ほ、ほおキスッ!?」


「う、うん。……あのねぇ。もうお互い大人ですのでそんな遠回しせず直接……えーと口を重ねる接吻せっぷんしたいところです。ですけど段階を超える計画は破産しやすいものとドキドキ作戦を失敗を続けて学んできめした。ですので本番に備えての下準備ということで頬をキスしようと思っています」


「な、なるほど……いや、それはまだ時期早々じゃないかな冬雅」


あまりにも衝撃的な言葉それにマトモな思考を与えない怒濤どとうの熱意が襲う。危うく冬雅の計画をそのままイエスと受け入れそうになるが断らないとならない。

しかし冬雅は引き下がるはずがない。


「もう十分に待ちました。そろそろ行うべきです。なにも今日から突然の口の………

キスじゃないのですから。予習練習ですよ頬で」


なんとか声を落とさずに毅然とした態度でいた冬雅は途中から堪えられずに身体を揺するようにして説明する。

もだえている冬雅の上目遣いを向けられて心を弾まさない人はいない。三十路に迫ろうとする人もそうですからね。


「け、けど。それでも急ぎすぎだと思うんだ」


そんなこと宣言されて戸惑いがあるし、どう諦めてくれるかも言葉も見つけられない。


「か、観念して……ください。それとも……わたしのことキスしたくないのですか」


すると今度は瞳の奥から激しく揺れ動くのが見て取れる。潤った目をされ、そんなことを悲観そうに見られてしまい俺は目を逸らす。


「そ、そんなことない。でも順序があって……ゆっくりと進んでいきたいというか」


「お兄ちゃん……わたしのことそんなに想ってくれるなんて嬉しいです。ありがとう」


「いや、こちらこそ感謝しているよ。そこまで想ってくれるのに何もしてこなくて」


「ううん。今日から始めればいいのです。

それじゃあ……いっぱいキスしましょう」


「ああ、そう……だな。いや誰もしようとは言っていないのですが冬雅さんッ!?」


この流れなら暴走が収まっていくのが常の流れではなかったか?しかし今日の冬雅は粘っており、なかなか引き下がろうという頭にはないと感じた。


「むうぅー。冬雅さんじゃなくて冬雅と呼び捨てですよ。お兄ちゃん!」


「それを指摘するならこちらも言うけどね冬雅は、俺の事をお兄ちゃんと呼ぶじゃないか」


「あの、その。迷惑でしたか?お兄ちゃんが喜ぶと思っていたのですけど……」


どこまでもバイタリティにあふれる冬雅が気持ちを沈んでしまい恐れるような尋ねてきた。


「いや、そんなことは。………冬雅にそう呼ばれること自体は嫌いではないし好ましくも……ある」


「えへへ。そう仰ってくれるなら常日頃から積み重ねてきた努力が報われますねぇ。

ツンデレなお兄ちゃん凄くレアで最高です」


くっ俺がツンデレなんか反応していないぞ。そう強く言い返したかったがそんなことすれば、またツンデレと嬉しそうに騒ぎそうなので喉に留める。

嘆息して、いったん冷静になるとすれ違う人から注目されていることに遅れて気づく。

そんな俺の反応が愉快だったのか心配してか冬雅は振り返るのだった。


「あっ!注目されていますねぇ。

ごまかさないと!あっ、そういえば未成年じゃないでした。もう援助交際とか見られないんですよねぇ。えへへ、でしたらもっと見せつけるようにイチャイチャしましょう!」


「しないよ。普通そんな発想はしないから」


「もちろん冗談ですよ。お兄ちゃん」


まったくその言葉に真実性がなかった。不思議だ、いつも告白したり突拍子もないことするからなのか冬雅が人前でもイチャイチャしようと提案することに冗談なんて聞こえない。

それは先程した頬キスの件だけでも止まることない活力で想像はつける。


「とりあえず目立ってきたし、冬雅ここは家の中で避難しよう」


「ですねぇ。いつものようにイチャイチャしようねぇダーリン」


いつもよりも高い声のハキハキした声。


「いやいや誰がダーリンですか!!」


玄関先で繰り広げている俺と冬雅の会話。

通行人の足を止めて注目されていることに冬雅は声を潜めたりするどころかダーリンと敢えて聞こえるようにして関係性を周囲に示してさらすのだった。

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