第57話―スイートハートの策定8―

ダイニングテーブルに並べられた箱をメイド冬雅は取り外すと、これはびっくり。

なんと箱に入っていた八つのケーキは、ホールケーキ。しかもどれも種類は違う。


「ス、スゴい……!?」


「えへへ、いつもならここまで作らないのてますがカレシのためにと妄想したら張り切ってしまって」


冬雅の言う通り。普段ご馳走しようと腕を振るうにしては量はある。その理由も彼氏のためにと加減を忘れた結果が目の前に広がっているわけなのか。

ここには愛情を比例して形としたのがあって胸の奥は狂喜乱舞をしている中で強い羞恥が襲う。

カレシというその言葉を耳にして霧がかったような恋人であることを理解していく。

おかしな話だが恋人となっても恋人関係であるとは不思議と実感しない。

たぶんこれは個人差によるが。


「食べ切れるから、皆で食べようと考えているけどいいかい冬雅」


「はい。お兄ちゃん、ご主人様の所有物ですので。あ、あとそれと所有物に彼女も含みます」


顔を真っ赤にして、もじもじする冬雅メイド。


「彼女は所有物じゃあ無いから。そんなの通じたら紀元前や中世のような時代だよ」


そういった表現を俺はあまり好まない。いや嫌いでもある。好きな相手には自由でいてはしいしほだされて優先ばかりしてほしくない。


「えへへ、そうですねぇ。では言葉を変えてまして……うーん。お兄ちゃん、ご主人様の魂に結ばれた伴侶はんりょとか赤い糸で永遠を約束された関係でしょうかね」


指をあごに当てながら言葉を探した冬雅は、その場で思い浮かんだと思われる言葉をそのまま口にして言った。勢いにもほどがある。


「ななっ!?」


つい奇声を出してしまった。よくそんなことを平然と言えるのだろうか。セリフした冬雅じゃなく聞いている俺の方が恥ずかしくなる。


「あれれ、おひとり珍しく照れていますねぇ。そんなお兄ちゃん、ご主人様もかわいいです。

えへへ何が切っ掛けで照れているのか愚鈍なメイドのわたしに教えてもらいたいですねぇ。

さあ!どうしてドキドキしたのか今後の参考にさせたいので是非とも教えてくださいませ」


横からグイグイと迫ってくる。ほぼ決まった位置で座るのは目が合めるよう正面の位置でと決めている。そう頼んでもいないことを力説していた回想を終えて冬雅はこだわりが強い。

そうした決めたことを実行する冬雅は、いつもとは違うなにかに演じる際は細かいところも変えようとする。

そうして向かいの位置ではなく横で座るのはメイドとして近くで仕えるといった殊勝な理由ではなく直視する勇気がないからだろう。

現に俺がそうだし、おそらくそのはずだけど。

隣に座っていながらも冬雅は顔を近づいて迫ってくる。そうされると俺は少し離れようとするが離れた分よりも迫ってくる。


「うわあー、とても嬉しいよ。こんなのなかなか見せない反応なのです!

この好機を活かさないと…そういうわけで。お兄ちゃん、ご主人様わたし今からいっぱいイチャイチャしますので止めても止めませんよ」


止まる意思はないようだ。


「ストップ。ストップ!

過度なイチャつきはしないと約束だったじゃないか?」


「フフっ、お兄ちゃん甘いですよ。

過度なイチャつきという明確にしていない決まりは判断をゆだねる。であるからして、わたしは問題ないと判断しましたので……

いきます!」


まさかここで効力はまったくないとは。

交わされた恋人ルール条約による落とし穴に俺は悔やみながら覚悟をする。


「わ、分かった。けど以前したような間、髪かん、はつを容れずにした間接キスまたするなら付き合うけど、それ以上は従えないということで」


「か、間接キスッ!?………

そ、その。いくら痴女のわたしでも…そこまで攻めようとは思っていませんよ」


それまでの勢いが嘘のように冬雅は耳まで朱色に染まりながら小さな声で応えた。

あれ、それじゃあ迫って何をしようと思ったのか俺は疑問を持ったけど、それを訊いても答えてくれなさそうなので諦める。

それからの会話はたどたどしくなった。一緒に食べようと促すと彼女は、「は、はいぃ!」と緊迫感で発するような声で返事した。

愛情たっぷりと込められた手作りケーキを甘酸っぱくなった空間で静かに食べるのだった。

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