第56話―スイートハートの策定7―
失っている平常心を回復するまでは様子見をすることになって二日が経つ。
いつもより早めの午前四時に、ここへ向かうことをラインのメッセージで冬雅が前もって伝えていた。(これには意味があるはず。何かある…何か策を講じてくるはず)と、そうする本来の目的を読もうとするが出来ない。
何せ簡潔に送られた文字だけでは。
その日は起きていないと!合鍵を渡しているとはいえ滅多に受け取った鍵を使おうとはしない。
余程のことがなければ冬雅は使わない。
なので四時前にと起きていないと寒い外で、ずっと待たせることになる。
そんなことならないよう午後八時に床に就く。
気合いを入れすぎた結果、いつもより睡眠は取れず真夜中の零時に目覚めてしまったが今さら眠る訳にはいかないと俺は録り溜めした作品など視聴して時間を潰した。
そして約束した時刻の誤差が数秒後にピンポーンと呼び鈴を鳴らした。開けると……。
「お兄ちゃん、ご主人様おはようございます。まだ空は真っ白でありますが御奉仕に参りました」
そう言ってメイド姿をした冬雅は可愛らしくと頭を下げると
「メイド作戦で…そうか!冬雅はこのために時間を指定したのか。いやでも何故こんな早朝を。メイドに朝なんて関連するようなことは」
「あの、どうなされたのですかお兄ちゃん、ご主人様?なにかお気に召したのでしたら遠慮せず仰ってください。わたしのスリーサイズを今なら応えれますよ」
声には抑揚をつけずに冬雅は発した。まるで素人が台本を読むような棒読みを。
なにかになって、なりきることが得意な彼女だ。これも演じている。
とはいえ最後とんでもないことを言っていたような気がしたがそのへんはスルー。
スリーサイズなんて興味ないんだから。俺を動転しようとしている言葉なんだ。
「不満はないよ。それよりも、どうしてこんな時間を?」
「えへへ実はお兄ちゃんにコレを…いえ!お兄ちゃん、ご主人様を想って作ったケーキを食べてもらいたくて。
もちろん愛情を込めて作らせていただきました」
大きな箱を詰められた袋を彼女は、目に着けるように顔の下ほど持ち上げてみる。
重たいのか手が小刻みに震えていた。
「ケーキを…それは楽しみだな。
早く食べたいから俺に持たせてくれないかな」
「えへへ、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。楽しみだったんですねぇ」
「まあね」
そんな子供みたいな言動したのは頑張って作ってくれたケーキを落ちそうでヒヤヒヤしていたからだ。おそらく遅くまでケーキを作っていたはずだ。
ケーキの種類にもよるが。どの種類に作ろうとしても数時間なんて掛かるのは、ままある。
炊飯はするけどケーキまで作ったこと無く学校でしか作ったことしない俺でも少しは分かる。もしこれが落ちたら冬雅は涙目になるか泣いてしまうと考えたら迷わずに俺は無邪気な振る舞いを してみた。
「お優しいですねぇお兄ちゃん、ご主人様」
目を細めて愛おしいそうに微笑む冬雅。
ふむ、心の底から笑っているのはいい事ではあるのですがメイドを演じているのだから恋人に向ける笑顔は胸が締め付けられるので
急にしたいでほしいです。
まぁ、とりあえず家の中へ入ることを促すことにした。冬雅は門をくぐる前に頭を下げて「失礼します」と言った。
声音は、抑揚あまりない反面、頬を弛めていた。
(あれ、この時間帯に指定したのは家事するためメイドとして選んだのかな?)
冬雅はなにかになりきることが多い。
ただ写真や振る舞いだけでは物足りずに業務的な細かいところまで冬雅なりきろうとする。
それを三年近くと一緒にいるから冬雅という人物の特徴や突拍子のない行動をもう植え付けられている。
こうすることを突き進むことをある程度に理解しているから受け入れてしまって、距離を縮めようとするアクティブに付き合うようになってきている。食事用として置かれている長いテーブルの上にケーキの箱を置く。
よく見れば箱が八つもある。これを冬雅と二人で食べるのか多すぎじゃない?
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