第58話―マナ✕ファミリー―

窓越しから昼の陽がリビングを照らす穏やか。

この日は平野家で、貴重な昼食時にご相伴しょうばんを預かることになった。


(本来なら、ご馳走される立場では無い。なのに、よくないんだけど何故か流れに逆らえずに平野家の食卓に座っている。

どうして断りきれなかったかな)


ここは真奈の実家。そうなった経緯を振り返って回想をする――。

大事で生涯を共にすることを付き合いをしている冬雅を選んでから他の女性を付き合えないと俺なりに示唆してみせた。

とくに真奈に対しては直接的な言動を示すよりも、ほのめかす程度が傷つきにくいかなと考えた策だった。

けど距離感を空けてしまい真奈とここ最近は会っていない。これが普通だろう。

付き合うことになった恋人の間を入っていくことを配慮しているかもしれない。

このままだと自然消滅する。

それは、スマホで少し遠回しな言葉で問いかけても返事は曖昧か避けているので冬雅とは推知している。

こんな終わりでいいのだろうか?

いや、いいはずがない。

せめて関係を断つにしても盛り上がり円満で有終の美を飾って終わらせたい。

そんなエゴと欲望だらけで真奈のためになっているか分からない。その答えは長考しても結局は出てこずじまい。

ならこっちに伺うことを知らせて行く。

そして現在――。


「やっぱりワタシのお兄さんなんですねぇ」


「やっぱり真奈がここまで人を信頼されるなんて、あまり見れないわ。それで山脇さん?

来年頃くらいには孫の顔を見れるのかしら」


頬に手を当てて凄い発言する真奈の母親さん。


「き、貴様ああぁぁぁーーーーッ!?まだ真奈は成人式を迎えたばかりなんだぞ。

手を出したというのか!こ、こ、こ……」


真奈の父親さんは憤激。


「い、いえ滅相もありません。決してそのようなことはしておりません!」


向かいの席で仲睦まじくと真奈のご両親。

そんな二人を前にしてもテーブルの下で視界の外になるところで真奈と手を繋いでいる。

手を繋ぐつもりはなかったけど、真奈がいつものように手を握ってきたのでそういうことに。

ここで握り返すべきではないが、そんな拒否する勇気や賢明な判断とも思えずにそうした。


「きょ、今日は大事な話があってここへ来たのです。まず私は真奈と恋人ではなく、付き合えないことをご説明に参ったのです」


「……それって、どういう事かしら?」


そのとき真奈の母親は戦闘力を高めた。もし数値化とするモノがあったら壊れるぐらいに戦々恐々とさせる力を放って全身を襲う。

その余波を父親さんは支配された緊迫感を受けて肩をビクッとされている。

お、温厚そうな方と思った人が実は家庭内のヒエラルキー頂点だった。

いつものように冗談を仰っている真奈の母親さんとは別人のような威圧感に満ちている。

表面上は涼しそうな笑顔をされているが。


「ちょっと待ってママ!お兄さんはワタシを選ぶかって懸命に悩んで考えだ結果なの。

ここに訪れたのもワタシのためで――」


「真奈ありがとう。でも、ここは俺が説明しないとならない。多くを与えてくれた真奈のせめて、その恩返しにならない。

だけどその僅かでも返した」


冬雅と二度と会えないことに絶望に暮れている中で真奈は支えてくれた。こんな情けない俺に。

それだけではなく真奈のおかげで助かったことは山ほどある。


「そんな事ないよ。多くを貰ったのはワタシのほうだよ。お兄さんには多くの愛情や見守ってくれました。

ストレスで歪んでいたワタシを」


いくら俺の立場を守るために、そこまで嘘をついてアリもしないことを告げなくてもと思ったが違う。真奈は、父母を向けてではなく完全に俺だけ向けて言っている。


(ああ、そうか!失念していたよ。

真奈は真っ直ぐだった。危うくなるほどに、両親にアピールするよりも…ひとつのことだけをひたむきになる)


未だに真奈を好きな気持ちはあっても、冬雅を別れて選択はしたくないし二人を選ぶといった目先のことだけを見据えただけは危険だ。

だからここで決着をつけないとならない。


「そう言ってくれて嬉しいよ。

でもここから俺が説明しないとならない。いつまでも真奈に面倒をかけてばかり良くないから」


「だったらワタシの最後のわがままを聞いて叶えて。説得はワタシとお兄さんの2人でするの。それなら構わないでしょう」


そうきたか。その提案にも驚いたけど、それよりも真奈がそこまで引き逆らわずにいるのは珍しかった。

そこまでになって主張をする真奈の成長したことに感動しながらしゅこうする。


「分かった。それなら二人で説得しよう」


「うん!お兄さん任せて」


ニカッとなって力強く頷いた真奈。


「まさか眼前でそんな素敵な場面を見れるなんて思いもしなかったわね。フフッ、さあ愛娘まなむすめとどんな言葉で私たちを納得させようとするのかしら?」


……というわけで一部始終もとい最後まで傍観されていた真奈ママさんは楽しそうに微笑んでいた。

あの恐ろしい覇気は何処いずこへいったのか?

まあ、当然ようやく俺も現状を理解して行動の熱が冷めて今度は別の熱が起きる。

羞恥という熱をね。

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