第14話―オオヤマ・クイノカミ―

玄関から神や仏ごとく後光ごこうを解き放って部屋を照らし包まれる。


「ここへ帰って来ました。お兄ちゃんとわたしの憩いの場所に」


一帯を染まっていく目映まばゆい光は冬雅の笑顔。

こんなメタファー使うぐらいに俺は盲目している。別の表現すればベタ惚れ。


「恐れ入ります冬雅お嬢様。もし訂正するなら、みんなの憩い場だな。

そもそも誰を招いて寛げるようなホテルのように提供は出来ないんだけどな」


「けど今は二人きりです。わたしとお兄ちゃんだけ…え、えーと早くリビングに行っておせち料理を作りましょう!」


自分で発言した言葉に恥ずかしくなってきて美貌をみるみる朱色を浮かび上がる。

有無を言わさない勢いで催促して洗面所へと向かっていた。


(あんなにアクティブに動くなんて……ここまで舞い上っているとは)


照れて分かりやすい反応を起こさせたのは、冬雅の中にある無意識から行動を収めようとブレーキをかける体裁ていさいの客観性。

どれだけハイテンションで無邪気になっても本当の意味で解放しようとしない。抱いているのを吐き出すことや叫ぶことは容易に振る舞えない。

要点をまとめると全て表に出せない素の心。

天真爛漫に振舞っていて奔放にしていた冬雅は内には色々と抑えていた。

父親に容認された場面を見たからか冬雅は以前よりも解放的となっていた。

――おせち料理を二人で取り掛かる。

漢字表記にすれば、お節料理。なのだけどテレビやレシピ本のようなコース料理を作れるほど俺の腕前はそこまで優れていない。

なので本格的とはいかなかったが至って家庭的に頑張って作ってみる。しかし家庭的という感がどうしても拭えない。


「わあぁー、去年よりもは華がありますねぇ。お兄ちゃん早く座ってください。

はい、あーんしたいです!」


「ああ、うん。そう…だな」


この流れで断りを聞いてくれるはずがないのは、それなりに長い付き合いで学んでいる。

素直に従おうと態度で応えてしまったものの本音は俺もすることに期待していた。

口を裂けても目の前で言えないが。

我ながらイチャイチャするのも、どうかと思いながら外出の支度をする。

その日は冬雅と2人だけで参拝する約束していた。年末での事、真奈たちもビデオ通話で予定を決めていった。

全員で参拝するにはコロナワクチン摂取しているからとはいえブレイクスルー感染などによる懸念を軽視はしていない。

真奈との参拝は別の日となる。

オレンジ色が美しい振り袖した冬雅に合わせたいが似合うものが見つからず、とりあえず

デート用のいつもの格好にした。

ガッカリしないかなと不安に思っていたが、そうはならず冬雅は嬉しそうに笑う。

ふむ、デートすることに心を踊っているとはいえ来年には立派な一張羅いっちょうらを。

並んで向かう先は東京都の千代田区ちよたくにある日枝神社ひえじんじゃ

建立こんりゅうされた年代ハッキリとされておらず不詳、そして江戸3台祭えどさんだいまつりの一つとして数えられている。

歩いている内に包まれた景色は乳白色が緩やかに晴れていく。周りには、この日の参拝は冬雅の二人だけでと伝えている。

よく遊びにやってくる女性陣に伝えているはずだったが――


「もしかして東洋お兄ちゃん?」


「その声は花恋か!?」


「あけおめ!奇遇だよね。こんな所で会えるなんて。あぁー、いつものように冬雅さんと参拝デートですか?はい、はい。

なるほどね。それじゃあ私も一緒に同行させていただきます」


近寄ってきた彼女は仕草するのは間、髪を容れずな言葉を。

長々しいセリフだというのに淀みがない。

されども淀みが無さすぎるのは事前に準備をしていたスムーズ感がある。

疑っているというより確信に近い。でも追及しようとは考えていない。


「うん、分かったよ花恋。それじゃあ、お兄ちゃんと一緒に行こうねぇ」


嫌な顔をせず冬雅は花恋に手を伸ばして優しく応えた。煙に巻かれるではないかと考えていたのか花恋は呆気に取られていた。

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