第12話―遥か遠くにある日常サードワールド―

心なしか黒の密度がいつもより濃い夜。

時刻は11時で年が明けるまで日は残りわずかと迫っている。

俺は真奈に連れられていた。


「真奈…」


「ん?暗い声を出してらしくないよ、お兄さん。それでなにかな」


肩を回して振り返る真奈の微笑は眩しい。


「昼に言った言葉を考えて、もしかして真奈が俺に案内しようとしているのは冬雅の所なのか?」


夜に包まれる住宅街を真奈は俺の手を引いて先頭に立って歩いている。


「ええ。不安かもしれませんけど、お兄さんなら上手くやれますし自信を持って――」


「いや、そうじゃなく俺と冬雅のために真奈がここまで骨を折ってくれることに疑問もあって…そこまでしてくれることに申し訳なくて。無理をしていないかい?」


俺に案内しようと辺りから否定をしていない。だとして、目的地は冬雅が居る場所。

熱心に協力的なのは嬉しい。けど俺が願ったり叶ったりでも真奈は親友でもある一方で敵に塩を送るに等しい行為になる。

賢い真奈は意図を汲んで人差し指をおとがい当てて熟考して言う。


「このままワタシがお兄さんと幸せを掴んでも真につかんだことにならないから。

お兄さんが冬雅を関係を元通りなった状態で勝たないとスッキリしませんし、お兄さんが苦しいままなのはイヤだから事情」


あご当てていた手を離すと真奈は慈しみを包み隠さない瞳を俺の目に真っ直ぐぶつける。

たまたまではなく人為的に、狙ってしたようにどうしてか感じた。


「真奈ありがとう」


「それは成功して言ってください。まだ仲介しようとしている最中なんだから」


目的地を分からず真奈に従って行くこと数十分、どうやら向かう先は丘のようだ。

距離が近づくにつれて真奈の目や身体の向きで察すること出来たのだ。

入ると、やっぱり暗い。

建物や街灯から照らされる中から抜けると真っ暗な視界が広がる。

そのまま歩き、歩いて、歩く。

景色を見渡せる場所にたどり着くと冬雅と隣には花恋も立っていた。

足音に気づいてか先に花恋が振り返り俺たちの存在に気づく。


「あぁーっ!冬雅さん見てください。

東洋お兄ちゃん来ましたよ」


「えっ!?……お兄ちゃん。それに真奈も」


まるで踊るように身を回して見上げる冬雅は驚いて息を呑む。そして冬雅の後ろに立つ花恋は右手の親指を上げて右目をウインク。

グッジョブしているようだけど事前に真奈と打ち合わせしていたのだろう。

ここで二人は上から夜を切り裂くように照らす数々にある町を眺望ちょうぼうしていたようだ。


「冬雅やっぱり今年の終わりには隣に居て欲しい」


「えっ――」


「その前に、ごめん。デート中に意見や心を押し付ける善意で冬雅の想いを踏みにじるようなことしてしまった。

俺の唯一の取り柄といえば、話を真摯に聞くことなのに…それすら失って」


俺は頭を下げて陳謝する。

デートでしてきた失言と勝手な善意が苦しませてしまった。


「そんなことないよ!

でもお兄ちゃん許せない点があります」


「許せない点?」


頭を上げて自然に出て来た言葉。冬雅は頷いて言葉を発しようとする動作が緩やかに時間が遅く感じた。


「唯一、それしかないと自分を必要以上におとしめようとする言葉が許せないのです。いいですか!わたしがお兄ちゃんの今から素敵な点を言います。

料理が上手い、苦しんでいるとき適切な行動を取れる、その中に黙って隣に座ってくれたこと。さりげなく暮らしやすいよう準備してくれる。意外と諦めるの嫌いで。急にかわいい反応したりとか――」


「待って、待って冬雅さん!!

お腹いっぱいですから本題を」


このまま割り込まないと延々と続きそうな流れだったのを花恋は止める。

冬雅は言い足りないと不満そうであった。俺の隣で傍観している真奈は頷いて冬雅の言葉に共感するところあったようだ。

もし花恋がいなかったら、どうなっていたかと想像するのが怖い。これに耐えれる自信がなくて。


「そうでした。お兄ちゃん謝るのは私の方です。ごめんなさい」


姿勢を整えて冬雅は綺麗に頭を下げて謝罪をした。どうして冬雅が謝るのか俺は分からずに軽い混乱になる。


「冬雅そんなことないよ」


冬雅には、ちょっと困ったところがあり責任を抱く。そして自責の念を自分に向けて責め立てる傾向がある。

それは尊い精神ではあるが限度がある。


「いえ、あります。

お兄ちゃんは好意でやってくれたのに、わたしが少し注意とかすれば良かったんです。

どうして苛立ったのか…あそこで怒ったのか不思議なんです。ごめんなさい」


「でも、それは俺が――」


グッと真奈の握る手が力を込めていた。

強く握ったのは一種の合図あいず


「お兄さんストップ。誰が原因なのか追求し誰か決めることは重要じゃない。だからここは二人が悪いことにして謝った。

それで解決でいいじゃないですか?」


俺と冬雅の間に入ってきた真奈は穏やかな声音で提案した。

確かにここで誰が事の原因を決める犯人を決めつけるなんて優先度は一番上にあってはならない。


「その通りだよ。冬雅してきたデートお互い間違ってしまったでいいか」


「もちろん異論がありません。お兄ちゃん」


「んっ?」


「言い忘れました。

今年、最後に伝えたかったことあります。

愛しています――ずっと幸せになろう!」


「ああ!俺も愛している冬雅」

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