第4話―刻まれしクロニクル無相2―

すぐ近く経営していた喫茶店へと入る。

カランカランとリラックス効果のある響きを奏でるドアベル。

瀟洒しょうしゃな明るい色を使用したカラフルなレンガ造りの壁。それを相反するように置かれている家具はどれも落ち着いたアンティーク家具だ。

そして窓から陽の夕焼け色に照らされて美しいと感嘆の声をこぼれそうだ。

そしてコーヒーの豆がいた香ばしい匂いが入口に入って飛び込む。

なかなか名店かもしれない。いつか冬雅たちとここで入店しようと頭にメモする。


「何名様でしょうか?」


「三名です」


慣れた様子で三好さんは右手から指を3つ挙げて応える。コーヒーショップの店員に席を案内されて席につく。そして会話の前にすぐに注文を取ることにした。

俺はキリマンジャロを、三好さんはブレンドコーヒー。

そして俺の隣に座るイケメン、、、、、、はウィンナーコーヒーを頼んだ。


(どうしてイケメンさんが俺の隣に座ったかは今は気にしないことにしよう。

すごく、気にするけど…気にしないことにしておこう)


普通こうした流れだと見知らぬ俺ではなく知り合いそうな三好さんと横に座るのではないのか。向かいにいる三好さんに目で訴える。


「そんな、まじまじで見つめられると照れてしまうよ。もしかして私のこと今から告白をするのですか?

だとすると冬雅さんや真奈さんには秘密にしないとですね」


「いやいや、告白しませんよ。

声の調子から冗談だと言っていますよね三好さん。そうじゃなく…もういいです。

三好さんの話をゆっくり聞きますので遠慮なく何でも言ってください」


好意を向けられているのと向けられた反応ぐらいには、ある程度には見破れるようになっている。

表情が豊かな冬雅や真奈によって。

ひじをついて指を重ねるというエヴァの某キャラクターみたいにする。

何を訊かれるのか言葉を待っていると三好さんは言葉を整理しようとしてか指をおとがいに当てて考える。

そしてまとめたかおもむろに口を開くのであった。


「動揺を期待していたんだけどね…さすがに可愛いJK…とか相手にしないか。

隣の眉目秀麗くんを紹介したいだけ」


あっ、照れた。どうやら三好さん自分のことを可愛いと言ったことに恥じらいを覚えた。

ともあれ、彼を紹介したいとはどういうことだろうか?

やはり彼氏。でも、それなら俺じゃなく両親とか親友が先ではないかな。


「お初お目にかかります。

僕の名は田中兼三郎たなかかねさぶろうと言います。よろしくお願いします」


うわぁー!?びっくりした。

黙っていた彼――田中さんは頭を下げて自己紹介をしてきた。


「あ、ああ。これはご丁寧にどうも。

私は山脇東洋やまわきとうようと言います」


我ながら凄い名前だ。

かつての山脇東洋という名は江戸時代でいた医者の名前だ。そして呼び方が同じだけではなく完全な同姓同名。

ともあれ、田中さんの名前にデジャヴが頭に駆けている。

ふむ、三好さんとそう変わらない年齢なのに落ち着いた印象があるさわやかさ。


「あの…押し付けがましいと重々に承知してお願いに三好さんを協力して来ました。

その聖女と謁見えっけんをいただきたいのです」


「そうですか謁見の許可をしに………

え、謁見を。それに聖女?」


田中さんは一体何を言っているのでしょうか?俺の耳がおかしくなったのかな。


「冬雅のお兄さん混乱しているので翻訳しますと聖女とは真奈のことで、謁見は多分お会いしたいことだと思います」


真奈が聖女…ふむ確かに聖女と呼ぶには納得だけど。どちらかといえば女神だと俺の中では思うのだが。


「そう。それです三好さん」


田中くんよ。急に真奈と会わせてもらいたい理由を伝えるのが先ではないのかね?

これだと断るの一択しかないよ。

あとよく見れば田中くんは三好さんの顔を見て応えているようで彼の視線の先に向けられているのは壁。

目と目で合わせるのが苦手なのかな。


「いえ、まずは理由などを教えてくれませんか。ただ会いたいだけですと断るしかないのですが?」


すると田中さんは目を大きく見張って、前のめりになったことに気づいて照れ笑いを浮かべた。

そのあと魚のように口をパクパクし言いづらそうにしていた。それ男の俺の前でやられても困るのだが。

そして精神を整えようと息を吐いたり吸ったり繰り返し、そして意を決して

田中さんは目をまっすぐ俺に向けて言葉を言おうとした。


「それは…お恥ずかしい話なのですが。

僕……女の子が苦手なんです」


「そ、そう。苦手なんだね」


「聖女と出会ったのは駅でした。転んば僕を心配して手を差し伸べたのです。

いつもの拒否反応を起こしても聖女は嫌な顔するどころか僕のことを心配してくれました。ああ、彼女はなんて慈悲深いんだと

感動して涙を流しました」


そんなことがあったのか。

つまり彼は真奈を好きになったんだ。それが人としてが女性としてかは判断が出来ぬが。

奇行には無縁そうに見えたのになぁ。


「そんなわけで聖女になんとしても受けた恩を返したいのです。ぜひ、お願いします」


深々と頭を下げて田中さんは懇願した。


「冬雅のお兄さん…一言で言い表すなら真奈さんの信者です」


どうやらそのようだ。

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