第3話―刻まれしクロニクル無相―

この日の夕食は野菜をメインにした料理。

講義を終えた真奈を迎えに行った帰り道で献立の話になって決めた。

献立を決めるのは主に前日ではなく当日なのが多い。うちに遅くまで遊ぶ子もいれると

メニューを変えないといけないからだ。

好みとか人数分にしようと量など考慮して。

早速、帰ると手を洗ってから取り掛かり

ウインナーそのままに、一口サイズに切った野菜を中華料理に使う鍋の上に入れて蒸す。

そして副菜を作ろうとしてサツマイモを電子レンジで加熱しようとして――。


「あっ!お兄さん、ちょっと待って。

それだと発火してしまうよ。サツマイモの加熱時間は短くしないと。五分を超えると水分が少ないからマイクロ波で燃えてしまうの」


「えっ、そうなのか?

そんなことなるなんて知らなかったなぁ」


後ろから真奈がやんわりと指摘をうけた。

危うく六分で加熱を押すところだった。

水分が少ないとは分かってはいたがサツマイモ料理では素早く出来上がろうと電子レンジを使用するレシピもある。どれだけ加熱をしても大丈夫だと無意識に認識してしまったようだ。


「うん。でもどうしても使うのだったら、いつもの一分程度とかに設定した方がいいと思うよ」


「ああ、気をつけるよ。

真奈がいなかったら大惨事になっていたかもしれないと思うと…助かったよ。燃えずに済んでくれて、ありがとう真奈」


「フフっ、どういたしまして。

大惨事まで起きないと思いますけどねぇ。

…あの!お兄さん。えーと…そのですねぇ。

ワタシ時間が余っていたので肩こりの基礎を学んだよ。

それで趣味しゅみに勉強した腕前ですけど後でマッサージを受けてみませんか?」


屈託のない振る舞いを常にしている真奈が珍しく乙女のような反応する。

目を忙しく泳いでおり、真っ白な両頬をほのかに赤くなる。たどたどしい態度から勝手に経緯を脳内で紡ぎ出していく――きっと

真奈は肩を凝っている俺を見て、頑張って学んだのかもしれない。


「マッサージか…。そうだな。

それじゃあ夕食の後にお願いしようかな」


「わあぁー!はい。

ワタシ頑張りますので、頑張ってお兄さんが忘れないぐらいに気持ちよくさせますねぇ」


「あ、ああ。それは…タノシミダナ」


他意はない。そんな意図なんてないんだ。

純粋に真奈はマッサージで改善しようと意気込んでいるだけで、それだけなのだ。

真奈が不思議そうに顔を傾けていると、ピンポーンと居室に響き渡いたのは呼び鈴。


「予定が終わって冬雅が来ましたねぇ」


「そうだな。俺がドアを明けに行くよ」


そんないつもの楽しい日々。

けど、その時間は長く続かないのは俺も真奈

も知っている。いつか約束の日は訪れる。

その時が来れば答えを決めないといけない。冬雅と真奈が成人式になって付き合うかを。

そして翌日――今日は一人で買い出しにエコバッグを手にして歩いていた。

日は傾いており燃えるように暗さが混ざったかがやいている光。

そんな夕暮れの下で俺は交差点を渡りきると回り込んで歩行を立ち塞がる女の子。

サラサラの黒のショートヘア、理知そうでありながらアイドルような愛嬌のある瞳。

表情からも醸し出す個性も落ち着いている。容姿端麗なその子は冬雅や真奈の学友である

三好茜みよしあかね。三好さんは茜色をバックにして立っていた。


「もしかして三好さん?」


「ええ確かに私は三好茜というものです。

疑問形でかれるとは思いませんでしたけど気にしていません。

まさか確認しないとならないほど影が薄いとはつゆとも思いませんでした」


三好さんのメガネを奥を窺えれないが淡々と語り出すような声音には哀愁あいしゅうが漂っていた。


「ご、ごめんなさいでした三好さん!

その…前よりも綺麗でしたので三好さんの面影があるなぁと自信が持ってなかったんです。はい」


「前よりも綺麗なのですか?」


どうしてそのワードに反応を。嬉しかったのだろうか。しかし、その場面を既視感があって俺は頭にある違和感を解く。

ラブコメ作品をたくさん読んでいた知識からして、その反応はドキッとしたときの。


「は、はい。あっ!でも一般的に。もちろん成長して大人になったという意味です」


「そう心配しなくても簡単に好きになりませんよ。私が出た言葉というのは、もう

冬雅さんや真奈さんと擬似的とはいえ本当のデートを重ねて言葉のチョイスに失望したのです」


かなり辛辣しんらつな言葉ことで。

その苦言を聞かなことするには俺は成長していないのは自分が痛感していることだ。

冬雅や真奈が偏差値が高い大学に合格したからもあるけど、精神的にも目標を突き進めるのが凄いと感じている。

ゆっくり腐敗して諦念していく気配がある。

大学生、就職すると次第にそうなっていく歳であると持論があって俺の中では真実だと

思っている。


「あの…」


穏やかな声が後ろから聞こえる。

三好さんの視線は俺の後ろを向けていて、それが俺たちに声を掛けていると気づいて振り返る。

すると交差点を渡ったすぐに佇んでいたのは

整った顔立ちの男性だった。

眉目秀麗びもくしゅうれいな彼の年齢から三好さんと同年齢。だとしたら同じ大学生の友人か彼氏なのかな?

彼から三好と視線を移す。


「失念していました。彼が冬雅のお兄さんに用があるんでしたね。

そうでした、懐かしくて久しぶりに個人的な話をしてしまいました。

すみませんけど喫茶店で話をしませんか?

ここで話すと長くなりますので」


三好さんがそう言うなら長い話になるんだろう。俺はスマホを取り出して勉強している冬雅や真奈に帰りは遅くなるとラインでメッセージを送るのだった。

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