解体作業と不穏な噂
戦争開始から10日後、戦場だった場所は削られた土地を除き何もなくなっていた。
僕と陽さん、奏音さんの3人でそこに戻り、デバイスを使った戦争全体の記録をとるため、改造された軍用車両、団員たちには”団用車両”と呼ばれる、先の戦いの時に釘縞さんが乗り回していた車より一回り小さいものに乗り込んだ。
戦場では省エネのために使われなかったが、最悪奏音さんが発電できる上に、思ったよりも戦争で電力消費が多くなかったためこうして楽に移動しているわけだが…
出発時から気になって仕方ないことが一つある。
本当は聞くまいと思っていたが、目的地に着いて早々に聞いた。
「陽さん…」
「どしたぁ^o^?」
「なんつう格好してるんですかっ!?」
かなり楽そうな…というか、琴さんに教わった昔のこの国の服…着物だったかじん…甚平だったか。どっちがどっちか忘れたが、明らかに戦地で着るような格好には見えないものを見に纏い、風呂上がりの時よりもさらにだらし無い感じを醸し出していた。
「まぁ、なんだろう。本当は全裸でもいいんだけど…さ」
「いやいや…」
「もし陽くんが全裸で現れてた日には私、一生口聞かなくなるからね?」
運転席から奏音さんが降り、呆れたように言葉を捨て吐いた。
「って言われるだろうなって思ったから、この服にしたってわけ。割と動きやすくていいよ?胸元が広がりやすいけど」
「そ…そうですか。」
でも、まぁ…いつもの赤い服じゃなく、紺色の落ち着いた格好をしていると、違って見え…見え…やっぱ変わらないか。
各々で担当を分けた後、デバイスの指示通りに、右へ左へ。
地形情報の読み取りを行いつつ、能力の使用時に発生するという匂いやら糸、燃え滓などを探した。
探している最中、指の第一関節までぐらいの大きさの、金属片が落ちていた。
『これは…今回の戦争とは関係なさそうですね』
どういうこと?
『これ、銃弾です。ある日を境に銃そのものが消えたはずですが、銃弾は多少なりとも残っているのでしょう。』
でも、一昨日ぐらいに誰かが、銃弾飛び交ってた〜とか言ってんだよね…
『それはまた、不可解といいますか…一応こちらでも調べてみますね』
あ、これ先に先輩たちに渡しておくほうがいいよね?
『そうですね。でしたらあの丘の裏側にいるはずです』
りょーかい。
丘の裏に回ると団用車両の上に多分だけれど、奏音さんがいて、陽さんは車の脇で寝ていた。
「ようっ!遅かったじゃないか」
「いやいや、最初からおかしいとは思ってたんですよ」
僕と奏音さんで地面を、陽さんが空を担当することになり、さらに奏音さんは少し気になることがあると言って。
実質、僕一人で地上の調査をしたわけだけれど…
「いやぁ、空の計測って凹凸とかないからさ、小型の飛行デバイスを飛ばすだけなんだよね。」
「そんなことだろうと思いましたよっ!」
「で、何かあったのかい」
「一応これについて確認したくて」
そう言って、手に持った銃弾を見せた。
「あぁたま落ちてたんだ。いいよ、その辺捨てといて」
「は…はい」
「ちょっと!いま、銃弾とか聞こえたんだけど!?」
「え…」
何かを食べている奏音さんが、車上からひょっこり出てきた。
「あ…これはね…ちょっとお腹減っちゃったー…ってだけで…っじゃなくって!弾丸よ弾丸っ!」
「これですか?」
「ちょっとよく見せて!」
「あー動くの大変そうなんで、デバイスの方に写真送っておきますね」
レナ、よろしく。
『わかりました。…送信完了』
「やっぱり…ねぇ陽!これ…」
「…そうだよ。異常だよ」
さっきまでの陽さんが嘘のように、じっと空を見上げて呟いた。
「弾のことは、俺が調べるから。」
「じゃあ、あの噂は…」
「そうだよ。ある日…いや、俺が入団した日から使えなくなったはずの銃。代命能力により絶対の封印を食らったはずなのに、今回の戦いで使われた。そういうこと。」
「…え?」
代命能力により封印…
でも、代命、つまり命を対価にした絶対的な効果と強さによりどんな願いも叶える…僕の兄弟たちも持っている能力。
「あの…」
「まぁ、今何かあるわけでもないだろうし。もう既に予想はついているんだ。」
「そう…ですか」
これ以上踏み込むことはできなかった。
前にほんの少しだけ、陽さんの昔のことを聞いたことがあったけど、それが関係敷いているのかもしれない。
僕が過去のことをわせれていた時、大切な人を思い出せなくなっていた時に一緒に居てくれた陽さん。
わからないけど、今度は陽さん自身が何かを思い出したのかもしれない。
奏音さんもさっきから何も言わずにひたすらクッキー食べてるし…
デバイスの方は大方調査やシュミレーションを終えたそうで、今本部の方ではそのデータを使った疑似再現空間の構築を進めているという。
家に戻ると、ひどく疲れた顔をした神仇師匠がいた。
「どうしたんですか?」
「ああ…祥か…。ちょっとな、施設の一部が壊れてて、その修理に骨を折ってたわけよ」
「お…お疲れ様です」
「おうよ。坊主、風呂まだだろ?一緒に行こうぜ」
「あいよっ!」
すぐに自室に戻って着替え一式を持ち風呂場へ急行した。
今日は真っ白いお湯…
手を入れてみると、トロッとしてて不思議と吸い込まれるようだ。
「おっ、珍しいな」
戦後すぐの時は、いつもみたく普通のお湯が続いていたが、たまに変わり風呂があるはそのままのようで、また楽しみが増えた。
体や髪を洗い終えると、師匠と一緒に湯船に浸かり天井を眺めた。
「あ、星空」
「え?あ、ほんとだ」
「前からありましたっけ?これ」
「初めて見るな」
「そうなんですか?」
「あぁ。まぁ、団員の誰かが描いたんだろうな」
「そうなりますよね。にしても綺麗…」
家から見る星も、キャンプ中にみた星も今思えば綺麗だった。
「いやぁ、お前さんも、だんだん落ち着いてきたんだな」
「え?」
「こう、天井を見て気づいたりよ?多分だが、少しづつ慣れてきて、周りも見れるようになって…そんな感じに成長してる実感してる時期かと思ってな」
「まさにそうですね…ほんと…最近になってようやく頭が回るようになったというか、なんというか…」
「なぁ、最近陽助のやつ調子悪そうじゃねえか?」
「え?あ、そうですよね。」
まさか、こんなところで陽さんの話が出るとは…
「あいつ…人一倍責任感が強いから…さ?なかなか相談とかしてくれなくてよ」
「やっぱりそうですか。どうも、あの時の戦いで何か思うことがあったみたいなんですよね」
「思うこと?」
「言っていいのかわかんないんですけど…その…昔の」
「はいはーい。そこまでだよ少年っ!」
「陽さん!!?」
「陽助…お前…」
「言ったでしょ?これは僕の問題だって」
「何を馬鹿な…」
「陽さん…少し話いいですか?」
「…場所、変える?」
「お願いします」
男3人、湯船から上がると、普段あまり使わないサウナ室に入った。
「って、こっちでも話しにくいですよっ!」
「いいからいいから。ここなら短くすみそうだしさ」
「はぁ…」
僕ごときがこんなこと言っていいのかわかんないけど、いつも助けてくれる陽さんだからこそきちんと伝えなきゃいけないと思う。
「あの、僕。ここにきて、助けられることと頼ることについて、色々と思わされたんです。昔っから、誰かに頼られてなきゃ存在価値がないだとか、頼るにはそれだけどことをしてからじゃないとダメだとか。そう考えてました」
「…」
「でも、ここにきて自分一人の弱さを知った。陽さんは、僕からすればなんでもできる、すごい先輩です。もちろん師匠もたくさんのことを教えてくれますけど陽さんからもいろんなことで助けられたし、今こうしているのも、陽さんのおかげなんです」
えっと…えっと…
「だから、その、僕は陽さんに頼ってほしい。まだ何ができるのか、何をすべきなのか、何をしたいのか。そんなこともはっきりしない僕だけど、なんでもいいから頼られたい。
師匠に教わったことだけど、僕は強くなってみんなの役に立つ。そのために今頑張るって、いろんな人との今を大切にするって。そう心に誓ってるんです。
だから、その…陽さんも…」
あれ…頭が…クラクラして…き
「あ、おいっ!誰だよサウナ連れてきたやつ」
「あ、ヤッベェ…。とりあえず、休ませないとね」
「はぁ。全くお前も不器用だな」
会話は聞こえるけど口が回らない。
ふと気がつくと脱衣所の椅子に横になっていた。
「ごめんね。僕が、ふざけ…逃げたばっかりに」
「い…いえ…僕が勝手にやったことですから」
「ほんとに。祥は優しいんだな」
「…それは…みなさんが優しいから」
「そうだな。みんな…ほんと…お人好しがすぎるっていうかさ…」
「…はい」
「お〜い。目、冷ましたか?これでも飲んで、服着ろ服」
「あ…ありがとうございます」
ほんのり甘じょっぱい少し濁った水を飲んだ。
すると、全身に吸われるようにその液体が沁み渡る。
「全く、陽助も陽助だが、お前さんももう少し自分の状態に気づけよな。まぁ、気づけなかった俺も…だけど…」
「ほんとっ、優しい方しかいないですね」
「だな」
「なんだなんだ?気色ワリぃ」
「いやぁ、ほんとに…ああもうっ!」
髪をくしゃくしゃにした陽さん。
「明日…明日の朝、食堂で相談したいことがあるんだけど…いいか?」
「はいっ!もちろん」
「ありがと」
この後、陽さんのもていたまあだ使っていない甚平を借り、夕飯に向かった。
結構、甚平の季語ことが良くって、なんやかんや一着貰った。
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