狼煙でBBQ

珍しくというかなんというか、朝から雷雨が続いていた。

「さて、作戦前日な訳だが…敵勢力についておさらいをしておこうと思う」

すると横から小柄な女性がひょこっと現れた

久しぶりに見た気がする…

「じゃあここからは琴くん。よろしく」

「わっかりましたっ!ではまず軍からいきますね」

主要人物は10人。うち3人は戦場に出ることはないらしく、頭脳戦がメインのため省略。

一人目は第二王女。能力こそ、味方により強くなるものというのはわかっているが、未だ未知数。戦場に出てきた時から、脅威ではあるものの、決して相手を殺すことはないところから団としては何も手を出さない方針を続けているという。

二人目は実質上の軍のナンバー1。氷雨 源十郎。

国王の弟にして、水系統では負けなしの強さを誇り、その生み出す水により試合の流れを大きく左右するほどの力があるものの、ここ数年はあまり戦場には出てきていない。

がしかし、此度の戦争にて召集がかかっていることから最大の脅威として認識しておくこととなった。

三人目は前々回より現れた、砲台とも呼べる一撃を連発し、あたり一面を抉るほどの光線をも自在に操る特攻隊長。獅子熊 樹

そして、僕の兄弟をやった張本人と思われる。

四人目は暗殺特化型の未だ謎多き人物。

六人目と七人目に関してはそれぞれの持つ軍隊の長にして、鉄壁の護りを持つ兄と能力は火おこしだが、自慢の剛腕を振るい石をも殺戮兵器にしかねない弟という構成だ。

自由組に関して言えば、リーダーこそ全くの不明だが、それ以外は一対一での勝負を得意とする人たちの集まりだそうで数に弱いという。

とは言っても一人で並の軍人相手なら数十人は相手取ることができるほどの実力者揃いで、そのうち3人は一個師団をも壊滅させるほどの自己強化系能力者だという。

そして、先ほどからも上がっているように戦争の要とも言える能力についてだが…その代償は様々あり、時間制限であったり血液や余命、髪の毛の数に至るまで別れており、並の軍人だとしても能力との相性によってはかなり劣勢になりうるそうだ。

以上、1時間ほどいろいろな敵情報を叩き込まれた。

にしても、ここまでの情報をどうやって集めているのだろうか…

もうほぼ筒抜け状態じゃないか。


「では、次に昨日決まった作戦内容を伝える。皆、デバイスを装着してくれたまえ」

なんか異様…

『まぁ、敵勢力に情報漏れないようにするためですね』

なるほど。

ハ-ナビシステムを介し、20分ほどで作戦の細かな内容までをダウンロードし、解説を受けた。

そして12時丁度になり軍の方から宣戦布告が発せられた。

「軍が動き出すのが明日の朝5時。我々は3時までに仮拠点を建てつつ医療班の準備と通信設備の確立。双方への断続的な交渉を開始する。」

今回はどちらかにつくことをせず、互いの戦力が拮抗し、お互いに弱まっていくのを促し、最終的に停戦状態。可能ならばお互いが認めた上での終戦に持ち込む方向となった。

さっき、兄弟たちを殺した人たちのことを少しわかり、正直殺したいとも思ったが、それではこの団の役目を全うできない。

だから、その人の無力化を図ることを目標に接敵することになった。

神仇さんは軍のナンバー1を。陽さんは戦況を見ながら遊撃兵。

奏音さんは医療兵の人頭指示をしつつ、場合によっては自陣の防衛。

ミネさんも同様に動きつつ琴さんと共同で敵本部への奇襲を仕掛けるために行動するそう。

手綱さんや宇佐美さんなどもいつも通りの動きをしつつ他32名の戦闘員と50名の救護と自陣防衛をする担当、情報関係はボスを中心に12名で動き、残りの46名の団員は必要に応じてサポートへ。

非戦闘員は設備の手入れや本部の管理、と救護のサポートという役職わけをされた。

僕は、戦闘員か…

わかってはいたけれど、対人戦というのはやっぱり少し怖い。

「ま、がんばれがんばれ。お主は存分に暴れるだけで良いのじゃから」

そしてただ一人、狐巳さんだけは打ち上げ担当ということで、普段と変わらず過ごす役割に就いた。

「打ち上げ…何するんです?」

「ふむ。楽しみにしておるが良いわっ!」

「そうですか…」

「それとだな、此度の戦い。お前にかかっていると言っても過言ではない。初陣なんだ、色々なことを経験するんだぞ」

「は…はい……」

まるで、先のことがわかっているような言い方するんだな…

「ざっとそんな感じになるが、午後は食事を済ませ次第装備の点検とその他諸々最終調整をし夜飯を摂ったら交代制で睡眠をとる。最悪の場合三ヶ月に及ぶ争いになるだろうから覚悟しておけ」

一同 「了解」

僕は戦闘準備のためレナとの動きの確認をしたのち、安定の真っ赤な飯と初めて目にした黒い風呂を済ませすぐに床に着いた。


昨晩は不思議とすぐに眠りにおち、目覚ましより少し早い3時前に起床した。

「おはよう。祥」

「おはようございます!陽さん」

「どう?寝れた?」

「はい。自分でもびっくりなぐらい安眠しました」

「そうかい。それならよかった」

「あの、師匠は…」

「神仇さん?確か、前半の見張り担当だったから今頃寝ているんじゃないか?」

「なるほど」

「あれ?僕は見張りしなくていいんですか?」

「いやいや。君は仮拠点建設で手一杯になるからね」

「なるほど」

通路を進み、分かれ道にきた。

「じゃあ、またあとでな」

「はい!」

「あと、デバイスの予備電源も忘れず持ってくようにな」

「え!?」

「持ってないんだったら、奏音さんに頼むといいよ。彼女多分5個ぐらい持ってるから」

「わ…わかりました」

朝食を摂り、外に出た。

『デバイス起動準備終わりました。視覚補助つけますか?』

バッテリー的にはどうなの?

『今の状態で完全状態を使えるのは30分。通常状態ですと2時間が限度ですね』

仮拠点建設にどのぐらいかかるかわかんないけど、極力使わなくていいところは切っておきたいね

『わかりました。では、緊急時以外は切っておくので何かあれば読んでください』

わかった。ありがと


さっむ…

まだ日が登る前だが、すでに入り口近くではいろんな荷物が並んでおり団員たちも忙しなくしていた。

「おはよう。少し早いけど、これの運び出しお願いできる?」

眠い目を擦っている奏音さんがいた。

「おはようございます。これを、作戦場所に持っていけばいいんですね?」

カバンいっぱいパン本に詰まったものが置いてあった。

「そっ!戦いの初期に結構必要になるものが入っているから安全になるはやで届けてほしいわ」

「わかりました。あ、あと、予備のバッテリーってありますか?」

「ちょっと待ってね〜」

奏音さんがポッケに手を入れものを探していた。

「あ、あったあった。これが多分最大容量あるから、つけっぱなしだったら二日は通常状態を保てると思うわ」

「毎回毎回、手動で発電しなくていいんですね!?」

「そうね。ただ、使い過ぎるとデバイス本体のバッテリーに影響が出るから、普段は必要分だけの充電に抑えておかないといけないのよ」

「なるほど」

「じゃあ気をつけてね」

「はいっ!」

足場の悪い瓦礫道や森、時折立っている建造物を避けながら目的地へと駆けていった。

抱いたり12キロほどの距離だったが、40分ほどで汗ひとつかかずにつくことができた。

「ここ…かな」

瓦礫が押しのけられ、地面に大穴が空いたような場所に着いた。

すでに、入路な荷物が運ばれており地下の方は完成間近と言ったところだろうか。

「ようっ!」

「あ、お久しぶりです」

手綱さんは食堂での話し合いの時には見かけたけれど、こうして言葉を交わしたのは最初にあった時以来な気がする。

「じゃあその荷物をここに置いてくれ」

「は〜い」

「ええっと、万能ケーブルは…ギリだな」

紙を見ながらカバンの中身を確認していた。

「何か手伝えることありますか?」

「そうだな…じゃあ、これから届く荷物の中への運搬をお願いしようかな…多分ほとんどは食べ物だろうから地下室に種類分けして置いてくれると助かる」

「わかりましたっ!」

食料品はまとめて冷やしながら運ぶんだっけな。ってことは駐車場にいけばいいのかな。

思った通り砂埃を轟々と建てながら一台の大きい車がやってきた。

しかし、なかなか見えているのに来ない。

見えてから2、3分したが、止まっているようにも見える…

もしかして

デバイスが振動した。

「お〜い。バッテリーがやばいんだっ!誰かこっから運んでくれないか」

『とのことです』

了解。赤隥が向かうと伝えておいてくれ

『わかりました。送信中…』

『急ぎで頼むとのことです』

オッケー。最低限のサポートをお願いっ!

『わかりました。視覚サポートは入ります』

目を閉じ2秒後。疲れない程度に能力を持ってして車の方に向かった。

視覚のサポートのおかげで、最適な状態を維持したまま10分ほどで運び出しを終えた。

「ほえぇ〜。やるなぁ」

運転席にいた釘縞さんが褒めてくれた。

「車の運転ってどんな感じなんですか?」

釘縞さんは能力こそ、生活向けだが卓越した運転技術による支援を得意としている団員だ。

「どうって言われてもなぁ…体を動かしてるようなもんだからな、自分が強くなった感じがして、ちょっとしたロマンもあるってとこかな。どうだい?今度運転してみるかい?」

「いいんですか!?」

「ああ。でも、赤隥くんだと、バイクの方が似合うかもね」

「バイク?」

「おうよ。この戦争が終わりでもしたら、教えてやんよ」

「それは楽しみですね!すぐにでも終わらせねば…ですっ!」

「頼むぜ。ダークホース枠」

「ダークホースだなんて〜そんな〜」

褒めるのが上手な人だなぁ。

食料品のことがひと段落つき、作戦の第2フェーズに入った。


「これより、所定の配置につき戦況の確認と敵主戦力の鎮圧を開始する」

仮拠点では、戦闘班を5つに分け交代で出動できるように待機した。

基本的には救護兵一人に対し二人の戦闘兵で回りつつ、その場での治療が難しい場合や交戦し負傷した団員は仮拠点にいる救護班で対処することになった。

僕は初参加ということもあり、周りの指示に従いながらの初動となった。

戦闘班のうちの1つと、団が誇る情報班、ボス直轄の索敵や工作を行う精鋭数名がそうでで、逐一敵双方の動きを監視していくことで、戦争の流れを掴むのが初動。


戦争の火の手が上がる12時前。

事前にわかった、敵の主戦力導入の時間を配慮し昼飯を食べていた。

前に琴さんから教わった、昔と今の戦争形態の違いを今になってようやく理解できた。

いかに、楽して勝つか。

どちらが先に敵の主戦力を削り切るか。

あるいは長期化させて食料の枯渇を狙うか。

相手の弱点はどこか。

そういった、情報を軸とした能力メインでの戦闘なのだ。

数でも質でもなく、情報。

だから我々の団は、かなり有利な立場にいるのだ。

「うまっ」

戦争は始まる前に、決着がついている。

だからこうして焼肉を頬張っているけだ…

昨日までの緊張など等に忘れ、どんな戦いをしようか。そのことだけを考えながら夜をまった。

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