目には目を。命には命を。夢には夢を。

鳥の囀りで目を覚ました。

今日一日、本部では作戦の決定を行いつつ、情報収集班との合流など本格的な着々と備えを進めていくらしい。

僕は陽さんに言われた通り、とある場所に向かいつつ、そこでデバイスを使った廃墟での立ち回りの練習を行うことになった。

「じゃ、気をつけて行くんだよ?」

心配そうに奏音さんが見送ってくれた。

目的地までの道のりは、能力を使わずに出る最高速で使いつつ、体のコンディションをレナに測らせた。

『すごいですね。最初に測定した時からみればかなりいいコンディションです。特にお腹周りから腕にかけて、かなりの成長がありますよ』

まぁ、普通じゃない?

『そうですね。参考までに、他のデバイスの情報から見ても異常なレベルでの成長ではあります。』

そんなに!?

『まぁ、能力によるものと考えるのが自然ですが、かなりの自己再生能力も持ち合わせているのかと。』

自己再生って…そんな大袈裟な

『それに関しては、筋肉の発達の速度から見ても明らかであり、また、日々の食事にも何かしらの効果があるのかもしれませんね』

まさか狐巳さん!?

『確定はできませんが、恐らく』

なるほど…あの赤には意味があったのか…

『いまの筋状態から見て、お薦めされる筋トレはレッグエクステンションですね。あ、左曲がってください』

レッグ…なんだって?

『レッグエクステンション。足の筋肉を中心に鍛える方法なのですが、最初のうちは神仇さんに教わりながらするのがいいかと』

なるほど。帰ったら聞いてみるか

『それがいいですね。あ、そこで右』

そうしているうちに、大きな倒れたビルとたくさんの瓦礫、抉れるように地面が凹んだ所などが集まった場所にでた。

ここは…

足をすすめると、赤黒い岩と焦げた匂いの強い場所があった。

あ……弟………。

僕はここで、大切なものを失っていた。

何故それを忘れてしまっていたのか。

どうして、彼らを失ったのか。

リーダーはどこにいるのか。

何よりも忘れてはならないこと。

いや、本当は覚えていた。

だけれどもそれに蓋をするように、目を背けてきていた。

そんな…

『いやいや。蓋をしていたのは僕らの方さ』

「くーくん!?」

思い出すよりも早く、無くしてた言葉の一つが漏れ出た。

すーちゃん…ふーくん。

『久しぶりだね。しょーちゃん』

その場にリーダーはいないけれど、忘れていたものが溢れるように出てきた。

生きてい…

『あの時は咄嗟だったからこうやって…ね?ごめんね。気持ち悪い思いさせて』

「そんなことどうでもいいんだよっ!それより、早くこんな所から一緒に出ようよ…ね?」

「あちゃぁ。やっぱ、最初に言うんはそれだったかぁ」

「ね?すーちんなんかより、僕の方がしょーのことわかってるってことだね」

「いーや、僕の方が知ってるねっ!」

「みんな…?」

「すっごく、言いづらいんだけどさ…その…僕らは死んじゃってるわけ」

「…」

「だから…その…ね?こうやって話せているだけでも、ラッキーっていうか…」

「少しの間だけ、君の心の中で生きている…みたいな?」

「なんだよ…それ」

「冗談なんかじゃないぜ?もしそうだとしたら、お前の今流れている涙はなんだ?」

さっきまで不明瞭だった視界が溶け、あの時のまま止まっている彼らと目があった。

本当はわかっていた。

彼らが本当に死んでいること。

うちらのリーダーが何かを隠していたこと。


「もう、あまり時間が残っていないんだ」

「そんな…」

「うちらでも死んでからわかった…って言ってもおかしいけど、うちらのありったけを託すから。受け止めてほしい」

「……」

「じゃあ、まずは俺からだな?」

この中だと最年長のすーちゃんが口火を切った。

「まず、俺の本当の名前だが。苗字を氷雨、名前を傑。だからすーちゃんだ。で、最初に言うが、うちら3人は代命能力を持っていてだな…」

「まぁ、僕だけは純粋な代命能力だけど」

「俺は、この世界の全てを凍てつかせるということ限定の能力だ。」

「まったまった…つまり、すーちゃんは王族ってこと?」

「遡ればだが、そうなるな」

「で、ぼくの名前は朔楽 くいな。君の知ってる陽さんは遠縁にあたるんじゃないかな」

「え?え?え?ちょ…頭が」

「でー、僕は」

「…ふーくんは?」

「わっかんないんたよねぇ!」

「あーはいはい。で、くーちゃんはどんな代命能力なの?」

「絶対防御とでも…いうのかな。一定期間誰も傷つかないみたいなものらしい」

「なんか…すごいね…」

「いや。それですごいって言ったら…ねぇ。」

「ほんと」

「祥ちゃんはそれら全て使える状態な訳だから」

「は?」

ふーくんのそのセリフに、また思考がフリーズした。

「おーい。君の能力なんだけどさ、死んだ仲間との思いとか関係性とかだけじゃなくって、ある程度仲がいいとそのまま能力も身に宿るみたいなんだよね。」

「へ…へぇ〜。どどど、どうしてそれが…わかったの?」

「それはね!しょーちゃんが暴走状態のときに色々してたからだよっ!」

「暴走…じ…え?」

「たまに起きた時に拘束とかされてかなった?」

「…さ……されてた」

「その時のことだよっ!」

「うっそ。もしかして、拘束される前って…」

「君の新しい家族が総出で抑えてくれてたね」

「やっぱりか…ほんと、迷惑かけてばっかしだな」

「いやいや。あの人たち、本当に祥のこと大事に思っているんだね。お陰でこっちも安心してうちらの祥を任せられるよ」

「ほんと。祥は頼ることを知らなかったから」

「いっつも、支えてくれてたよね」

「それは…」

そうでもしなきゃ、居場所が…

「祥がたくさん悩んで、いたのを見てきたのに、こっちが支えてあげれなくてごめんね」

「いや。僕はただ…」

「祥ちゃん!これから、もっと大変なことに巻き込まれると思う。でも、僕らはずっと君のこころの中にいるから。」

「今度こそ、僕らが祥を支えるからさ」

「自由に、思い思いに暴れちゃいなよっ!」

「みんな…」

「さぁ。そろそろ目覚めて。君のパートナーが待ってるぜ。また、迷ったら心に手を当ててみ。俺らが強くなる魔法をかけてるからさ」

「うん。ありがと」

「さ、行けっ!」

「あいよっ!」


『祥…祥…どうしたのですか?祥っ!』

…レナ…。

『よかった。目を覚ましたのですね?』

…あぁ。ちょっと夢を見ていたよ

『夢…ですか?』

あぁ。自分の心と向き合う夢。

『……思い出したのですね』

うん。それに、色々とわかったことがあるよ。

『なるほど。それは興味深いですね』

でも多分、今すぐに思考がまとまりそうにないからさ…なにか、こう。メモみたいなのできるものない?

『メモ機能起動。これで、心の中で言ってくだされば全部文字に起こせます』

ありがとう。じゃあ早速


•代命能力について

•僕の能力について

•友がまだ心の中で生きていること

•これから大きなことが起きること

『本当に、色々あったのですね』

まぁね。僕の兄弟はみんな代命だったり、僕が死んだ仲間の数だけが力の源ってわけじゃなさそうだったり、心に手を当てると…

すごく力が湧いてくるようになったり。

何かまだわかんないけど、きっとこの能力によって大きなことに巻き込まれる可能性が高いこと。

あ、一応他のデバイス間で共有はしないでね。

今はまだ、僕とレナだけの秘密にしてたい。

『わかりました。秘密…なんかいいですね』

そぅでしょ。あ、あとそうだ!これから日記を書こうと思うんだけどさ、今書いたところの続きに書き溜めたいんだけど…

『わかりました。祥が書いたら、私がそれをオリジナルの暗号化で保護していくので、最悪漏れ出ても大丈夫なようにしておきます』

ありがとう。助かるよ

じゃあまずは…

レナとの訓練をしつつ、思い出したこと全てをかけるだけ書き残しておいた。

多分、こうしておけば見えてくるものも出てくると思ったからだ。日が暮れるまでにそれを続け、ひと段落がついた所で家に帰った。


「おかえりぃい!どう?大丈夫?怪我はしてない?」

「奏音さんっ!赤隥 祥なにも問題ありませんっ!」

「そう。ならいいのだけど…すこし、顔つき変わった?」

「男子三日合わざればってやつだなっ!」

「いやいや、半日も経ってないわよ?」

「俺の弟子なんだ。成長も人一倍さ」

「いやいや。別に神仇さんの弟子だからじゃなく、可愛い可愛い祥くんだからよ!」

「いや、僕は。」

「坊主。気にするなよ」

そう言い残してどっかに去ってしまった。

「心の中と向き合ったのね?」

「はい。でも、僕は…」

「いいのっ!私もそれに関しては神仇さんと同意見。君だからこそ、私たちは護りたいって思ったの。だから、またいつ暴れちゃっても問題ないわっ!」

「やっぱり、暴れてたんですね…僕」

「あ、いや、違くって…その。兎に角っ!祥くんは祥くんだから!問題ないってこと!」

「ほんと、ここの人たちは優しすぎますよ…」

「そう?そうやって笑ってくれて、よかったわ」

「でも、しっかり助けられた分は多めに返さないと気が済まないのでっ!よろしくお願いします」

「はいはい。頼りにしてるわ」


どうやらまだ仕事が残っているらしく、奏音さんは何処かへ行ってしまった。

「今日は先に風呂入ろうかな…」

自室へ着替えをとりに行き、デバイスを充電した。

小慣れた道のりを進んでいると、明らかに風呂の匂いが異常になっているのを感じた。

まさかね…

服を洗濯機に放り込み、着替えを棚の上に置きタオルを巻いた。

恐る恐る湯船の方を見ると、綺麗なほどに真っ赤だった。

「やっぱりか…」

後ろを向くと、狐巳さんが立っていた。

狐巳さん…狐巳さん…

「えええ!?どうしてここに!?」

「いやここ、女湯」

「うそぉお!?」

「見てきなよ」

慌ててタオル一枚で飛び出し確認すると、男性用暖簾だった。

が、横を見ると風呂上がりのミネさんをはじめとする数名の女性団員たち。

当然聞こえる叫び声。


「狐巳さんっ!?」

「いやぁ…てへっ」

「ってかなんで男湯にいるんですか?」

「一応、私男だから」

「もう騙されませんよぉ?流石に悪戯でもこれは…」

「……男だもん。私、男の子だもんっ!」

「いやいや…」

とうとう半泣き状態の狐巳さん。

「やぁ、狐巳くん。誰に泣かされたんだい?」

「…ばかさか」

「ほう?少年、泣かせたのかい?」

「いやいやいやいや…ここ男湯ですよ?」

「何が問題なんだい?」

「え?」

「彼女はれっきとした男の子さ」

「なるほ…って、どっちなんですか!?」

「あはは。ごめんごめん。彼は両性だからね彼とも彼女とも取れるってわけ」

「な…なるほど」

「というより、能力を主とした人のようなもの。そう紹介するほかないんだ」

「そういうことだったんですか」

「うむ」

「ごめん…なさい?あれ…じゃあなんで泣いてたんだ?」

「両性ジョークだよっ♡」

「な…なるほど」

「まぁあれだ。性別は特に考えなくていいってことだ。」

「そうですか…」

「さぁ、このままじゃ風邪ひいちまう…早く入ろうぜ」

男二人と狐巳さんの3人で、芯まで真っ赤な湯に浸かった。


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