そこに山がある?いや、全てがあるんだよ
朝5時半。
食堂の机に、山のような見たこともない道具と、服や食べ物が並んでいた。
「おうおう。こりゃ坊主こ荷物も結構大変なことになるだろうなぁ」
「あ、おはようございます。師匠」
「おう。なぁ、先に朝飯食わねぇか?」
「いいですね。じゃあ注文してきます!」
「お?じぁあ俺はC定食で頼むわ」
「ええぇ?朝からあのフルコース食べるんですか!?」
「いやぁ、食えば食うほど力が湧くというかな…特に今日は長距離移動だろ?今のうちに蓄えときたくて」
「わ…わかりました。」
…僕もC定食にしようかな
案の定、食べるのにものすごく時間がかかった。
「なぁ、ミネの嬢ちゃん遅くねぇか?」
「言われてみれば…そうですね」
「まぁ、昔だから鈍臭いやつだったから、気長に待つと..」
師匠は女性に弱いのかもしれない…
恐ろしく強い威力のチョップをくらい、頭を抱えていた。
「悪かったわねっ!鈍臭いんじゃなくて、女性には色々とやることがあるの。わかる?」
「はいはい。だからって、殴るなよぉ〜」
「おっさん、マゾなのに?」
「はぁ?誰がドMだってぇ?」
「いやいや、少し前まで、筋肉痛で笑みを浮かべてる変態だったじゃない」
「うっ…それは…その…成長を感じてただけで」
「ふーん。まぁいいわ、八時には出発したいから、それまでに準備済ませておきなさいよ?」
「へいへい」
「わかりました!」
「あぁ、坊主!返事は?」
「わか…あいよっ!」
「よし。あと一週間ぐらいはそれでいてくれ」
「わかりました」
「…」
「あいよっ!」
食べながら、五日間分の経路を確認した。
周辺の山々に置いてある天気や地層、生態系を調べる機械の検査•修理を兼ねて行うこのキャンプ演習。
山を回るように進みつつ、途中で王都への最短ルートを教えてもらったり、デバイスを使った行動の最適化に慣れたりするなどやることがいっぱいだ。
「あ、バッテリー持っているわよね?」
「はい。言われた通り2本持ってきていますっ!」
「おっけー。最悪、物が足りない時は私が作り出すけど、電気とか食べ物はなんかうまくいかなくってね。」
「なるほど…」
「じゃあそろそろ出るか?」
「そうね。じゃあ私と祥ちゃんがデバイスを通常版で起動。ひぐちゃんはなにもしなくて良いわ」
「おう!俺は全く使えないからなっ!」
「あんたが脳筋すぎるのよ」
「そうか?」
「ええ。とても」
ほんとこの人たち仲良いなぁ…
「さ、行くよ?」
「あいよっ!」
『ハ-ナビシステム起動。個体識別名”レナ”全動作調整…完了。準備できました』
一同が分担して荷物を背負い、今日の経路を確認した。
目的地の山は標高こそ高くはないものの、足場が悪いらしい。
その頂上には降水量や気温、風の流れを事細かに分析する設備があり、その動作確認と充電器の検査をするそうだ。
そこで僕はデバイスを使ってサポートしつつ、師匠はキャンプ地の確保と周辺の探索を行うことになる。
「さ、出発よ!」
「おお〜」
かなり歩いたと思うが、先輩二人は息ひとつ切らしていない。
ミナさんは多少持ち物が少ないとはいえ、かなり早い足取りで先導していた。
途中、休憩がてら草原に寝転がっていたが、もう既に体のあちこちが痛くなってきたのがわかる。
「坊主。荷物持ってやろうか?」
「い…いえ。これも訓練…ですから」
「そうか。ならいいが…自分の限界一歩手前を把握しておくのも、大事なことだからな。それを知ると知らぬとじゃ、長期戦やら遠征で良い状態を保てないからな」
「ほんと、戦闘戦闘って…ほかにも役立つでしょ?」
「そうか?」
「例えばほら、農作業とか地域清掃とかゲームとか!」
「けっ!結局はゲームかい」
「いいじゃない!昔の電子ゲームなんて何日もかけないとクリアできないのよ?」
「それは…そうだな」
「でしょー。あ、そうだ!今度祥ちゃんもうちの部屋来なよ!買い漁った積みゲーが山のようにあるからさ」
「積みゲー?」
「王都の古市でちょくちょく掘り出し物のゲームが出回るのよ。で、それをうちの技術班に頼んで今でも遊べるようにしてもらってるってわけ。でも、その量が多すぎて山のようになっちゃってて…ね」
「なるほど…ほんと、教わった以上になんでもやってますね。この団」
「そうねー。昔の文化とか本とかもそうだけど、習慣とかあとは…」
「言葉とか食べ物とかだな」
「そう!それらをこのデバイスの共有ネットワーク上とかクラウド…まぁ、ふわふわしたデータの倉庫みたいなとこに残していくのも、一つの目的だからね」
「なるほど」
「あー。でもこいつは単にゲームで遊びたいだけだからな?そこんとこしっかりしとけよ?」
「いーや!これもれっきとした団員としての行動ですぅ」
「…」
むしろ喋り疲れた気もするが、また再び足を動かし始めた。
かれこれ出発から3時間が経ち、目的地に近づいた。
さっきの休憩以降、かなり険しい道のりだったり泥濘んでいたのもあり、一度は山から落ちかけたりもしたが、なんとかつくことができた。
流石にミネさんも汗を少しかいていたが、何故かふんわりとした甘い香りが漂っている。
一方、師匠の方はむしろ元気が増したかのように仕切りに体を動かしている。
これが、筋肉バ…
「じゃあ、予定通り私と祥ちゃんが設備を。ひぐちゃんが、まぁ適当に動くってことで。あ、キャンプ場所決まったら伝えに来てちょうだいね?きり見てそっちに行ってご飯食べたりもしたいし」
「へーい。じゃ、まぁ。1時間後ぐらいにでも戻るとは思わ」
「おっけー。じゃ、荷物もよろしく」
「え?」
「私の荷物着替えと、食べ物だけだから」
「なんで俺が」
「いいじゃーん。ほら、あんたの好きな筋トレだと思ってさ…ね?」
「はぁ…仕方ねぇなぁ」
「ありがと。あ、私の着替えがあるからって中みちゃだめよ?」
「へいへい。興味ないから安心しろぉ」
「…なんか、馬鹿にされてる?私…」
自分の体を見回すミナさん。
「めんどくせえなぁ」
「まぁ、いいわ。じゃ、よろしく」
そんなこんなで、分担してな行動が始まった。
四角い無機質なもんを開け、中に入ると暗い廊下が続いていた。
中に入る前に、デバイスから首と顔につけるやつを取り出し、起動しておくように指示された。
そして、通路の周りを検査しながら進んでいる時のことだった。
「ねぇ、祥ちゃん。私…そんな魅力無い?」
「そんなことないと思いますよ! 最初見た時もすごく印象的でしたし!」
「そう? ありがと」
『まったくあの人は鈍臭いんだから…と言ってるような気がします』
そうだね…そう呟いてるのが目に浮かぶよ…
『まぁ。彼女のデバイス”フーリ”ま、結構大変みたいですよ…結構愚痴ってます。』
愚痴ってる!?
『っていうのも、感情の起伏が激しいと、処理するデータらは脳も増えて結構面倒くさいんですよ。彼女のあらゆるところでデバイスつけてますから』
言われてみれば…首にはいつもデバイスつけてた気もする。
にしても、機械の心にも面倒臭いってあるんだね
『はい。ただこれが、プログラムされたものなのか、何かのデータから導き出したものなのか、単純に自我として芽生えたのか…自分でも良くわかんないんです』
「それは…そう…なのか?」
『ええ。でもまぁ。少なくとも、全部がプログラム通りに動いているわけではないんです
よ。そのせいか、口調や語尾が曖昧になってまして…』
なるほどね。まぁ、楽なようにしてくれると嬉しいよ。
『わかりました!』
うーん…ムズカシイネ。
「そこ段差あるから気をつけてね」
「あ、はい!」
『空間把握機能付けますか?』
うーん。お願いしようかな!
『了解しました。三秒ほど目を閉じてください』
おっけー。
「お、祥ちゃん視野サポつけれるんだー!ほんとにSなんだね」
「え?どういうことです?」
「私も適性Aあるから、ある程度のことはできるんだけど…体の機能を拡張させるのは、あんまし出来ないんだよね」
「そういうもの…ですか」
「そうなの。で、視覚処理とか感覚系はほんとに適性ないと、体が拒否反応示しちゃって…ってこういうのまだ習ってないの?」
「そうですね…全部使えることだけしか知らないです。」
「あぁー。じゃあ、まぁ。このキャンプで色々と教えていくわね」
「ありがとうございます!」
「いいのよ。いくらハナビシステムが優秀でも、共存共栄?っていうのかわかんないけど、お互いを理解するって大事じゃん?」
「はい。」
「ほんとに君は良い子ちゃんだ…それに比べ、ひぐちゃんとくれば…!」
「あの…」
「うん?」
「ミナさんって、師匠…神仇さんのことが好きなんですか?」
「はぁぁあ!?」
この時、嶺嶋 静雅 齢21歳はここ数年で1番鼓動が早まったという。
「わ…わた…私が…好き!?」
「え?違うんですか?」
「ないないないないないっ!ほんとっあり得ないからっ!」
「そう…でしたか。」
「そうよっ!もう。心臓に悪いわぁ〜」
恋について…少しでもわかるかと思ったけど、無理そうだな。
『あー。はい。私と恋については気になるところではありますが…その…聞くなら、恋し終わった人に聞くのがよろしいかと』
なるほどね!助言ありがと
『いえいえ。これ以上彼女を天然の鞭で叩くと、またフーリの愚痴を聞かされる羽目になるので…』
え?
『まぁ、気にしないでください。それよりも、もう少しで目的地ですよ』
え?あ、ほんとだ。
『はい。ではまた省電力モードに戻りますのでそれでは』
ありがとー
スッといつもの視野に戻り、辺りが暗くなった。
「少し離れてて」
「はい!」
ミナさんが何処かしらかでスイッチ押すと、館内に機械音が鳴り響き始めた。
10秒程すると、上と下に続く階段が出てきた。
「じゃあ、こっから先は二手に分かれようか!」
「え…でも…大丈夫!修理が必要なら私行くから!上に行ってデバイスをなんか黒っぽい箱に乗せるだけだからさ」
「…わかりました」
「じゃ、私は下で作業してるから、何かあったら呼んでちょうだい!」
階段を登りきると、パッと照明がついた。
辺り一面はに色々と見た事ののない機材が並んでいた。
「ここ…かな…」
ちょうど部屋の真ん中に一際目立った黒い箱があった。
側面にはハ-ナビシステム搭載型デバイス設置場所と書いてあるから間違いないだろう。
「よしっ」
そっと置いてみるとデバイスが青く光り、首につけた方の機械が振動した。
『一旦、子機を外しておいてください。つけれるようになったら呼びますから』
了解
一旦元々ついていたように子機を板の裏にしまった。
「デバイスってこの三つ合わせて指すんだっけ…」
本体は一応この板ということになっているらしいが、そもそもデバイスという意味がそういった電子機器全体を指す言葉らしいし…ややこしい。
あたりを見渡しつつ、少しするとデバイスの方から音声が聞こえた。
「データ収集完了しました。5分後より通常状態での利用が可能です」
おお〜。何もしてないけど、使いこなした感があるっ!
デバイスを首とこめかみに取り付けつつ、本機をカバンにしまった時だった。
下から猛烈を通り越した威力で叫び声が聞こえた。
「いやあああああぁあああぁっ!」
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