負け続き
吹き荒れる風。煌めく太陽。
男二人が相対するなか、その時をじっと待っていた。
来い…来い…来い…
「キタァああああ。ラスワンじゃぁあ!」
「くっそおぉお。なんで師匠ばっかり…」
「ガッハッハ。経験の差ってやつよ。」
赤青黄緑紫の5色のカードに、番号やマークが振られ、全部で5枚の黒色のカードには自分が有利になる効果が備わっており、それらを駆使して手札のカードが無くなると勝ちというゲーム。
「こうなったら…これでどうかしら!?」
「え?」
ここまでに既に5回、黒いカードが出ていたはずなのに、また出てきた黒カード。
「このカードは、隣の人と手札を交換することができるってものよ。さ、早くよこしなさい?ひぐちゃん?」
「かぁー、いつからそんなに生意気娘になったんだミネ?そこは、あえてその効果を使わないのが礼儀ってもんだろ?」
「はー?なんで、ひぐちゃんに礼儀を取らなきゃいけないんですかー?仮にも先輩なら、少しぐらいは後輩をたてなさいよね?」
「あぁ?勝負ごとは本気でやるから楽しいんじゃねぇか」
「なら、とっとと渡しなさいよ!あなたの手札!」
「えーやだー」
この先輩方は…まったく…。僕がはいる前ものこんな感じだったのかな……
「にしても、急にこんな天気悪くなんて。ついてないわね」
「あぁ。まぁ、こんな世界だしな。いつ槍が降ってもおかしくないだろ」
そんなこんなで五日が過ぎた。
黒カードは24枚まで増え、なんか僕だけ手札が異常なことになっているが、まだ戦いも雹だか竜巻とやらも絶えず続いていた。
「いつになったら、模擬戦できるんすかね」
「だなぁ。あ、一応伝えた通りのトレーニングはしてるんだろ?」
「ええ。まぁ。それが強くなるために必要だと教わりましたから」
「よしよし。いつ能力が消えるかわからない。そんな気持ちで取り組むようにな!」
「ねぇ〜次はおじさんの番ですけどぉ?」
「はいはい。そうせかせかするな。ハゲるぞ?」
「私ははげませーんっ!むしろハゲるのはそっちですぅ〜」
「はいはい。じゃあリバース」
「リバース返し!」
「ふん。リバース」
「さらにリバースっ!」
「やるじゃねぇか。っておい、坊主全然カード減ってねえじゃねえか。大丈夫か?」
「あー。ほんと、ナンデデショーネー」
次の日。
「ようやく晴れたな」
「ですね」
「やっと外に出れるわ!じゃ、私は明日からのキャンプの準備諸々を先にしてるから。とっとと、やることやっちゃって、手伝ってよね?」
「おう。」
「はーい」
「じゃあ、訓練場行くぞ〜」
裏門から外に出てしばらくすると、それなりに大きな円形の闘技場のような建物が見えた。
「え?室内なんですか?」
「いや、何通りかの地形があってな、その調整とかいろんな実験するために一部だけは屋内だが、それ以外は普通に外と変わらん」
「そうなんですか…」
「で、地下は他に大事な機械とか部品だかがあるらしくてな、一応気を付けておいてくれ」
「あいよ〜」
「あと、服はこれを使う。お前さんはどちらかというと攻撃手になるだろうから、耐久性の高いものにはしてある。ま、最初は慣れないだろうが、慣れれば結構役に立つと思うぞ」
「ありがとう…ございます」
硬っ!?
「もう拳銃の類は使えない世の中とはいえ、いつ使えるようになるやもわからんし、ある程度の攻撃は跳ね返せるぐらいじゃないといけないからな」
なるほど…中に入るとすぐにまた門が出てきた。
「この奥で、戦闘をする。始まるタイミングはそっちに任せるから」
呼吸を整え、止めた足取りを動かし始める。
真ん中まで行き再び足を止める。
目の前には、無防備な格好ともいえる師匠。
…なめられてるのか?
ここにきて、誰にも勝てずにいるのを思い出した。
「勝ちますっ!」
腕も体も前に比べすごく軽い。
が、そこに込めれる力は前にも増して、その動きは空を切るようだった。
確かに喰らわせたはずの一撃。
相手に当たった感覚もある。
前と違って打ち消された感覚はない。
そのはずなのに、微動だにしない師匠。
この時、神仇 日暮はこう感じた。
まだまだだなぁ。と
続け様に、何遍も何遍も拳を突き出す。
陽さん直伝の、人間の弱点箇所三選も時折狙っているが、難なく回避される。
「おいおい。いいんだぜ?本気でやってもらって。それとも何か?殴りにくいか?」
「今ので、すごく殴りやすくなりましたっ!」
「そうか。さ、かかってこいや」
結局、師匠は一時間以上その場から一歩も動くことはなかった。
「まぁ、大体わかったわ。」
「え…」
「お前さん、まともに喧嘩したことないだろ?」
「…はい」
「殴ってる時、何も考えてないだろ?」
「…はい」
「勝手に投げやりになったよな?」
「…なった」
「というか、勝ち方も知らないんだな。」
「…はい」
「だが、まぁ。この団なら俺、陽助、ボス、手綱。この四人以外には勝てるだろうさ」
「…え?」
「坊主は経験と筋肉以外は誰よりもいいもん持ってるからな」
「でも…」
「確かに、俺は全く能力を使ってなかった上に無傷だ。逆にお前は、もうまともに立たないだろう。」
うぅ…そう言われると意識しちゃって、余計痛い…
「まぁ、戦いっていうのは、どう自分を守るか、周りを守るか。柔らかい思考と強い意志があるか。それだけのことでも、結構変わってくるもんだ」
「なる…ほど…」
「たとえば…そうだな。坊主、俺のこと後ろからは襲わなかったよな?」
っつ!?
「じゃあまずは最初のアドバイスだ。」
「戦いっていうのは、ただ相手に殴りかかることだけじゃダメなんだ。最終的に勝たなければ意味がない。そのために、まず今でき手をいくつも考え、それを試しながら相手の動きを見る。そのためには、その争いの主導権を握る必要があるんだ。」
「え…」
「まぁ、それこそ経験がものを言うが、まずは相手に気をまかせるためにいろんなことを試すことだな。防御はまだいい」
「わ…あいよっ」
「よし。じゃあ次は俺を倒すのではなく、一歩でも動かすための戦いをしてみろ。まぁ、次はこっちからも行くからな。」
師匠は片足立ちになり、ゆっくりと構えた。
「いいぜ?来なっ!」
自分も一度呼吸を整え、丹田に、肺に、足の指先に、力を巡らす。
「後ろ…」
多分、ただ後ろから狙うだけだとダメだ…
なら。
3秒後、さっきまで壁というより当たり前とも言うように立ちはだかる神仇 日暮を一歩動かさせた。
直感。信じるには物足りないそれも、戦闘となれば別らしい。
片足立ちの時の力の流れを読み、地面と接していない足と両手の可動域を抑えてる。
多分後ろから蹴ってもびくともしないだろう。
が、正面ももってのほか。
狙いやすい顔も、1番早く反応される。
なら狙うは一点。
最高速で繰り出す目への一発からの、膝。
別にこの思考は、殴る前に組み上がったわけではない。
膝を狙うより先に相手の思考をズラす。
それすらも体が動いてから、直感的な一撃となった。
多分これが、経験による戦闘というのだろう。
軸足ごと押し切ることで、ようやく相手を動かすことができた。
そうして、防御無視が災いし鳩尾に強烈な一撃を喰らった。
目覚めると、もはや見慣れた敗北後の天井と、手足を縛る枷があった。
また、勝てなかった…
勝てる気もしなかった。
………強く、なれない。
「よっ!」
「し…師匠!?」
ほっぺに真っ赤な掌の後をつけ、少し目元が潤んだ師匠が横にいた。
「あの…」
「悪かった。痛かったよな?」
あぁ…いや、痛みを感じる前に意識飛んでいたからなぁ…
「もう手と足の枷はいらなそうだな」
「あ、ありがとうございます」
「まぁ、能力も関係なく体が覚え、頭で理解し、より良い動きにしていく。その経験にはなったろ?」
「はい!」
「良かった…次は、もう少し気をつけるからよ…その…」
「師匠!次はカウンター決めてやりますから!また対戦よろしくお願いしますっ」
師匠の顔が、いつも見てたのより緩んだ気がする。
「だからって、可愛い後輩くんに全力をお見舞いしちゃダメですよ?神仇さん?」
あ、奏音さん…
「あぁ。すまんすまん。何、すぐにこいつは俺よか強くなるから心配すんなって」
「そうは言っても…ねぇ?祥くん」
「はい!もっと強く…なりま…す!」
「はぁ…」
少し呆れからのため息混じりでも、師匠と同じで優しい笑みを浮かべてくれた。
ここまでさせたんだ。絶対に強くならなくちゃいけない。
…がんばるぞっ!
汗だくになっだ服を脱ぎ、風呂に浸かり、そしてまたすぐに眠りについた。
そして、明日からキャンプ演習がはじまる。
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