師匠っ

ここにきて一ヶ月が経ちようやく慣れてきた。

さて、今日は何をしようか。

ここんとこ一週間は色んなとこに出向いてお手伝いをして過ごしていた。

そういや最近ボスを見かけないなぁ…

「えーごほんっ。赤隥 祥団員。赤隥 祥団員。なる早で団長室にきなさい」

噂すれば…

すぐに身支度を整え、ボスの元へ向かった。

なんの話だろ…

「おはようございます」

扉を開けると、ボスの他に初めて見る人が一人いた。

「初めましてだな。赤隥団員」

「は…初めまして」

「こいつは神仇 日暮。陽助の先輩でもある」

「おう。今日からお前の師匠となるらしいが、まぁ、気楽に行こうぜ」

とフルーツ酒片手に言ってきた。

「まぁ、なんだ。ここで立ち話ってのもあれだろう。気晴らしに、二人で外でも散歩するがいいさ。」

「おう。そうさせてもらうぜ」

「わかりました」

「そうだな、ここから7キロぐらいのところに程よい山がある。そこなんてのはどうだ?ピクニックにはもってこいだったろ」

「そんな山あったか?」

「え?知らないのか?まぁいい。あとで軽食と地図を届けさせるから。それまでに準備でもしておけ」

「あいよ」

「ってなわけだ。まぁ軽く運動するから準備しておけよ。あとは二人でどうするか決めな」

「わかりました」

「坊主。まずは朝飯だ朝飯。食堂行くぞ」

「あ、はい!」

「う〜ん。挨拶はあいよっ!で頼むわ」

「え?」

「そこで、あいよっていうんだよ」

「あ、あいよ」

「まぁ、そんな感じだ。気楽に仲良くやっていこうぜ」

「あ、あいよっ」

「上出来っ♪」

食堂で朝食を済ませ、その時約束した時間通りに2番出口前でランチと地図を持って待機した。

が、一向に現れる気配がない

「あ〜俺は特に準備することないっからよ、30分後ぐらいに全部荷物もって2番出口な」

とか言ってたのに…

1時間経過。以前現れない。

とは言っても、ここから他に行くあてもないし

「あれ?祥。どしたの?そんなとこで」

「陽さん〜。あの神仇さんとkいう人が全然こなくって…」

「神仇先輩?さっき脱衣所いたけど」

「風呂にいた!?」

「そう風呂。で、スッゲェ気持ちよさそうに寝てた」

「風呂で寝てた!?」

「ああ。で、のぼせて脱衣所で寝てる」

「また寝た!?」

「まぁ、あの人物忘れ激しいから。そういうこともあるよ」

物忘れって次元じゃ…

「とりあえず、呼んでこようか?その荷物持ちながらってめんどいでしょ」

「あ、ありがとうございます」

「ほいほ〜い」

さて、待てど暮らせど1時間半。帰ってこない。

「まともな先輩いいないかなぁ〜」

「赤隥氏ぃ。どうしたんでござるか?」

「でた。衣装の人」

「あぁ〜そういえば自己紹介してなかったね。僕は宇都美 紅。うっくる先輩でいいよ」

「わかりました。あの、会って早々になんですが、更衣室の場所教えてくれません?」

「更衣室?」

「どうやら僕の師匠になる予定の人と、陽さんがそこにいるようでして」

「いいけど、彼ら二人なら食堂でキメてたよ…」

「はいぃ!?」

「ま、行ってみるべ」

「そうですね」

待って、このうっとく先輩が一番まともなのかもしれ…

「奏音さぁああん!結婚してぇ〜」

突然前夫に走り出し、そのまま吹っ飛んで帰ってきたうっとく先輩。

「なんなんだ、この団は…」


気づけばお昼になってからの出発となった。

いただいた軽食はそのまま、軽くご飯をいただき食堂から一緒に神仇先輩と出発した。

「あ、ヘェ〜。本当にこんな所にやまあったんだ。知らなかった」

何やら徐に胸ポッケから道具を取り出す神仇先輩。

「お、いいじゃん」

カシャという音をたて、その道具を見て満足そうにしている。

「なんですか?それ…」

「これ?写真だよ。いやね、僕ってば記憶力悪いからさ、こうして色々写真に残しておきたくって」

「なるほど」

「どうだい?使ってみるかい?」

「え?いいんですか?」

「いいとも。君の景色がどんなものか見てみたい」

そう言われ、カメラを手に取り一通りの使い方を教わった。

「ここで、その瞬間を切り取ることができるんですか!?すごいです」

「いやいや、切り取るというか、コピーって感じかな。時を切り取れる機会だったら、もはや恐ろしいよ…」

「そうですか。でも、前に見たものがこうして形に残るってなんかいいですね」

「お?この良さがわかるかぁ〜。どれ、何か撮ってみ」

「そうだな…」

あたりを見渡してみると奥の方に花畑が見えた。

「あの辺り行って撮ってみたいです」

「よしきた。行ってみようか」

「はい!」

カメラと荷物を持ち上げ、少し早い足取りで向かう。

僕の場合は能力のおかげっていうのもあって、結構歩いても然程疲れることはないが、神仇さんも汗ひとつこぼしていないのはなんか意外だ。まぁ師匠っていうぐらいだからすごいんだろうなとは思っていたけれど、思った以上にすごい人なのかもしれない。

「どうした、そんなにジロジロみて」

「いや、その。神仇さんの能力って自分自身を強くするものなのかなって思ったんです」

「いやいや。欠陥だらけのあまりいいとはいえない能力さ」

「そうだったんですか」

「まぁ、周りから見れば一瞬だけ足が早くなったように見られるかもな」

「それって…」

「時間の流れを遅くするっつう能力だ」

「なんかすごい」

「そうでもねえぜ。試合中というか戦闘中に、よくて3回、調子悪い時は2回。それも数秒しかできんからな」

「なるほど」

「だから、人並み以上に体を鍛えなきゃならねえし、技でカバーする必要があるんだ」

「なるほど」

「お前も、能力に振り回されないようにするために相当鍛える必要があるんじゃないか」

「あ…確かに…でもどうすれば」

「いやいや、そのために俺がいるんだろ」

「っ!」

「ドンと任せな。お、そろそろ着くな」

眼前には真っ黄色の花畑。

「お、これは…なんの花だったっけな」

「菜の花…ですかね」

「おお、そうだそうだ。食べれるやつだったな」

「そうなんですか?」

「おう。程よい苦さっていうのかな、結構美味しかった気がするぜい」

「持ち帰って調理してもらおうかな…」

「いいじゃねえか」

カメラを片手に、花畑をいろんな方向から撮ってみて、こっそり菜の花を眺める神仇さんを撮って。

なんとなく、自分の中で撮り切った感じがしたので、花を摘み始めた。

「お、それうまそうだな」

「生で食べるんですか?」

「ものは試しだっ」

茎の真ん中あたりでそれを折り、持ってきた水で軽く洗い流して口に入れる神仇さん。

明らかに苦そうな顔をしている。

「に…苦かったんですね」

「ああ…これは調理してもらうしかねえな」

何個か同じように茎の真ん中あたりか摘み取り、手に持った。

「帰りは駆け足で戻るか。お前さんは能力を使うなよ」

「え?」

「何、明日からの訓練の予行みたいなものさ」

「あの…」

「なんだ?」

「能力の加減がわかんなくって…」

「そうなのか?」

コクンと頷く。

「参ったなぁ。じゃあ、まずはゆっくり歩きながらでいいから、ゆっくり込み上げてくるものを抑え込む感じで」

「わか…おうよっ!」

「よし、やってみ」

自分を…抑えて。抑えて。

込み上げるもの…ん?なんだそれ…

「ゆっくりだゆっくり。落ち着いて見つめるんだ」

「あい」

あ…

何かあったかいものに触れた感覚があった。

少しづつペースアップしていくと、一気に強まるそのよくわらない感覚。

「これか…あ」

一気にその感覚を沈めようとすると、足がもつれて坂を転げ落ちた。

「お〜い。大丈夫か?」

「はい…なんとか」

転がる僕を、坂の途中で抜かして止めてくれた。

「いいんですか…こんなことに能力…使っちゃって」

「いや?能力はつかんてないぞ」

「え?」

「体を鍛え抜くと、結構能力者とも渡り合えるんだ」

いやいや、まじか。

「まぁ、明日模擬戦するつもりだから、そこでお前の能力と戦ってみようかね」

「は…はいぃぃ」

「返事は?」

「あいよっ!」

そこから、こけて走ってを繰り返し、拠点に戻った。

「どうしたの…その格好」

奏音さんが呆れているというか、驚いているかのような顔をしている。

「まぁ色々ありまして」

「じゃ、とっとと風呂いっちゃいな。服は…まぁ、誰かに持っていってもらうから」

「ありがとうございます」


「あああ〜沁みるうぅ」

運動した後の風呂は格別に…ってうううん!?

「おえ?」

風呂に入って真っ赤な顔して寝ている神仇さん。

「ちょ、起きてください!神仇さん!先輩!」

「お…ああぁ。くうっ〜」

めっちゃ気持ちよさそうに二度寝をし始めていた。

「起きてくださいよっ!」

肩を揺すってみてわかったが、めちゃめちゃに鍛え抜かれた体なのがすごく伝わってきた。

じゃないじゃない!とりあえず風呂から出さなきゃ。

「忘れねえぇ〜ぜえ〜」

「ちょ、何言ってるんですかぁ!?一旦出ますよ」全力で神仇さんを持ち上げ、とりあえず更衣室で寝かせた。

「なんか掴みにくい人だな…でも、優しい人…な気がする」

あたりを見渡すと、着替え一式が綺麗に畳まれて置いてあった。

今思えば、入ってから何から何まで助けられてばっかりだな。

「いつか必ず、困ってたら助けたいけど…」

なんか困ってること…あるのかな。

「どうした、そんな神妙な顔して」

「あ、起きたんですか」

「ああ。なんかさみぃがな」

先に着替えを終え、何か飲み物がないか探す。

「先、食堂行っててくれい。そこで話でもしようや」

「あい〜」

「ミックス牛乳がうまいぞ」

「まじですか!いってきます」

駆け足で食堂に向かった。


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