電気シンガー
「て...停電!?」
奥から次々と明かりが消え、隣の人がいるかいないか程度しかわからない...
「そのようだね」
「よ...陽さん!何か…何かやることありますか?」
「ん?まぁ、予定通り今日の歓迎パーティーに出るだけだなあ」
「それっは一体...って、えぇ!?」
そんな予定聞いてないし。というか、なんか寒いし。
「とりあえず進もうか。ほれ、手握って」
「は…はいいぃ」
あ、あったかい。ちょっとゴツゴツしているけど、すうっごく頼れる手というか…その…
「じゃ、壁に手を当ててまっすぐ進んで行くよ」
「わかりました」
壁に手を添えながらたどり着いた部屋。
さっきまで明かりにない中を彷徨っていたはずが、気がつくと白く淡い光がチラチラ見えるようになった。
そして、陽さんの手が離れ、その手が差した先に一人の女性が見えた。
「そう。彼女はね、普段は医者。そして彼女のもう一つの顔”ユウ”。電気シンガーさ」
「...電気シンガー?」
「ヒントは、彼女の装いがいつもと違うところだよ」
...ん?そういえば初めてまともに顔見た気が。
「あ、マスク...」
返事を求めて陽さんを見ると、何故か目を瞑っている。
「あー。うん。どんまい。」
...?
「そうっ!そのマスクの秘密。我らがアイドルユーたんは口から電気を生み出すのだよっ!」
ふと横に男が1人。
「…って、なんすかその格好!?」
「まぁ、なんていうんだろう。ま、ここでの正装だよ」
「陽さんも何言って..っていつの間に!?」
横にきた男と同じ衣装を身にまとう陽さんがいた。
「さぁ、赤隥少年もこれを着るんだ」
…えぇ?
「あと、これも持って、これと、これと、これも。」
「あわわわわわわわ」
ものの数秒で、完全武装...
「最初は曲とかわかんないと思うっすけど、大事なのは自分の殻を脱ぎ捨てる感覚っすよ」
「まぁ、リズムに合わせて体動かせばいいから…」
「なるほど。頑張ります。」
「開演時間まであと少しあるっすから、今のうちに水分補給を済ませとくべきっすね」
「わ、わかりました!」
慌てて、薄暗い中をほっつき始めたはいいものの、飲み物どこにあるんだろうか..?
……ついさっきまで戦いも、あったんだよな。
そんなことを思いながら、ふと視線を下げる。
「わぁ!」
「わぁああああああ!?」
め...めっちゃびっくりしたぁ。
後ろを振り返ると、夕姫さんがいた。
「君も完全武装になってしまったか...」
「それって…?」
「先にアドバイスしておくけど、無理は禁物だからね?」
「えぇ?曲を聞いてるだけなんじゃ...」
「じゃ、忠告はしたからねー」
テント生活だった時も、近くで歌っているのを、みんなで聴きに行ったりもしてたし…
別に怖いことなんてあるとは。
…ん?みんな?って…
薄暗く光っていた部屋の電気が完全に消え、中央に集まった。
「放送部スタンバイOKでーす。どうぞ」
「イベント部OK。どうぞ」
「ではみなさん!新入団員”赤隥祥”くんの歓迎式と、発電を兼ねて....」
「乾杯っ!」
会場に集まった団員各々が雄叫びをあげ、それと同時に爆音のドラムが鳴り響く。
続くようにギターが鳴り響き、マイクを握りしめた奏音ユウ改め、ユウ。
その姿は第一印象とは全く違い、力強く、かっこよく、眩しかった。
歌い始めと同時に体全体に電気が流れるような感じがした。
「少年。これがうちらの団だけのライブだ。せいぜい、体全身使って盛り上がるといいさ!」
「陽さん...」
暗闇でもわかるぐらい、激しくキレキレな踊りを決める陽さん。周りを見ても、タオルを振り回したり、飛んだり、叫んだり、集団で同じ動きをしたり。
すると、身体中をめぐる血に、音に、電気に身を委ねれるようになった。
「す...すごい。体が、勝手に...動く!?」
「うぉおおおおおお!!!!」
正直自分が今どんな感じなのか想像しにくいけど、何もかもを捨ててただ夢中になる感覚が最高に気持ちがいいのはわかる。
そんなこんなで2時間があっという間に過ぎた頃
さて、先輩達は...
「って、陽さん!?ボス!?皆さん!?」
立っている団員は両手で数えれるほど。
「やぁ...祥くん。君はは逸材だよ」
「ボス...どうして皆さん倒れて?」
「彼女の能力..は言葉と想い...から...電気を生むと言う、この世界で...初めて...の稀有な存在さ」
「ボス...」
突っ伏したボスの横では陽さんがいびきを立てて寝ていた。
「はーいどいたどいた。ベットで運び出すから」
「あ、夕姫さん」
「君、凄いね!私らはリミッターかけてるから立ってられる程度に気力残してるけど」
そう言いながら、よっこらせと大人を担いでは次々と担架に乗せる夕姫さん。
「まだまだいける…と思います!」
「ザンネーン。今日のライブは終わりじゃないかな」
「なんでです?」
「まぁ、見てなって」
「みーなさーん。ユウのライブ楽しんでくれましたかぁ?」
「うぉおおおおあお!」
数人とは思えない歓声が上がったと同時に、全員倒れて気持ちよさそうに寝てしまった...
なるほど...。燃え尽きたってことか。
「祥くんも楽しんでくれたかい?」
「は...はい!もう、なんな、凄かったです!」
「なら良かった。今日はよく寝るんだよ?じゃ最後に」
大きく息を吸うユウ。
「今日は。本っ当〜にっ!ありがとーー!」
その声の余韻が消えた時、体に電気が流れているような感覚が消え、ちょっとした寂しさが残っていた。
「あれ...しびれてきちゃった...」
「お〜い。起きて〜」
「…はいぃぃ」
あえ?なんか久しぶりに見る天井…
「ん〜。さっきのは…夢…」
マスク外した奏音さんが歌っている姿を見た気がするけど。
「どしたの?」
「いや、ちょっと変わった夢…見まして」
「ふ〜ん。それって、こんな夢?」
そう言った彼女は、どこかあざとくマスクを外し、ふんわりと笑った。
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