この世界のこと

食後、言われていた通り第一講義室とやらに足を運んだ。

「いらっしゃい。では赤隥くん。ここでは私のことを琴先生と呼んでくださいね」

「は..はい。琴先生」

「よろしい!では、今日は今後の授業についてとテストを行うわね」

「おおぉ」

「じゃあまずは、手元のプリント捲って頂戴!」

目の前には拳ぐらい分厚い冊子が一冊。

一ページ目から七ページ目まで目次が続いていた。

「さて、じゃあまずは予定についてだけど…」

琴さんの後ろに予定でびっしり埋められたカレンダーが貼ってあった。

「一ヶ月かけて色々と学んでもらうからね!」

「うわぁ」

とりあえず今週やることをなんとなく抑え、この冊子の見方の説明を受けた。

小一時間経過

「つまり…この団は元々ボス含む3人で作られた集団だったってことですね?先生」

「そう。で、その3人は?」

「ボスと、それから元万能医療兵の女性と..あと」

「今はなき国の王女様

「ああ!」

「じゃあ、今の国の仕組みを簡単に言えば?」

「えっと...国王がいるけど、基本的に自由な国策で...学業、農業、公共施設だけは王を軸にみんなで頑張る...みたいな感じ」

「そう!なかなかわかってきているわね」

でも、これってなんの役に立つんだろ…

「じゃあ、一旦ここで休憩にしよっか。勉強の後はおやつに限るっ!」


ってことで、また食堂に戻ってきた。

「さてさて、次はどんな激辛にするぅ?」

「げ!?、狐巳さん…」

「なんだい、げ!?って」

「とりあえずスコーンふたつお願いするわ」

「へいへい。りんご味でいいんだな?」

「うん!それでお願いするよ!」

あ、今度は狐巳さんが作るのかな…

5分ほどで、美味しそうな香りを漂わせたスコーンとやらが卓上に並んだ。

「こっちが、赤隥君の分ね。で、こっちが琴っちのぶん」

「あの…なんで僕のはこんなにも真っ赤なんですか?」

「え?こっちの方が好きかな〜って」

「見た目に甘さのかけらもないんですが?」

「えへへ〜。張り切っちった」

「ええぇ…」

「ま、食べてみなって」

目の前で顔を手で覆うように隠す琴先生。

「い…いただきます」

サクッ…

「う…美味いっ!」

中からとろけるようなリンゴと絶妙な甘さの外がわ。見た目に反して、辛さなどなくリンゴの香りとほんのりとした酸味また、たまらなく美味しい。

「にしし〜。ど?びっくりしたっしょ?」

「はいっ!これなら何個でもいけちゃいますね」

「そんなに?」

「あ、琴先生も食べます?」

「え?いいの?じゃ、お言葉に甘えて〜」

琴先生が手を伸ばし、口に運んだ時、横で一人絶望の表情を浮かべている人がいた。

「…ねぇ碧ちゃん。」

「あっ…あう…」

「歯ぁ食いしばりぃ」

「…イエス。マイ。ゴッド。」

唇を真っ赤に腫らし、涙目になってる琴先生。

地面に突っ伏した狐巳さん。

「祥くん。厨房から牛乳。持ってきて。」

「わかりました」

牛乳を飲んで落ち着いた様子の琴先生。一週間は狐巳さんの口を聞かないとのこと。

全く、どんだけ辛いのやら…

余談だが、たまたま寄った奏音さんが真っ赤な気なスコーンが気になり、案の定後悔することになったそう。


「に…2時間目の授業を…開始しましゅ」

いつの間にか服を着替えたこと先生が、辛さにぎりぎり耐えるか否かの顔で教壇に立っていた。

「では24ページ目を、開いてくだヒャい」

そんなこんなで、1時間ほどこの世界の成り立ちを習った。

「じゃ、次の時間でテストするわ」

「なんか、よくわかんあいけど、嫌な感じがしますね」

「なに。ちょっとしたゲームみたいなものだよ」

「なら…まぁ」

「ぶっちゃけ、全部答えられたら私教えることなくなっちゃうから…」

「なるほど」


選択肢は四つあって、どれか一つが正解ってことか。

配られた二枚の紙にやり方と問題が載っていた。

「さ、やってみやってみ」

国王の名前、あの時使ったデバイスの正式名称、この国の特産品、餃子と焼売の違い…

そんな感じで50問解いた。

所々わからなかった問題は全部3で埋めたが…果たして結果は

「う〜ん」

「やばいですか?」

「やばいわね」

「いやぁ…わからないところは全部3で埋めましたから」

「嘘でしょ?なんでそれで満点…」

「え?」

「満点だったのよ…満点」

「マジですか」

「うん。マジもんのマジだわ」

「いやでも、わからなかったのもあった訳ですから…」

「そ…それもそうね!」

そんなこんなで、当初予定されていた通りに勉強することになった。

「まぁ、またこの続きは明日ね」

「はい」

が、この後二週間。特に何かあることもなく勉強、食事、運動、ゲーム、睡眠。その繰り返し。

「え〜どうしたものか」

「何がです?」

「教えること無くなっちゃった。ほんとに…」

「いやぁ、先生の教え方が上手だからですよ」

「いやいや、記憶力がいいというか直感力高めというか…」

前にもまして、頭の回転が速くなったというか、同時に2、3個のことを考えられるというか…。

「じゃあ、今日のテスト次第で今後の予定を決めることにするわよ」

「わっかりましたっ!」

もう配られる紙には問題しか載っておらじ、それも自分で答えを書くものだった。中には、今まで会ってきた団員さんの名前を答えるものもあったが、すぐに埋めることができた。

そうしてすんなりと解き進め、最後の一問となった。

「え?」

Qあなたの大切な人の名前を5人あげなさい

「っ!」

すごい引っかかる感覚と、なぜか思い出してはならないという意志が働く。

「大切な…人…」

この団に入る前のことしっかりと思い出そうとはしてこなかった。

夢でたまにみたあったかい日々も、看病してくれたおばちゃんのことも、どうしても思い出すのが怖くてたまらなかった。

多分この大切な人っていうのは。奏音さんとかボスとか、陽さんとかも入ってくるはずだ。

そを書けばいいのもわかってる。

でも書けない。

後少しで答えが出そうなのに…

「タイムア〜ップ!最後できたかい?」

「…」

「やっぱりそうだったんだね…」

「って?」

「君が、君の友人・いや、家族のことを忘れていることだよ」

「家族…」

「それが最後の課題だね。君がしっかり自分の心を見つめること。これが君を強くするはずだから」

「わ…わかりました」

それから部屋に戻りベットでゆっくり考えた。

家族。友達。…忘れているもの。

「兄弟…」

あ…


目が覚めると枕が少し湿っていた。

僕は忘れていたのだ。兄弟のことを。

でもやっぱり、顔も名前も思い出せない。

記憶に靄がかかったかのように、そこだけがポッカリと空いているのだ。

いつから忘れていたんだろう。

僕はどうして離れ離れになったのだろう。

でもどうしても、彼らがもういないことに対しての疑問を持てなかった。

いや、一人だけまだ会える気がする。

でも、それもどういうわけかアッタク見当もつかない。

「思い出さなくちゃなぁ」

天井を見上げながら、そう呟いた。

自分に向けて発したその言葉が、少し胸に刺さって痛かった。

少し。後少しで…

そう思いながらもまた今日を開始する。


「おはようさん。テスト後一問だったんだって?惜しかったじゃん」

「陽さん…でも…」

その一問がとてつもなく大きく。とてつもなく悔しい一問だった。

「なに。僕も同じさ。僕もこの団でずっと探しているんだよ。この少しの違和感の正体をね。」

「そうだったんですね」

「あぁ。絶対覚えているはずなんだ。だから、それを見つけ出してやるために、いろんなことをしていこうと思う。というか、色々やってみる以外することないんだけどね」

「そう…ですね」

「さ、早く朝食食べようぜ。あったかい時に食べるのがイッチバンおいしいからな」

「はい!」

ご飯を頬張り、心も体も元気になったような気がした。

「さ、今日は俺とこの施設を回ろうか。」

「施設巡りですか?」

「おう。なんせ、ここは広いからな。団員でも知らない所が多いんだ」

「なるほど。どんなとこがあるのか楽しみです!」

「よし。そうと決まれば、まずは…体を思いっきり動かせるところに行こうか」

ついて行くと、そこでは見たこともない運動が行われていた。

「なんです?あれ…」

「野球だよ。あの棒でボールを飛ばしたり、あの手についたやつでボールを取ったり、走ったりするんだ。で、ここの団で4つのチームがあってねしょっちゅう戦ったいるわけ」

「ヘェ〜。あの、地面位置かれた白い箱はなんです?」

「打った人がそこまで走るんだよ。そうして、あの四角いのを三つと、棒を持っている人の足元にある一つの板を踏むことで得点になるんだ。」

「結構簡単そうですね」

「お?じゃあやってみるか?」

「ぜひっ!」

「じゃあとないの誰もいないグラウンド行こうか」

そこで、木でできたバットを手渡された。

「いいかい。僕が軽く投げるから、タイミングあわせてボールに当てるんだ」

「わかりました」

投げられたボールにバットを当てる…投げられたボールにバットを当てる…投げられたボールにバットを

無意識的に能力を使ったからか、ボールの動きをゆっくりに感じ、体をの位置を合わせ腕を伸ばし、当て…

突如ボールが急に動きを変え、バットを振った位置の下にきた。

「へいへ〜い。簡単そうなんじゃないの?」

「次は…次は当てる…」

「じゃあ次はどこに投げようか」

「どこでも当ててやる」

そう思い、さらに目を凝らす。

「えっ!?」

眼前にボールが迫る。バットを慌てて振り上げるも、またなたボールは軌道を変え、空ぶってしまう

「実際の試合だと、2回打てないと追い込まれたも同然だぞ〜」

「次は…当てます」

「じゃあ、行くよ?」

次は目を閉じ、空気感とさっきまででなんとなく掴んできたタイミングに合わせこっちからボールに当てに行く。

狙い通りバットに当たったボールは思いっきり弾け、隣で試合しているところを通り抜けた。

「おおぉ。すごいじゃん」

「え?まさかあの陽助が打たれたのか?」

「マジかよ。な…なぁ、うちら奏音団に入らないか?今ならなんとユウグッツあげるからよ」

「ちょ、彼には我ら琴蕗団にこそ相応しかろう。」

「何ぃ!?」

「よおぉし。どっちが入るか勝負しようじゃないか」

「あぁ〜いいだろう。負けても文句なしだからな」

「祥。一旦別の場所行こうか」

「はい」

そうして、いろんな施設をむぐりいろんな人と出会った。

昼下がりのいい時間。

ほんのりとした眠気を吹き飛ばすような出来事が起きた。

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