胸の内と周りのことを

ここ数日は本当にあっという間だった。

何か大事なものを失い、金髪野郎にボコされ、介抱され、泣いて。

そして昨日は、


「金髪はどうして団に入ったの」

「えぇ、僕のことを陽さんって呼んでくれないとやだなぁ」

「…陽さんは、どうして?」

「いやぁ、それが無理矢理入れられちゃってねぇ。まぁ、あの国で1番喧嘩強かったからさ。」

「それだけで入ったの?」

「あと…ちょっと、入らなきゃ行けない理由が…あるみたいなんだけど…さ」

「それは?」

「何だろうなぁ。……世界の真実…とかかもね」

「それは、すごい理由ですね」

「でしょぉ〜」


と言ったように金髪野郎。もとい陽さんの過去に触れもした。

そして迎えた朝。奏音さんにボスの居場所を聞き、直接会って話すことにした。

渡り廊下をゆっくり、真っ直ぐと歩き一際厳かな風貌の扉の前にきた。

「さ、入りな」

「あ…ありがとう、ございます」

扉を開けると、目の前でコーヒーカップ片手に読書をするボスがいた。

「やぁ少年。決まったかい」

「ボス。僕、この団に入るよ。この団で、やりたいことを見つけるまで頑張ってみる。」

「そうか。良かった。では改めて」

また、手を差し伸べられてしまった。

それに応え、渡された団の服に腕を通す。

「さぁ、いけ少年」

「はいっ!……あの、僕は何をすればいいんですか?」

「あー。どうしようか」

「えぇ?」

「まぁ、まずはこの団慣れるのと…あとは、この世界の常識を知ってもらうことからかな」

「なるほど…」

「大体のことは琴くん教わるといい。多分この団で1番まともだから」

「…わ…わかりました」

「呼びましたか〜?」

「ふむ。琴くん。彼に一通りの常識とこの団について教えてあげてくれ」

「わかりました!どんと任せちゃってください!ではまず…」

「琴くん?何も今すぐじゃなくっていいからね」

「あっ…は…はううぅ」

目の前でみるみる小さくなる琴さん。

「見ての通り琴くんは恥ずかしくなると小さくなるんだ。」

「えぇぇ…」

『あのっ…陽くん呼んでもらえま…せんか?』

「うわっ…頭に直接声が…」

『あぁぁ…これも初めてでしたね…えっと…その…』

「今のそれも、あのデバイスの応用みたいなものよ」

『カナちゃん!』

「よっ!」

あ、奏音さんと琴さん知り合いだったのか…って、同じところにいれば普通か…

「少年。今すぐここから離れたまえ」

「え?」

「それと、いち早く陽助を呼んで着てくれ。それが最初の任務だ。」

「わ…わかりました」

駆け足で外に出るとすぐに後ろの方から叫び声が聞こえる。

「ここであったが100年目!今度こそ決着つけてやるわよ」

「はぁ?決着ですって?もうすでに私の勝ちで決まってたんじゃなかったっけ?奏音ちゃぁん?」

あれ?今まで見てきた感じの奏音さんは…ん?

つい後ろを振り返ると、必死に外からドアを閉めるボスの姿が見えた。

「少年!早めに呼んでくれると助かる」

「は…はいぃぃぃ!」

未だによく施設の全貌は理解できないが、迷わないように思考フル回転で駆け巡る。

誤って風呂場のドアを開いたり、メチャメチャ汚い部屋の扉を開いたり、壁一面をミネさんの写真が埋め尽くしている部屋とか見ちゃったりしたけれど、一向に陽さんの姿は見えない。

「…ってか…ここどこ?」

流石に走り回りすぎて、何処にいるのか自分でもこんがらがってきた。

「どうしよ…」

「よっ!祥。元気してる?」

「よよよよ陽さん!?」

「どしたの?お化け見るような顔して」

「たたたた大変なんですよ!」

「奏音さんと琴さんが...その...」

「私たちがなんだって?」

陽さんの後ろからひょこっと顔を覗かせた琴さん。

その背後には手を合わせて”ごめんね〜”と言わんばかりの様子の奏音さん。

「はっはっは!どうだい?サプライイベントってやつは」

「ボ...ボス」

すごく…意外というか…なんというか…

「何、うちらの団はこんぐらい賑やかだってことさ!」

「そうですか…」

「でも、なんやかんや色んなところ見れたんじゃない?」

「そうですね…ほんと…時折見てはいけなさそうなものもありましたけど…」

「それは…うん。どんまい」

奥で女性陣が首を傾げていたけれど、何も言うまい。

「あ、そうだ!お昼終わったら第一講義室来てくれるかな?」

「第一講義室ですか?」

「そ。君が覗いた女子風呂の向かいの道をまっすぐいけばあると思うよ」

え…?

「祥くん?」

奏音さん…あの…えっと…その…

「ってか、なんで”間違って”女子風呂行っちゃったこと琴さんが知ってるんです!?」

「え?普通に見てたから」

うそん。

「祥くん?本当に…女子風呂見たのね」

「それは…あの…ほんと…」

「じゃ、うちら先昼飯行ってくるから」

「じゃあね〜」

ボス、陽さん、琴さんの三人がそそくさと去っていってしまった。

「で?ご感想は?」

「なんの…ですか?」

「見たんじゃないの?」

「な…何も見てないですよ!」

「ほんとに?」

「ほんとです」

「よかった…ミネちゃんのあられもない姿は守られたようね」

「んんっ……」

もしかしてさっきのあの部屋…

「とりあえず私たちもお昼にしましょうか!」

「そ…そうですね!」

案内されて向かったのは大きな食堂だった

木製の机とコンクリートの壁。

今まで見たことのないぐらい大きな絵画に思わず感嘆の声が漏れた。

入って左手にある丸テーブルで、陽さんと琴さんが仲睦まじいそうに座っていた。

「何食べる〜?」

「うわぁ!どれも美味しそうっすね」

カレーに唐揚げ、味噌汁に見たことないものもいっぱい...

「だいたいどれ頼んでも10分以内にはくるのがここの売りなのよ!」

「すごい早いんですね」

「なんせ、ここの料理長は凄腕の能力者でね。1時間と言う制限はあるけどその間は誰よりも早く出来立てを届けるべく超高速で仕上げちゃうのよ」

「ほんとにいろんな人がいるんですね…ここの団」

「そうね。だいたい200人ぐらいいる中で半数が特異な能力者だし、逆にもう半分は能力の有無に関わらず多彩な人がこの団にはいるわね」

「なるほど…能力だけじゃないんですね」

「そうね。手綱さんもそうだけど、自分で研究したり開発したり。あとは農業のスペシャリストもいるわね。ゲームがすごく強かったりする団員もいるのよ」

「一度やってみたいですね」

「彼女ほんとに強いわよ〜」

「おお〜」

「あ、おいちゃん!私はいつものお願い」

「ん〜」

ここは無難にカレーか、唐揚げか

「坊主はどうするんだい?」

「かなねぇと同じのにすれば?」

「なるほど。じゃあそれで」

....誰!?

後ろから初めて見る女性が現れた。

「ヤァ!」

「ど…どうもこんにちは」

「私は狐巳 碧。ここのお手伝いさんさ」

「あ、赤隥 祥です。どうも」

なんかすごいオーラというか、古風というか…

「彼女はね、」

「かなねぇ?」

「あ、ごめんっ!」

んん?

「何、私のことはいづれか分かるようになるから…その時までは内緒だ!」

「は...はいいぃ!」

すごい気圧されて、ついつい相手のビシッと突き刺してきた指に反応して柄にもない返事の仕方をしてしまった。

「して、本当にかなねぇと同じので良いのだな?」

「え?あ、はい」

途端、狐巳さんが悪い笑みを浮かべる。

「大将っ!激辛エッグいチーズカレー2つ入りやしたっ!」

「激辛ぁ!?」

「いえ〜す。当店自慢の激辛エッグいチーズカレーさね」

「マジで辛いわよ」

なぜか冷や汗が止まらなさそうな彼女。

「いや、なんで頼んだ奏音さんがそんな怖そうな顔してんすか…」

「いやぁ、まだ食べ切れたことなくって...いっつもミネが助けてくれてて...その…」


「うん。意外といけますね!」

目の前に真っ赤なカレーが並んでいたが、案外食べれる辛さだった。むしろ癖になる絶妙なバランスというか…

「さっすが見込みのある男だこと。この味の良さが分かるとはなかなかね。で、かなねぇは?」

「む…無理…ギブ」

今にも保てなくなりそうな表情。流石にこれ以上は…

「捨てちゃうのは勿体無いよねぇ?」

「ですね。あ、奈良半分は僕が食べましょうか?」

「え?いいの?」

「はい。色々とお世話されっぱなしですし、こんなんじゃ足りないですが…まぁ、役に立てるなら」

「ほほう。そうやって、かなねぇと間接キッ…」

ゴホンっ。

「いや、スプーンは自分の使いますよ!」

「ちぇっ。つまんねぇの」

いやいや…

「まぁいや。食い終わったらカウンターまで持ってきてな」

「わかりました!」

と言いつつも、奏音食べ終わるのに1時間かかった。

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