自分に向き合う日-過-
数年前。
しっかり不良していた金髪野郎。
朔楽 陽助19歳。
王国では拳と拳の闘いだと負け知らずの喧嘩強さと、女性に目がない奴として名を馳せていた。
「いやぁ、楽しいねぇ。なーんもしがらみもなく、ただ過ごすのは」
大通りのベンチで、いちごミルク片手に昼寝を決めていた。
斜陽まで少しと言った時だろうか。
「おい陽助〜ちょっといい?」
「んんぁ?」
目を開けると、眼前には銀に染めた髪を靡かせる青年が一人。
年相応のちょっと大人気のある笑顔を浮かべたその姿は、遠目で見れば格好がつくが、その実ただのクソガキと大して変わらないのだ。
一緒に浴場行った日には
「あはっ!浴場で欲情…なんちって」
と女湯目の前にして言ってみたり、真剣な話があると言って来たので面と向かえば、
「ラーメン屋にいた子可愛くね?」
などと、そんなことばっかり言っているような奴だ。
そして今日も多分二人でバカをするのだろう。
そう思っていた。
「今日が最後なんだ。」
「え?…何が?」
「こうやって遊んだり〜話したり〜するのがさ。」
「なんでまた」
「今日が僕の20歳の誕生日なんだ」
「おぉ。おめでとう」
「うん…まぁ、なんだ。いつもの公園行かない?」
今までにみたことのない顔をした彼を見て、ふと嫌な予感がした。
影が伸びたベンチと、少し大人っぽくてぎこちない笑顔の青年。
立ち上がって向かった先には、ブランコと遺産物が無機質に並んでいる。
「陽。そこで見てて」
彼が乗った黒く丸いテーブル状の遊具というか遺産物が、赤と青の光を放つ。
彼が台の上でステップを踏むとそのリズムと強さに合わせて光が空を舞う。
初めて乗った時には、爆発するかと思ってビビってたけれど、何年も使ううちにかなり思い通りに光を放てるようになったのだ。
彼が踊り始めて数分。
色々なアネモネが辺りに煌めいていた。
回ったり、跳ねたり、散ったり。
まるで魔法のようなその光景に、街行く通行人が立ち止まる。
辺りの陽が完全に落ちると、一層輝くその花々がまるで花火のように舞っていた。
「陽。どう?かっこいい?」
「あぁ。今までで1番綺麗な花だな」
「そう?じゃあ最後に一発大きいのを咲かせようかな。」
「おう。見てる」
下から徐々に広がる花が次第に輪になり、周り始める。
騒ぎを聞きつけた軍人もいたみたいだが、周りはただ静寂が流れるのみ。
青々とした花びらにグラデがつき、瞬きの間に何色にも折り重なった見事な時期外れの向日葵となった。
「どうだった?」
「すごいじゃん。また見たいって思った」
「そっか。…またいつかどこかでね」
「おう」
周りには何人かの大人たち。
軍服を身に纏い、銃を片手にこちらへと足を進める。
「やんのか?」
「いや陽。今回は僕のお客さんだから」
「そうなのか?」
「うん。ここでお別れだよ」
「そっか…じゃあまた明日…」
「いや。もうお別れなの」
「それってどういう」
「おい。ロストウエポン。おとなしく付いてこい」
「あぁ。わかってる。最後に…」
記憶の中では初めて、抱擁された。
少し震えた肩がじんわり体に伝わってくる。
「なぁ。どこ…いくんだ?」
「んー。あの世」
「…は?」
「ごめんね。黙ってて。僕はまともに死ねないみたいでさー」
「それって…」
「おい。ロストウエポン。こちらに早く来い」
「じゃあ。また…いつか」
そう言い残し目の前から立ち去っていった。
……え?
体に付いていたはずの温もりが消え、体が冷え始める。
既に落ちた陽の光と、冷え切った風が一層身に染みる。
やっとの思いで後ろを振り向くも、誰もいなくなっていた。
あぁ…追いかけなきゃ…止めなきゃ…
どこ…行っちまうんだ?
あの世?
なんでだ?
どうして…
全速力で向かった先には軍の駐屯地があった。
自分の髪を乱暴に握りしめ、ノールックで相手を薙ぎ倒し、銃口にも目もくれず、ひたすらに真っ直ぐ進む。
軍とどんぱちやったことはなかったが、案外簡単に歩みを進めることができた。
そうして建物の奥へ奥へと向かうと一際大きく重みのあるドアを見つけた。
ようやく整理のつき始めた頭で、全身に力を込める。
ふっと前を向くと目から光を失った友がいた。
頭には重々しいヘルメットを付け、両脚はワイヤーロープで縛られた姿を目にして更に力が込み上げる。
「いま…いま助けるからな…」
「あ…う…」
だが、どれだけ力を込めてもワイヤーロープを引きちぎれるわけもなく、ヘルメットを外そうにもびくとも動かず、これ以上力を入れでもしたら友の首がへし折れそうだし…
「やぁ、朔楽 陽助君。こんなところでどうしたの?迷子?」
「あ゙ぁ゙?」
「いやぁ。ぜひ君には我が軍に入ってもらいたいと前々から思っていてねぇ」
「ほーう。ならこいつ助けてやってくれたら考えてやるよ」
「あーそれは無理な相談だ。なんせ、国が決めたことだからな。」
「は?」
「君の友、ロストウエポンはその名の通り、この世界から銃火器を消させるために人肌脱いでもらうんだよ。世界のためにね」
「なんで、こいつがそんなことしなきゃなんねぇんだよ」
「いやぁ、神の導きと言ったところかな。まぁ、私も別段気にしてないけど。命令されたからそれに従うだけ。その方がずっと楽だ!」
「くずめ」
殴りかかろうとする体。
だが、すんでのところで体が捩れる。
「きみの防御力は脅威だが、それ以外はそうでもないからね」
目の前には男の他に、黒い衣装に身をくるんだ軍人が二人。
…つっ!
片方は何やら能力を行使し、もう片方が細いワイヤーで身動きを封じてきた。
「おい!何しやがる!」
「何、ちょっとした教育をしてやろうとな」
「そうかよっ!」
無理やりワイヤーを絡め取るも、再び進み出すと今度は足が地面に吸い込まれ、腕だけでなく全身がワイヤーに囚われ引きずられる。
そしてそのまま隣の部屋まで吹っ飛ばさたその時だった。
「ひやっ!」
ん?
土煙の中から何やら声が聞こえる。
『あの..少しジッとしといて…くだ…さい』
途端、頭に直接入ってきた言葉。
さらにはドアが爆破され、奥に人影が見えた。
赤い服を見に纏い、マントを靡かせ、堂々と歩いて向かってくる。
ふと、体の強張りが解けたような感覚になると、ワイヤー弾け自由に体が動くようになった。
「どうなってやがる…」
「陽助さんですよね?」
「あ…あぁ」
「あのっ!初対面で申し訳ないのですが!ちょっと助けてくれません?」
「え?」
声のする下を見ると、一寸法師か登場時のかぐや姫ぐらいちっこい女の子がいた。
「ちょっと、このままだと私、確実に吹き飛びます。なので、ちょっと私ごと待ってて欲しいんですけど…」
「わ…わかった。」
「ありがとうございます!ボスが戦闘に一区切りつけてくれ次第、ロスト..君のご友人の方にも行きたいと思いますから!」
「お…おう。助かる。」
念のために髪を2本ほど代償に、手元の護りを固めた。
それを見計らってか、戦況が大きく傾き始めた。
ボスと呼ばれるガタイのいい男が、近くにいた軍人を目にも留まらぬ速さで倒すと、1分もたたぬうちにリーダー格同士のタイマンとなった。
『陽助君。今です。救出に向かいましょう』
「わぁ!?」
また直接頭に声が聞こえる。
『ごめんなさいいぃ〜。でもこれに慣れて欲しいです』
「お…おう。」
慎重な足取りで隣の部屋まで向かった。
すると、床に何やら液体が溢れている。
「おい。今助かるからな」
全く返事がない。
土煙が晴れ始めると、下に溢れていた赤い液体が何なのかわかった。
あれ?…おかしいな。こんなはずじゃ…
『離れて!』
…え?何から?
目の前が急に明るくなり、耳の中を甲高い音が鳴り響く。
やべ…間に合わ…
視界にかかった靄がだんだんと晴れ、目の前にはいつも横にいた友、信嶋 世砂の姿があった。
「…無事…だったのか?」
「いや、ここはある意味で物理法則の捻じ曲がった空間でね」
「物理法則…って?」
「あぁ..いいよ、陽は難しいこと考えなくて」
「そ…そうか。」
「それと、さっきの質問だけど」
「ん?」
「僕はもうじきこの世界から存在ごと消える」
「は?」
「二十歳になって能力が開花するみたいでね、その代償として僕は存在ごと消えてしまうんだ。」
「なら使わなきゃ良いじゃねえかよ」
「そうもいかなくてね。この能力のせいか、操られているのかは分かんないけど、能力を使わないっていう選択肢はないみたいでさ」
「でも、自分が消えちゃうんだよ?」
「そうだね。死ぬのはちょっと怖いけど…でも、まだ誰も知らないこの世界の真実を垣間見れたんだ。悪くないよね」
「いいや、悪いね。」
「…ごめん。でも、身勝手な僕を許して欲しいな。じゃなきゃ、落ち着いてあの世行けないよ」
「じゃあ、ぜってぇ許さねえ。」
「…うん。わかった。あ、あとひとつだけ、お願いしても…いい?」
「……」
「この世界の秘密。僕のいなくなった世界について、解いて欲しいんだ。」
「…ほんと、身勝手なやつだな」
「えへへ。でも、気になって仕方なかったんだ、ちょっとぐらい我儘聞いてくれたって良いじゃん?」
「ちょっとが、ヘビー級なんだよ」
「へへ。やっと陽助にいいパンチ喰らわせたぜ」
「うわ、そういう?」
「お、もうこんな楽しい時も終わりみたいだ。」
「……まじか」
「じゃ、勝ち逃げするね」
視界が崩れ去り、頭から色んな情報が抜けていくと同時に、世界についての秘密と違和感が流れ込んできた。
『大丈夫…ですか?』
「あ…あぁ。」
『何か、爆発に巻き込まれたみたいですが…』
「とりあえずここを脱出して…して…」
「立て、青年」
目の前には屈強な見た目のイカついおっさん。
奥では倒れた軍人のリーダー。
「さぁ、うちらの団で、世界の真実を見てみようじゃないか」
「…あぁ」
「琴くん。あれを」
「ボス…あの…大きくして貰えませんか?」
「あぁ、そうだったな」
ボスが指をパチンと鳴らすと、さっきまで小指ぐらい小さかった女の子が、胸の辺りまで大きくなった。
「じゃあ、手のひらを見ててくださいね」
「ん」
今度は、彼女な体が大きくなったように、みるみる服が大きくなり、あっという間に自分の上半身にピッタリなサイズになった。
「うん。聞いていた通りの大きさでよかったです」
「…これは?」
「団服ですよ?」
「なぜこれを?」
「え?うちのとこに入るんじゃないんですか?」
ボスの方に顔を向ける彼女に合わせるように、僕も彼の方を向いた。
「何、君の力を我が団は必要としていてな、取り敢えず入って貰おうかと」
「断れば?」
「ん?」
「お断り…」
「君には入る理由があるだろう?」
「入る理由…」
世界の真実を。この違和感を。
___解いて欲しい
「まぁ、やる事ないし…」
「今よりもっと強くなれるぞ」
「…わかったよ。入ればいいんだろ?」
服を手に取り身にまとう。
明らかに明るくなった空の真下で、珍しく人の後ろを付いて歩いた。
片腕をはためかせる事となったのはこの後のお話。
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