閑話
バグってんだけどッ?!
「やった! セリーナ・パートシイじゃん!」
この世界で目覚めて第一声がそれだった。
よくわかんないけど目が覚めたらわたしがわたしじゃなくなってて。そもそもここどこよ、あっ、学校! って焦って鏡を見たらなんかかわいい子がいるじゃんってなって。よくわかんないけどもしかしてこれって転生ってやつ?! しかもこのかわいい顔、わたしもやったことがある乙女ゲームのヒロインじゃん。色々とやった! ともうすっかり勝ち組気分だった。
その乙女ゲームってのが学園モノで、各キャラを攻略していくんだけどその攻略キャラの性格を知っていればわりと簡単なゲームだった。例えばニュートっていうキャラには「あなたがいれば安心する」、コリンは「一緒にいて楽しい」、ハイロは「とても頼りになる」。そういう系の選択肢を選んでいけば簡単に高感度アップできて簡単に周回プレイができるゲームだった。
ちなみにそのゲームのメインであり王道の王子様ルート、レオンハルトだとある程度の恋愛の駆け引きが楽しめる。しかも王道のせいか王子様キャラのせいか、レオンハルトは他のキャラに比べて作画に力が入っていた。
そんでもってそのヒロインであり主人公であるセリーナ・パートシイ。彼女は庶民出身で病弱な母親との二人暮らし。ある日光属性の魔法に目覚めてカナット学園に通うことになる。っていう設定だった。
セリーナは母親と二人暮らしってこともあって母親の面倒をほぼ一人でみていた心優しき苦労人、ってやつだったんだけど。わたしが何よりも喜んだのがゲームスタートは学園に編入してから。そしてわたしは今、カナット学園の寮にいる。
っていうことは?! 病弱な母親の面倒見なくていいってことじゃん! わたしそういうのよくわかんないしマジでラッキー! あとは学園に行って学園生活もといゲームをリアルで楽しめるってこと! これで喜ぶなっていうほうがムリって話じゃん?! めちゃくちゃ満喫しよ!
と、思っていた時期がわたしにもあったわ。
ストーリー開始のイベントは、校門前でレオンハルトと出会う場面からだった。転けそうになったヒロインを颯爽と助けてあげたのがレオンハルト。二人はそこから徐々に距離を縮めていく。はずだった。
とりあえずそのイベント発生させなきゃって、わたしわざわざ校門前で転けたっていうのにさ。
ここで助けてくれるはずのレオンハルトの姿見当たらないんだけど?
「うわ、派手に転けたな(笑)」
ただ通りすがりのモブ生徒にプッと笑われただけだった。ってかゲームのテキストだと絶対セリフのあとにかっこ笑いかっこ閉じるが書いてあったに違いない。
ただ恥晒しただけなんだけど? そのレオンハルトはというとなぜか遥か前~のほうで悪役令嬢キャラのアイビーと一緒に登校してるし。なんなの? どういうことなの? レオンハルトとアイビーは政略結婚のための婚約であって仲悪いとか書いてたはずなんだけど?
それからまったく! 全然! ゲームどおりに進まない! そもそもアイビーが悪役令嬢と言われたのはレオンハルトと仲良くしてるヒロインに腹立っていじめしてくるからそう言われるのであって。
そもそもそのレオンハルトとの接点がまったくなんだけど?! なんで?! ゲーム中には瞬きすれば必ず出会うみたいな遭遇率だったじゃん! わたし一体何度無駄に瞬きしたと思ってんの?!
レオンハルトとのイベントがまったく起こらない。っていうかそもそも出会わない。そのせいでアイビーがわたしにいじめをしてくることもまったくない! ゲーム中ならすでにアイビーは周りから嫌われていてすでに悪役令嬢だったっていうのに未だにただのレオンハルトの婚約者!
全然進まない攻略に頭を抱えていたら、街に遊びに行ったときに出会ったおじさんにアドバイスをもらった。もしかして救済処置のお助けキャラってやつ? もう色々といいこと聞いたんだけどまぁとどのつもり――悪役令嬢を作ればいいんじゃない? ってこと。イベント起きなければ起こせばいいじゃんってやつ。
一応念の為にレオンハルト以外の攻略は進んでいた。周回プレイしてたわたしにとってはすっごいイージーモードで簡単に高感度上げることできたし、立入禁止だった生徒会室にまで入れるようになった。ここでようやくレオンハルトとの接点ができたってわけ。こっからしっかり攻略していこ!
とか、わたしも思ってたわけ。
結果はもう失敗に次ぐ失敗。そんなレオンハルトがチート並みの能力持ってたなんて知らなかったし、本来ヒロインに向けられるはずだったであろう激重愛情が真っ直ぐにアイビーに向かっていた。
なんなの? こんな設定どこにもなかったじゃない。思ったんだけどこの世界で一番のバグはレオンハルトだったんじゃない? 全然ゲームどおりのキャラじゃなかったしゲームどおりに進んでくれなかったし。
攻略キャラ三人とアイビーを悪役令嬢に仕立て上げようとした罪として、わたしは学園から追放されて田舎のほうの修道院に閉じ込められた。またこの修道院ってやつがめちゃくちゃスパルタで冷たい床の上で寝なきゃいけないしご飯が一食しかないとかひどすぎる。育ち下がりの娘がこんだけで足りると思ってんの?
っていうわたしの考えがシスターにバレちゃって一週間パンと水のみだった。拷問すぎるこの修道院に人権ってものがないわけ?
とか思ってたらそんな考えがシスターにバレて八時間ぶっ続けで正座で説教。自分が何をしでかしたのかその自覚がまったくないんですねよりにもよってあの素晴らしい人を罠に貶めようとするとはそれが人の成すことですかあなたにはきっと悪魔が住み着いているのですねそれを追い出すまでずっとここで監視することに致しましょう。
って長々と言われたときのわたしの気持ちも考えて。わたしはただレオンハルトと恋愛しようとしただけなのに。人が人を好きになることの何が悪いんだっての。
とか考えてたら、更にとんでもない仕返しをされた。
後日やってきた例の女がわたしの、ってかセリーナの母親について教えてくれた。
「あなたのお母様には治療に専念してもらって治ったあかつきにはルゥナー家で雇うことになりました。これからあたたかい寝床に美味しい食事を取ることができますわ。あんな場所で一人放置されていたんですもの、その分たんと幸せを手にしてもらいたいですわ」
わたしが不幸の真っ只中にいるっていうのに、セリーナがせっせと世話した母親だけそんないい思いするなんてあんまりじゃない? わたしは別に世話する必要がなかったけど。
おいしいもの食べれないしここに来てからお肌も髪もボロボロ。そんなわたしに悪役令嬢はにっこりと笑顔を向けてきた。
「レオンハルト様に手を出そうとするなんて、このわたくしが許すわけないでしょう?」
わたし、転生する先間違えた。ってわかったのはこのときだった。
あの王子も相当やばいと思ってたけど、こっちもこっちでやばかった。二人してお互いに対して激重すぎる。この二人に関わってしまったことで今まで一体何人激しく馬に蹴られたんだろ。
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