第36話

 マリーは思案顔で窓外をながめる。ぼくはへらへら笑うじぶんに気まずくなる。


 数十分間、細かい情報すべて拾って仔細に検討しなおすが、やはり異常はない。計算にも狂いはない。


 それでもマリーは一歩もひかない。もういちど洗いなおしてみてと言う。


 渋々ぼくがみたび航路の算定にとりかかると、マリーは「アッ」と叫ぶ。見ると中空をながめている。あたまに閃いた考えを、崩さないようにゆっくりと、ていねいに輪郭をなぞるようにしてコトバへ置きかえようとしている。


「出力をぜんぶ落としてみて」


 マリーが言う。


「え?」


 ぼくは真意を汲みかねる。マリーがなにを言わんとするのか理解できない。


「出力を落とすの。船を止めるのよ」


 語気が強くてほとんど確信に近い。


「どうして?」 


 とうぜん訊くが、じぶんが見当ちがいな阿呆な質問をしているようにも思えてくる。それくらいマリーの言動はまっすぐで力強い。眼力も鋭い。


「止めればなにかが起きる。そんな気がする。だから早く」


「正気かい?」


「正気よ。感が働くの。まちがいないわ」マリーの瞳が信じてほしいと訴える。

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