第35話

 ぼくは操縦席に坐る。情報を読んで解く。原因はすぐに判明する。吹き荒れる宇宙塵に探査線が錯乱したのだ。かんたんに言うと誤作動だ。


 峡谷を縫うようにマクシムは微速度でもって前進している。ぼくは笑う。仰け反ってあたまに腕をくんで心配ないと言う。


 しかしマリーは笑わない。同調しない。「ちがうわ」とマリーは力む。「おそらく罠よ」怒ったように喰らいつく。その勢いに気圧されて、そういえばあの夜、獣みたいに交わっていた淫らなマリーとはまるで別人のようだと思いながら、ぼくは念のため舵とり以外の操作すべてを手動に切り替える。


 たしかに不馴れな時空間では数秒後になにが起きるか予測がつかない。判断を下すには神経質すぎるくらい慎重なほうがよい。うっかりではすまされない。たったひとつのミスがいのちとりになる。基本こそが王道だ。

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