第20話

「でもあなたは遁げる。公人を敵に回して」


「わるいことじゃあない。ぼくたち凡人は、いまあらゆる可能性をさぐっている最中なんだ。公人支配の中枢に喰らいこんでみたり、飼い馴らされたふうを装って忍従してみたり」


「宇宙の果てへむけて遁げだしてみたり」


 はじめてマリーがうっすら笑う。


 すてきなほほ笑みだ。どうして彼女は気づかなかったのだろう。やさしくておだやかで思慮ぶかくて、まちがっても闘いのための笑みなんかではない。


「ぼくはまがりなりにも銀河政府の人間だ。なのに革命家のきみをたすけた。銀河国家の転覆を謀る重篤な犯罪だ。生皮剥ぎとりと目玉抉りとり、局部切断の極刑のあとの公開処刑は確実だよ。やれやれだ」


「後悔しないのね」


「嗚呼」


「生きて目覚めたら、たくさん話しましょう」


「嗚呼。話そう、生きて目覚めたら」


「たのしい夢、みてみるわ」


 マリーはそう言って瞼をとじる。


 よほど疲れていたのだろう。すぐに寝息が聞こえてくる。正弦波みたいに規則ただしい。

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