第19話

 ぼくは言う。


「きみはたぶん、はじめて敗北をあじわっているんだ──」


 ゆっくりとマリーはふりむく。黒い瞳でぼくをのぞく。


「遁げるのもわるくないぜ」


 心胆なく言ってみる。


 マリーは表情を変えない。しかしぼくは言う。同情はいちばんよくない。言うべきは言う。そうでなければ信頼なんて築けない。


「力で捩じ伏せる公人たちに、おなじ力でもって歯向かうなんて愚かしいよ。ぼくたちは公人たちを押しのけたいんじゃない。強者になりたいんじゃない。凡人の世界をふたたび宇宙に繁栄させたいわけじゃないだろう? ただ調和を望んでいるだけさ。ぼくたち操縦士は一般の凡人から蔑まれている。公人の汚い犬だと嗤われる。裏切モノだと罵られる。でもね、ぼくたち操縦士だって願っている。ぼくたち操縦士にできるのは、そうやって公人支配の中枢に喰らいこむことなんだ。無意識にではあるけれど、凡人であるぼくたちの種をなりふりかまわずどうにかして存続させようと試みているんだ。凡人のみんなは誤解してるよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る