第13話

 機体前方にむかって光がぐんぐん集中しはじめている。波長の偏移がもたらす現象、光行差だ。


 まばゆい光の矢の雨が、まっすぐな尾を曳いてさきを競いあう。まるで夢色の虹に流れ浮かぶかのようだ。


 マリーは目を見張る。潤んでくる瞳のなかで虹の流れが無限の光彩をはなってキラキラと輝く。そう、あとすこしでぼくたちは光になる。時間のよろいをかなぐり捨てて、遥かな前方漆黒に燦然たる光輪をはなつ全宇宙の全中心をめざす。飛びすさる。無間の空間を箱船マクシムがぐんぐん昇る。やがてぼくたちはじぶんたちが昇っているのか降っているのか、それすらもわからなくなってくるはずだ。


「知ってるかい? ドップラー効果による現象だ」


 半ばくちをあけたまま「はじめて見るわ」そうマリーがこたえる。


「星の虹だよ」


 ふるえる声で「きれい……」そう呟く。


 長く凡人解放をめぐる闘争にどっぷり漬かって明け暮れて、宇宙の神秘にふれる機会なんていままでいちどもなかったのだろう。夢幻の風景に魅入っている。

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