第7話 星空の下で

スマホのアラームがなる直前、霊斗は目を覚ます。

用済みとなったアラームを削除すると、まだ眠たい目を擦りながらリビングに向かう。

「ちょうど一時間、流石だね」

「顔だけ洗わせてくれ……」

部屋の目の前に立っていた天音を押し退け、洗面所に入る。

「んで、今日はどこに行くつもりだ?」

顔を洗いつつ聞く。

「とりあえずショッピングモール行って、夜は峠かなぁ」

「また意味わからん組み合わせだな……荷物そんな載らないから考えて買えよ」

「わかってるって」

「そう言ってこの前も載らねぇモン買って配送してもらったじゃねぇか」

天音の差し出すタオルで顔をふき、そのまま洗濯機に入れる。

「んじゃ行くぞ。テレビ消したな?」

「もちろん。バッチリだよ」

戸締まりをして車に乗り込む。

「そろそろ新しい車買わないの?」

「まだ買って一年だぞ」

「今時ガソリンだけなんてお金かかるだけだと思うけど」

「生憎俺はこいつ以外乗るつもりないんでな」

「せめてハイブリッドにすればいいのに」

「絶対やだ。ガソリンエンジンこそ至高なんだよ」

「頑固だなぁ」

エンジンをかけ、駐車場を出て程なく国道に合流する。

飛ばしていく車を横目に、左車線でのんびり走る。

「実家近くのモールでいいんだよな?」

「うん、あそこなら何処に何があるか覚えてるし」

「了解。ちょっとこの後混みそうだから飛ばすぞ」

3速で固定していたギアを4速に入れ、アクセルを踏み込む。

40年前の車とはいえ、霊斗が少しずつ手を入れているエンジンは最近のスポーツカーと遜色ない加速をする。

「あれ、夜斗と弥生ちゃんも来てるみたい」

「なんだ、連絡でもあったのか?」

「夜斗からね。お揃いで買うなら何がいいかって相談が」

「末永く爆発しやがれクソリア充がって返しとけ」

「弥生ちゃんが可哀想でしょうが。無難にブレスレットとかどうかな、と」

「あいつの事だしGPSと非常用警報装置付いてるやつ買いそうだな」

「わかるー。しかもお洒落とか度外視なデザインのやつね」

二人で話していると、再び天音のスマホから通知音が鳴る。

「あ、弥生ちゃんからだ。早速写真撮って送ってくれたみたい……え?」

「なんだよ、変な写真でも届いたのか?」

「そうじゃなくて……普通にお洒落なやつなんだけど……」

「なん……だと……!?」

信号待ちのタイミングで天音が写真を見せる。

そこには無難ではあるが、様々な服に合わせやすそうなブレスレットが写っていた。

「まさかあいつに普通のセンスがあったとは……」

「私もびっくりしたよ。夜斗ってそういうの興味ないと思ってたし」

「……実はGPS入ってましたってオチは?」

「この細さで入らないでしょ。まぁ今は夜斗の成長を喜んであげますか」

信号が変わり再びアクセルを踏み込む。

自身も何か天音に買ってやるかと考えつつ、車を走らせるのだった。












「よし、じゃあまずは服から見る」

「へいへい、仰せのままに」

天音に付いて服屋に入る。女性向けの服が多いため、居心地が悪い。

「……なぁ、俺外に居ちゃダメか?」

「ダメだよー。一緒に選んでもらいたいんだから」

そう言って目に付いた服を手に取る天音。

肩周りの開いた、大胆なデザインのトップスだ。

「どうかな?可愛くない?」

「ちょっと露出が多くないか?」

「これくらいが可愛いんだよー」

「俺はあんま好きじゃねぇな」

「じゃあやめとく。次次ー」

楽しそうに新たな服を見始める天音。これだけ楽しんでくれるのならば、連れてきた甲斐もあるというものだ。

「あ、これとかどうかな」

「なんでそんな血塗れみたいな柄選んだん?」














時間は過ぎて夜。二人は夜の山に来ていた。

「いやー、やっぱり夏の夜は星が綺麗だね」

「そうだな。今日は晴れてるし、丁度いい」

雲一つない満天の星空。それに加えて今日は新月。星を見るには最適だ。

「やっぱり私、この時間が好きだな」

「お前昔から星好きだもんな」

「それもそうなんだけど……霊くんと一緒に見てるのが好きなのーー」

ドキリと心臓が跳ねる。

「それって……」

「ーーなーんも気遣わなくていいし、文句言わずに連れてきてくれるし」

「……あぁ、そう……」

空を見る天音の少し後ろで肩を落とす。

わかっていた事だ。天音が求めているのは、恋人ではなく、幼なじみとして、友人としての自分なのだと。

だから、霊斗は自身の気持ちは伝えない。彼女の気持ちを裏切れないから。

「……そろそろ帰ろっか。明日は授業あるし」

「……そうだな。寝坊して遅刻しても嫌だからな」

二人で車に乗り込み、山を下る。道中で眠ってしまった天音を起こさないように、慎重に運転する霊斗だった。

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