第6話 帰宅、そして来客

愛車のエンジンを切り、外に出る。

自宅が見えた途端に昨晩からの疲労がどっと襲ってきた。

考える気力もなく、扉を開ける。

「ただいまー」

すると、キッチンの方からパタパタと走る音がして少女が現れる。

「あ、霊くんおかえりー」

「……来るなら連絡しろって言ったろ、天音」

彼女の名前は焔宮天音ひのみやあまね。霊斗の幼なじみであり、大学の同級生でもある。

「連絡いれたけど返事してくれなかったじゃん」

「マジか。そういや電源切ってたわ」

スマホの電源を入れると、確かに天音からのメッセージが届いていた。

「今日もバイトだったの?」

「ん、まぁな」

「大変だねぇ。お疲れ様」

「おう。お前は今日休みなのか?」

「今日は一限だけだったから、お昼作ってあげようと思って」

「そうか、ありがとな」

軽く天音の頭を撫で、自室に荷物を置きに向かう。

着替えを済ませリビングへ入ると、食欲をそそられるいい香りがしてきた。

「この匂いは……チャーハンか?」

「せいかーい。霊くん、好きでしょ?」

「大好物だ。ニンニクは?」

「入ってないよ。だって霊くん食べれないじゃん」

「完全に俺の好みを把握してやがる。末恐ろしい幼なじみだな」

「もっと誉めて良いんだよー?さぁ、召し上がれー」

「んじゃ遠慮なく。頂きます」

一口食べると、口の中に旨味と香ばしさが充満する。

米粒もパラパラとしており、飲食店で出されても気づかないだろう。

「旨いなぁ。天音の料理なら毎食食っても飽きないな」

「なにそれ、口説いてるのー?」

「正直な感想を述べたまでだ。口説くつもりなんかねぇよ」

「まぁ暇なときにまた作ってあげるよ」

「助かる。んで、材料費いくらくらいだ?」

「そんなのいいから、この後ドライブでも連れてってよ。暇でしょ?」

「一時間仮眠取らせてもらえりゃいいぞ。昨日から寝てないんだ」

「おっけー。洗面所とか借りるからね」

「言わなくてもほぼお前の化粧道具ばっかりだ」

チャーハンを平らげ、皿を持つ。

「洗っとくよ?」

「飯は作ってもらったんだ。片付けくらいはするさ」

「んじゃはい、私のも」

「はいよ、ごちそうさま」

「お粗末様でした」

皿を洗い、乾燥機に入れる。

タイマーをセットして自室に戻る。

「……なんで着いてくる」

「添い寝してあげようかと」

「いらん、テレビでも見てろ」

「プライムビデオは?」

「入ってる。使っていいぞ」

「やったー!じゃあ一時間後ね!」

嬉しそうにリビングへと戻っていく天音を見送りつつ、扉の鍵を閉める。

そしてベッドに腰掛け、深く息を吐く。

(無防備にも程がある!)

正直、彼女の事を憎からず思うどころか好きな霊斗にとって、天音の無防備さは毒以外の何物でもない。

今日も薄手のTシャツにショートパンツというラフな格好でいるのだ。そんな状態で添い寝などされた日には、理性など一瞬で蒸発するだろう。

(とにかく、寝て頭をリセットするしかないな)

アラームを一時間後にセットし、横になる。

目を閉じて数秒、霊斗の意識は深く沈んで行った。

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