第5話 一先ずの終結

少女を抱え、アタッシュケースを持った夜斗は少し離れた所から高く立ち上った火柱をみていた。

「やりすぎだろ…」












「で、報告は以上か?」

額に青筋を浮かべた女性が足を組み、机をトントンと指で叩く。

「い、いやー。五月さつきさん、あんま怒ると綺麗な顔が台無しですよ?」

「俺は知りません。全部こいつの独断です」

「夜斗てめぇ裏切るんじゃねぇ!」

「本当の事だろうが!だいたい工場丸々消し飛ばす必要なかっただろ!?」

「一回貴様らは黙れ」

女性らしからぬ地獄の番人のような声に口を閉ざす二人。

「まったく…貴様らを組ませると毎度ロクな事にならん」

「「だいたいこいつのせいです」」

「二人とも不祥事の回数は変わらん。…それでも単独任務よりはマシか…」

ため息をつき、二人に書類を差し出す五月。

「なんすかこれ」

「婚姻届じゃね」

「誰が行き遅れだと!?」

「うわ、うるさ」

「過去一の声量でてます五月さん」

「取り乱した。貴様らは始末書でも書いてこい。もう慣れたものだろう」

「慣れたくなかったなぁ」

「自業自得だ。明日までに提出しろ」

「うっす。んじゃ俺らはこれで」

「待て、緋月は残れ」

「えぇ!?」

「んじゃ、お先ー」

夜斗が退室した後、霊斗は五月に聞く。

「んで?俺だけ残したって事はいつものすか?」

「うむ、よろしく頼む」

霊斗がソファーに座ると、その膝の上に五月が座る。

その頭を霊斗が撫でる。

「はい、よしよし。五月さんは頑張ってますねー」

「そうだよね!そうだよね!私頑張ってるよね!」

「厳しくしてるのは皆の事を考えてですよねー」

「うんうん!なのに夜斗くんってば行き遅れなんて酷いこと言って!」

「仕事柄出会いがないからですよねー。仕方ないですよねー」

適当にあやしながら頭を撫でる。

どうしてこうなったのか。事の発端は数ヶ月前、霊斗が指令室で幼児退行し愚図る五月の姿を目撃してしまった事だ。

それから定期的にガス抜きとしてこうして五月を甘やかしている。

(…しんどい)

無邪気に甘えてくる五月との距離は0。

つまり、年頃の男にとっては理性との戦いに他ならない。

(これじゃあ敵と戦う方がよっぽど楽だ…)

腕や腹に当たる柔らかい感触を意識の外に飛ばし、無心になる。

頭を撫でていない方の手で自身の脇腹をつねりながらなんとか理性を保つ。

(拷問だろマジで……)

しばらくそうしていると、五月が立ち上がる。

「ご苦労だった。帰っていいぞ」

「うす。お疲れ様です」

軽い放心状態のまま、霊斗は部屋を後にした。




「だれかいい人、いないかなぁ……」

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