第4話 闇夜の異形

木々の隙間を縫うように二つの影が走る。

『見えた、あそこだ』

夜斗の声を聞いて目を凝らすとポツリと廃工場の明かりが見える。

「良く見えんなお前」

『視力には自信あんだよ。前後の出入口で張るぞ』

「了解。俺は西に行く」

『んじゃ俺は東だな。動きがあり次第連絡くれ』

「はいよ。死ぬなよ」

『お前もな』

二手に分かれ、通信を切る。

西側の出入口前に着くと、扉が少し開いていた。

中を覗き込むと、工場の中央付近に数人集まっているのが見えた。

会話の内容までは聞き取れないが、足元にアタッシュケースが置いてあるのを確認し、夜斗に通信を繋ぐ。

「こっちから中が確認できた。恐らくアタッシュケースの中が魔薬だ」

『了解。受け渡し後に捕縛、そのまま本部に連絡だ』

「はいよ」

再び中の様子を見ると、どうやら荷物の中身を確認しているようだった。

取り出された試験管には薄水色の液体が入っている。

傍目に見れば綺麗なのだろうが、霊斗の目にはその周囲に漂う禍々しい魔力が見える。

魔力を探知できる普通の感性を持った者であれば一目で使ってはいけないものだと分かる程だ。

高濃度の魔力を含んだその液体を、そいつは近くに転がっている袋に掛けようとしていた。

そう、袋に。

「てめぇら動くんじゃねぇ!裏公安1課だ!全員手に持ってるもん捨てて手ぇ挙げろ!」

『っバカ!何やってんだ!』

通信機から夜斗の焦った声が聞こえるが、構うことなく銃を向ける。

「おいおい、裏公安様だとよ。たった一人で乗り込んでくるとは大した度胸じゃねぇか」

「しかもガキだぜ。この人数相手にできんのかよ」

ニヤニヤと馬鹿にしたような笑みを浮かべる男たち。

彼らの動きに注意を払いつつ袋の方をみる。

もぞもぞと動いている様子から、まだ生きていることがわかる。

とにかく奴らの注意をこちらに向けさえすれば夜斗が救助に向かえる。

「抵抗するようなら力ずくで捕獲させてもらうぞ」

「おもしれぇ、やってみろ」

そう言って現れた巨漢。既に形態変化が済んでいる獣人だ。

銃を構え直し戦闘態勢に移ろうとした瞬間、男はその巨体に見合わぬ速度で肉薄してくる。

「速っ!」

「ぼーっとしてんじゃねぇぞガキィ!」

襲い来る鉤爪を紙一重で避け、距離を取る。

獣人の耐久にあの速度では銃は分が悪いと判断し、代わりにナイフを構える。

「ずいぶんとすばしっこい獣人だな。ネズミか?」

「舐めやがって…」

挑発しながらジリジリと自身が入ってきた扉へと後退する。

対面の壁を夜斗がすり抜けてくるのと同時に敵に飛びかかる。

「これでも避けるのか…」

「遅ぇよ!」

カウンターの拳を避け、再度ナイフを振るう。

こちらも浅く皮膚を切り裂いただけでダメージはほぼ無い。

「チマチマ攻撃してきやがって!ウゼェんだよ!」

段々と大振りになる攻撃を避け、夜斗の方を見る。

夜斗は既に被害者と物品を確保し、外へ出ていく所だった。

「さて、こっちに熱くなるのもいいが…何か忘れてないか?」

「あぁ?なに言ってやがる!」

動きを止めた霊斗に爪が当たる瞬間、部下と思われる者が声をあげる。

「ボス!ブツと被験体がいません!」

「なんだと!?てめぇ…そっちが目的か!」

悔しさと怒りの入り交じった形相で霊斗を睨み付ける獣人。

「ま、抵抗するなら消して良いって言われてるんでな。それを実行するのにアレが邪魔だっただけだ」

「なんだと…!?」

「まぁ周りのお前らも間抜けなボスに付いた自分を恨むんだな」

そう言って腰のホルダーから一枚の紙を取り出す。

「っ!その呪符…!」

緋ノ式ひのしき一型はじめのかた紅蓮ノ華ぐれんのはな”」

霊斗が唱えると同時に呪符から巨大な火柱が上がる。

それは範囲を広げ、やがて工場を全て飲み込んだ。



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