第3話 仕事の時間

大学構内を歩き、裏手にある駐車場に向かう。

指定された場所に停めてある愛車に乗り込み、エンジンをかける。

昨今電気自動車が主流となった時代でも、霊斗は旧世代のガソリン車が好みだった。それもマニュアル車が。

周囲の安全を確認し、車を発進させる。電気自動車にはない、エンジンの嘶きが車体を震わせる。

「とりあえずガソリン入れに行くかぁ……」

ガソリンメーターは、あと二メモリしか残っていなかった。






「高ぇなぁ……」

先週からまた五円値上がりしていた。

夜斗曰く数キロ先のガソリンスタンドは先週とほぼ変わりない値段だったらしい。だがあの残燃料では不安でそこまで行けなかった。

「ったく大食いなんだからよ」

苦笑しつつ給油を終え、会計を済ませる。

再び車に乗り、次こそ自宅へと向かう。







「ただいまーっと」

誰もいない部屋に声をかけつつ靴を脱ぐ。

手洗いうがいもそこそこに、自室のPCのスリープを解除する。

そのまま椅子に座りメールを開くと、上司からの指示が暗号化ファイルで届いていた。

それを夜斗が作った解読ソフトを使い表示させる。

内容は簡素で、取引後の下っ端それぞれを追跡し、相手の本拠地に近い所を調査しろとのことだった。

「追跡か……苦手なんだよなぁ……」

ため息をついてメールを閉じ、ゲームを立ち上げる。

コントローラを手に取り、霊斗はしばらくゲームを楽しむことにした。







数時間後、霊斗は事務所の椅子に座り頭を抱えていた。

「夜斗のやつ…どこほっつき歩いてやがんだ…」

時刻は零時半になろうかというところ。夜斗は未だに到着せず、連絡もつかない。

このままでは任務が開始できず、組織を見逃すことになる。

もう一人で行ってしまおうかと考え始めた時、事務所の扉が勢い良く開いた。

「いやー、すまんすまん。箱根攻めてたら遅れたわ」

「……このど阿呆が」

「もうちょいで最速タイム更新だったんだけどなぁ」

「ほんとぶち殺すぞお前」

呆れつつ、追跡用の装備を夜斗に投げつける。

「お前のせいで時間ギリギリなんだからさっさと準備しろ。俺は先に一服してる」

「俺も吸いたいんだけど。置いてくなよ」

「んな時間ないわ。我慢しろ」

文句を言う夜斗を置いて事務所の外にある喫煙スペースに向かう。

タバコを取り出し火を付け、ゆっくりと吸う。

煙を吐き出しつつ、任務の段取りを脳内で復習する。

そうして一本吸い終わるころに、ようやく夜斗が事務所から出てきた。

「ちっ、吸い終わってたか」

「丁度今な。ほら、さっさと行くぞ」

「へーい」

二人は夜の山へと駆け出した。

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