第48話

 (※ナタリー視点)


 店に入ってきたのは、子供連れの四人家族だった。


 お父様たちではなかったことにほっとして、私は胸をなでおろした。

 よかったわ、お客さんが少ないこんなところをお父様たちに見られたら、いったいどうなっていたか……。

 それに、お客さんが増えたのは、いいことだわ。

 この調子でお父様たちが来るまでにお客さんが増えれば、お父様たちがお店に来ても、なにも怪しまれることはない。


 それに、サクラもなしでお客さんがたくさん店に来るのは、単純に嬉しかった。

 お客さんがたくさん来れば、売り上げが伸びる。

 売り上げが伸びれば、利益が増える。

 問題は、出費した分よりも、売り上げが上回るかどうかだ。

 これは、正直言って難しい。

 何か、画期的なアイディアが欲しいところだけど、今のところは何も思い浮かんでいない。


 そんなことを考えていると、お店の扉が開いた。

 

 入ってきたのは、中年の夫婦だった。

 いいわ……、いい調子よ。

 いつもはお客さんなんてほとんど来ないけど、今日は珍しく、二組も来ている。

 しかも、お父様たちと同じくらいの時間帯だ。

 これはもしかしたら、いけるかもしれない。


 そう思っていたが、どうやら甘かったらしい。

 最初に来た子供連れの家族は帰り、それからさらに時間が経過し、中年の夫婦も帰ってしまった。

 お店は再び、誰も客がいない状態になった。

 そして、またお店の扉が開いた。


 お父様たちが来る前に、席が埋まるくらいのお客様に来てほしかった。

 しかし、この際一組でもいいので、ほかのお客様に来てほしかった。

 だから、扉が開いた時は、私は素直に喜んだ。

 しかし、その喜びは一瞬で終わってしまった。


 なぜなら、入って来たお客様は、お父様たちだったからだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る