第44話

「前提が間違っていた? どのように間違っていたのですか?」


 えっと、正直半信半疑だったけれど、殿下はもしかして、本当に事件の真相がわかっているのかもしれない。


「被害者の胃の中からは、クッキーの材料となるものが検出されたでしょう? それに、ブルーベリーの検出されたし、倒れたのはクッキーを売っていたお店の近くだったわ。さらに、被害者はそのお店のクッキーの箱を持っていたから、当然、そのお店のクッキーに毒が入っていたと考えるのが自然な流れね」


「ええ、そうですね。でも、たくさんあるクッキーの中から、どうやって毒入りのクッキーを選ばせたのかというのが、不思議だったわけです。ほかにクッキーを買ったお客さんは、何ともなかったわけですから」


「ええ、私も最初は不思議に思っていたわ。でも、その前提が間違えていることに気付いたの。つまり、お店のクッキーを食べて倒れたという前提が、そもそも間違っていたの」


 おお、殿下、すごいなぁ。

 そこに気付くなんて……。

 私は新聞の記事を見て答えを知っているけれど、殿下は、その答えに自力でたどり着くかもしれない。


「状況から考えて、お店のクッキーの中に毒が入っていたと考えていたけれど、それが思い込みだったのよ。お店のクッキーには、毒は入っていなかった。そう考えると、この事件は不思議でも何でもないわ」


「じゃあ、被害者の人は、どうやって毒を盛られたのですか?」


「そんなの単純なことよ。普通にクッキーを上げたのよ。お店のものじゃなくて、家かどこかで手渡ししてね。殺すくらいだから、赤の他人というわけではないでしょうから、手作りのクッキーを渡すのは、それほど難しいことじゃないわ。そして、その毒入りのクッキーを食べたあと、お店のクッキーも食べたから、私たちは、お店のクッキーの毒が入っていたと思い込んだだけ」


「おお、すごいですね、エミリーさん。正解ですよ。よくわかりましたね」


「たまたまよ。それに、憶測だけでは逮捕なんてできないわ。憲兵は地道な捜査をして、きちんと証拠を集めたから、今回の逮捕に至ったのよ」


「ええ、そうですけれど、それでもすごいですよ、エミリーさん」


「褒めてくれるのは嬉しいけれど、あなたはまだ可能性を見落としているわ」


「え、なんですか?」


「私がすでに新聞を読んでいた可能性。あるいは、新聞を読んだ誰かに、事件の真相を聞いていた可能性」


「え!? そんなことしていたんですか?」


「さて、どうかしら……」


 殿下は微笑んでいた。

 はたして彼は、その頭脳で本当に事件の真相を見破っていたのか、それともただズルをしていただけなのか。

 今はわからない。

 しかし、のちに私たちが事件に巻き込まれたことによって、その事実は明らかになるのだった。


     *


 (※ナタリー視点)

 

 今日はお店にお父様たちが来る日だ。

 

 私はいつものように、サクラたちに前金を渡しに来ていた。

 しかし、彼らは、信じられないことを口にした。


「依頼は受けてもいいが、報酬を今までの倍にしてくれ」


「え……」


 あまりに衝撃的過ぎて、私は言葉が出てこなかった……。


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