第31話
出店に来ていた人が倒れてから数日後、私たちの泊まっている宿屋の部屋に、ある人物が訪れてきた。
「どうも、私、憲兵の者です」
「え……」
どうして、憲兵がこんなところに……。
まさか、殿下のことが、気付かれたの?
……いや、落ち着くのよ。
まだ、そうと決まったわけではない。
「何の御用でしょうか?」
私は努めて冷静に質問した。
「とりあえず、部屋の中に入っていいですか?」
「え……、ええ、どうぞ……」
私は彼を部屋に通した。
殿下は完全に変装している。
大丈夫、バレているはずがない。
私と殿下は並んでソファに座り、憲兵は向かい側の椅子に座った。
「ええ、この前、町の人たちが出店を出していたのですが、あなたたちはそこへ行かれましたか?」
意外な質問だったので、私はなんだか拍子抜けした。
「ええ、私たち、二人とも行きましたよ。それが、どうかしたのですか?」
「実はですね、あの場で倒れた人がいたのですが、ご存知ですか?」
「ええ、倒れた人がいることは、知っています」
「なんとその人、病院へ運ばれたあと、亡くなったんですよ」
「え……」
私は驚いて、言葉が続かなかった。
あの人はただ、体調が悪くて倒れた程度だと思っていたのに、まさか、亡くなっているなんて……。
「そして、死因が判明したのですが、毒によって亡くなったことがわかりました」
「え……」
毒って、まさか……。
私と殿下は、顔を見合わせた。
たぶん殿下も、あの日買ったクッキーのことが頭をよぎったのだろう……。
*
(※ナタリー視点)
「あ、そうだ。二号店じゃなくて、本店の方に来たらどう?」
私は皆に提案した。
最近減ってきているとはいえ、本店の方ならまだ、そこそこ客もいる。
そちらなら見られても、経営状況を怪しまれることもない。
しかし、返ってきた答えは……。
「二号店の方が近いから、二号店でいいよ」
「そうね。お店も新しいから、綺麗でいいわ」
そ、そんな……。
どうする?
ここで無理に、さらに本店の方へ誘導してみた方がいいの?
いや、それだと、何か怪しまれる可能性もある……。
「わかったわ。じゃあ二号店の方ね。楽しみにしているわ」
私は笑顔で答えた。
最近この嘘の笑顔ばかりしてる気がする。
そしてその度に、家族に嘘をついている罪悪感で、押しつぶされそうになっている。
夜に二号店に来ることは、決定してしまった。
……こうなったら、奥の手を使うしかないわ。
自らの首を絞めることになってしまうけど、何もかもバレてしまうよりはマシよ……。
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