第30話

 とりあえず、私たちは宿屋に戻った。

 

 二人ともクッキーを食べたけれど、今のところ体調に異変はない。

 人が急に倒れて以降、クッキーを一枚も食べていない殿下も、その後もバクバク食べていた私も、特に何ともない。


 きっと、毒が入っているなんて、思い過ごしに決まっている。

 その場にいた人の、根拠のない憶測を真に受ける必要なんてどこにもない。

 きっと倒れた人は、体調が悪かったのだろう。


 テーブルの上には、クッキーの箱が置かれている。

 あれかあら殿下がクッキーを食べていなかったので、私もそれ以降はクッキーを食べていない。

 頭ではわかっていても、どうしても、毒が入っているのではないかと思ってしまう。


 せっかくおいしいクッキーなのに、もったいない……。


 倒れた人は、単に体調が悪かったのかと思っていたけれど、数日後、そうではなかったと、私たちは知ることになるのだった……。


     *


 (※ナタリー視点)


 まさか、夜も店に皆が来ることになるなんて……。

 私はいったい、どうすればいいの?

 このままだと、経営がうまくいっていないことがバレてしまう……。


「あ、そうだ、お店に行く日が決まったら、事前に私に教えて。粗相のないようもてなすように、皆にも伝えておくから」


「ああ、そうだな。行く日が決まったら、先に伝えておくよ」


 とりあえず、いきなり来られることは、これで防ぐことができた。

 でも、だからといって、お店に来る日がわかっていても、どうしようもない。

 あの店は昼も夜も寂れた雰囲気、否、静かで落ち着いた雰囲気のお店だからだ。

 客足が少ないところを見られてしまったら、経営がうまくいっていないことがバレてしまう。


 みんながお店に来る日までに、何とかしなければならない。

 何も対策をできなければ、私は終わりだわ……。

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