第22話

 (※ナタリー視点)


「本当に、そうなのか?」


 お父様の言葉を聞いて、私は息をのんだ。

 まさか、利益がほんの少し上がったのが嘘だと、バレたの?

 そんな、どうして……。


 なんて言い訳したらいいの?

 何か、考えないと……。

 利益が落ちていることがバレたら、失望されるかもしれない。

 実はお姉さまが有能で、私が無能だということが知られてしまう。

 そんなことは、絶対に嫌だった。


「あ、あのね、お父様……」


 私は必死に言い訳を考えていた。

 しかし、何も思いつかない。

 言葉がそれ以上続かなかった。

 もうだめだと思っていたけど、お父様からは意外な言葉が返ってきた。


「謙遜しているだけで、本当は利益がぐんと上がったんじゃないか?」


「え……、ええ……、そうよ。その通りよ、お父様! さすがにお父様には気付かれたようね。実は、二店舗目の売り上げが好調で、初期投資の費用も取り戻せて、利益も出始めているの。だからこれからは、さらに利益が増えることになるわ!」


 私は父の言葉に便乗した。

 少しほっとしたけれど、心の中にある焦りや不安は消えなかった。

 また、嘘をついてしまった。

 どんどん取り返しがつかなくなってしまっている……。


「さすが、自慢の娘だ。ナタリーなら、うまくやってくれると信じていたよ」


「ありがとう、お父様。私、また仕事をするから、部屋に戻るわね」


 私は席を立った。


「しっかりと休みながら、無理をしないでね」


「ありがとう、お母様。大丈夫よ」


 私は部屋に戻った。

 そして、今月の売上表を見て、どんどん悪くなるこの状況の打開策を見つけようとした。


「あれ? おかしい。どこへいったのかしら……」


 机の上に置いていたはずの売上表がない。

 え……、どうして……。

 いや、落ち着くのよ……、自分の行動を、よく思い出してみて……。

 えっと、夕飯の前に眺めていて、机の上に置いて、それから……、ああ!


 思い出した……。

 ポケットの中に入れたのだった。

 どうして自分でもそんなことをしたのかわからない。

 ほとんど、無意識だった。

 疲れているせいか、ぼうっとしていたのだ。


「お母様の言ってた通り、あまり無理をするのはよくないわね。こんなにうっかりするなんて……」


 私はポケットの中に手を入れた。

 しかし……。


「え……、ない! どうして!?」


 売上表は、入っていなかった。

 念のために違うポケットも捜してみたけど、どこにもなかった。


 いったい、どこへいったのよ……。


     *


 (※父親視点)


「なんだ、これは……」


 テーブルのすぐそばに、一枚の紙が落ちていた。

 ナタリーが座っていたすぐ側だから、おそらく彼女のものだ。

 仕事はできるのに、どこかうっかりしているところがある。

 でも、そこがまた、可愛らしいところだ。


 私は、紙に書かれている文字に目を通した……。

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