第21話
さて、思いついた言い訳をとりあえずしてみたけれど、はたして兵の人は信じてくれるのか。
ダメだったら……、もう、やるしかない……。
「なるほど、状況は大体わかりました。確かに今話していただいた内容と、この状況は一致しますね」
ふぅ……、何とか信じてもらうことができた。
とっさに思いついた言い訳だけれど、言ってみるものね……。
私はほっとして小さく息を吐いた。
しかし、まだ話は終わりではなかった。
「今のお話とこの状況は大体一致するのですが、一つだけわからないことがあります。最後の一人は、どうやって倒れたのですか? 仲間同士で殴り合っていたのなら、最後の一人は残るはずなのですが……」
「あ……、えっと……」
確かに彼の言う通りである。
えっと、どうしよう……、これは、みぞおちコースかな?
……いやいや、落ち着け私。
早まった行動をするのは、得策ではない。
なんとか言い訳を考えないと……。
「えっと、言い忘れていましたけれど、最後は、同時にパンチを繰り出しました。そして、二人のパンチは同時にお互いのみぞおちに直撃して、同時に倒れたのです」
さて、信じてくれるだろうか……。
もしダメだったら、今度こそ、みぞおちコースしかない。
「なるほど、そうだったんですね。ご協力ありがとうございました。この辺りは治安が悪いので、くれぐれも気を付けてくださいね。あ、よろしければ、雑技団のところまでご案内しましょうか?」
「え、いいんですか? ありがとうございます!」
何とか怪しまれずに済んだ。
これも日頃の行いがいいおかげかな。
*
(※ナタリー視点)
どうして私が、こんな思いをしないといけないのよ……。
お店の経営状況は、悪くなる一方だった。
焦りや不安は、日に日に大きくなっていた。
こんなはずじゃなかったのに、どうして……。
日頃の行いはいいはずなのに、神様はどうして私をこんな目に遭わせるの?
私が何か、悪いことをしたとでもいうの?
夕飯の時間も、楽しいひと時のはずなのに、悪くなっていく状況をどうやったら変えることができるのか、そのことばかり考えていた。
「どうしたの、ナタリー。何か考え事でもしているの?」
「ええ、仕事のことを考えていたの。今後、どうやって経営していくのか、先々のことをあらかじめ考えておく必要があるの」
「偉いわねぇ、ナタリー。あなたは本当に立派だわ。今月も利益が上がったのでしょう?」
「ええ、そうなのよ。まあ、ほんの少しだけれどね」
私はまた、嘘をついてしまった。
本当は、少し上がったどころか、かなり下がっている。
しかし、そんなことは皆には言えない……。
「本当に、そうなのか?」
お父様の言葉に、私はどきりとした。
え……、まさか、ほんの少し利益が上がったというのが嘘だと、バレたの?
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