第16話

 ついに町に着いた。

 私たちは馬車から降りて、宿屋に入った。

 そして、とりあえず部屋にあるソファに座ってくつろぐことにした。


「あぁ、やっとゆっくりとできますね。なんだか、さっきの兵の方たちとのやり取りで、一気に疲れましたよ。正直、何もかもバレて、もう終わりかもしれないと思いました」


「まあ、確かに少し緊張したわね。でも、バレずに済んでよかったわ」


 さすがにあんな状況のあとだったので、殿下も今は大いにリラックスしている。

 普通に男の部分丸出しだ。

 もちろん、声の高さの話である。


「馬車に乗ってこの宿屋まで来る間にざっと見た感じでは、なかなかいい町みたいですね」


 私は部屋の窓から、外に見える町を眺めていた。


「ええ、そうね。活気があって、にぎやかな町だわ。でも、気をつけないといけないわよ」


「え、何をですか?」


「ほら、御者の人が言っていたでしょう? 町の端の方は、治安が悪いって」


「ああ、そうでしたね。すっかり忘れていました。絶対に町の端の方には、行かないようにしましょう。うっかり治安の悪い場所に入ってしまった、なんてならないように、気をつけないといけませんね」


     *


 (※ナタリー視点)


 さて、新しいお店を建てる場所だけど、幸いすぐに見つけることができた。

 なぜかその辺りは土地の値段も高くないので、迷わずその場所に決めた。

 さっそく、業者に発注して準備を進めた。


 ここ最近は、少しお金を使い過ぎているかもしれない。

 でもそれは、お店を少しでも良くするためだ。

 設備の件は私の不手際だったけれど、おかげで二号店を建てようとすぐに決意できた。

 せっかく新しい設備を注文したのだから、無駄にしたくはなかった。

 設備を返却するのにも、こちらの不手際なのでお金がかかる。

 それなら、新しいお店の設備として使った方がいいに決まっている。


 お店を建てる土地や、建築のために、どんどんお金を使っていた。

 それに、新しい従業員も雇わないといけないから、人件費もかかる。

 確かにお金はかかるが、こんなのは単なる初期投資だ。

 一時的に利益は落ちるだろうけれど、二号店が軌道に乗れば、すぐにペイできる。


 何も、問題はない。

 初めてのことだらけで不安だけれど、きっとうまくいくわ。

 大丈夫、きっと成功する。

 大きなことを始める前には、不安が付きまとうものよ。

 

 こんなことで怯んでいるようでは、経営者は務まらないわ。

 不安に思う必要なんて全然ない。

 気楽に構えていればいいのよ。

 大丈夫、大丈夫。


 問題は、何もないはずよ……。

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